本屋行ったら、どうやら大学の友人がいたかもらしい
変人店長が経営しているコスプレショップを退店した二人は、ルリアの日本慣れも兼ねて、その後もしばらくショッピングモールをぷらぷらと歩き回っていた。
彼女の下着や靴、その他生活に必要なものを買いに行ったり、飲食店で食事を楽しんだりと、とても有意義な時間を過ごしたルリアと凛音。その際に、一般的な私服も買って帰ろうと提案したのだが、洋服に関してはもう十分で、何よりも買ったコスプレの衣装が非常に気に入った為、彼女はそれを断った。
そして、そろそろ帰宅かなという空気が、図らずも二人の間で共有され始めていた頃。何かを思い出したかのようなルリアが、凛音の肩をちょんちょんとつついて口を開く。
「あ、凛音さん。最後に一つだけ……わがままを言っても良いでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
「最後に、その……この世界の書物にだけ触れておきたくて。たくさんのお店が集合しているこの場所なら、書店があるかなと……」
確かに、本にはその世界の文化が詰まっているというのは間違いが無い。それに加えて、ルリアはとても好奇心旺盛な性格をしている為、知らない世界の書物というのが気になるというのは、非常に道理に適っているだろう。
もちろん、このショッピングモールには本屋があり、場所は三階。今二人が歩いているのは二階で、エスカレーターを上ればすぐに辿り着く事が出来る。
「分かった、書店ね!じゃあ、最後にそこだけ行って帰ろうか」
「宜しいのですか!?とっても嬉しいです~!!」
「全然大丈夫。あ、でも……ルリアの世界にある本とは少し雰囲気が違うかもよ?この世界の本は、何と言うか……知識を得る為というより、楽しむ為の娯楽というか……」
「娯楽!!非常に素晴らしいではありませんか!ますます興味が湧いてきました~!」
そう言って、心底嬉しそうに笑ったルリア。どうやら、彼女は本当に本が好きらしい。
「え、ルリアは向こうの世界でも良く本読んでたの?」
「はいっ!幼い頃は、王族教育で無理やり難しい書物を読まされて嫌いでしたが、ある日素敵な物語を執筆なさる作家の本に出会ったんです!!その作家のおかげで、私は本を好きになりました!」
「あ、物語が書かれた本が好きなんだ。それなら、確かにこの世界の本も好きになってもらえるかも!」
いつか、時間が許す限り好きなだけ読書が可能な近くの図書館をルリアに紹介しようと、そんな事を考えながら、凛音は三階の本屋へと彼女を案内した。
*
特段大きくて広いわけでは無いが、周辺であれば一番売られている本の数が多くて種類が幅広いここの本屋。だからこそ、電子より紙派の凛音自身も、この本屋には良く足を運んでいる。
ルリアは、自分の世界では見た事の無い、華やかな表紙の本達を前に、またもや目を輝かせて商品棚一つ一つを物色している。今日一日を通して、そろそろ元の瞳に戻らなくなるのでは無いかと危惧する程、ずっと目を輝かせている彼女だが、この世界に来て二日目で見る物触れる物全てが目新しい為、それも仕方が無いだろう。
そんな、童心に帰って無邪気にはしゃぐルリアを温かい目で見ながら、彼女の後を追い掛けるように歩く凛音は、鼻腔を擽る心地の良い紙の匂いを満喫しながら口を開いた。
「もし気になる本があったら、遠慮せずに言ってね?一人で家に居る時暇だろうしさ」
その言葉に、ルリアは元気良く頷きながら次の商品棚に視線を移す。
しばらくは、本屋の中を探索するように練り歩いていた二人。
そして、入り口付近に設けられている特集された単行本のコーナーに差し掛かろうとした時、凛音の視界の端に見覚えのある何かが映った。
その何かは、すぐに死角へと消えてしまった為はっきりと確認できた訳では無いが、それは銀色の髪を靡かせた何かで──
──……栞ちゃん?
もちろん、銀髪をした他の誰かの空似の可能性もあるし、むしろその確率の方が高い訳だが、あの髪の長さ、質感、一瞬見せた背丈。思いを寄せている人物だからこそ分かる細やかな特徴が、感じた既視感を更に確かなものにした。
一条栞が何故本屋にいるのは分からないが、その理由も含めて興味が湧いた凛音が、その影を追い掛けようとしたその時、特集コーナーを眺めていたルリアが、
「凛音さん!私、この本が良いですっ!!」
「え、あ、ちょっと待ってね──ッ!」
お気に召した一冊を手に持った彼女。
凛音は、栞に似た誰かを追い掛けようと、それを一瞬見てこの場を離れようとした。しかし、その本を見た一瞬で、彼の思考の全てが吹き飛び、呆然とその場で立ち尽くした。何故なら──
「その本って……」