コスプレ専門店の店員と、どうやら連絡先を交換したらしい
ペコリと軽く一礼して、後の事は意気投合した女性二人に任せる事にした凛音。
結果的には、さっきのメイド服の他に、もう一着のメイド服、セーラー服、チャイナ服、ナース服、巫女服という、世界観の統一など皆無の衣装を購入する事にした。
「お会計……四万八千円です!」
「おぉ……結構いきましたね。まぁこれだけ買えば、妥当と言えば妥当か……」
「あの……この世界の通貨単位について、正直全く分かっていないのですが、その……きっと、安くは無いお値段なのですよね?」
価格を見て少し驚いた凛音の表情を見て、ルリアはとても申し訳無さそうにそう聞く。
「う~ん……まぁ、安い……って言ったら噓になるけど、これはほら……お祝いだから」
「お祝い……ですか?」
「うん。ルリアが、この世界に来た記念。だから、気にしないで?」
隣で申し訳無さそうに佇む王女にだけ聞こえるよう、そっと耳打ちした凛音。
最初こそ、心もとなさそうな表情を浮かべていたルリアだったが、次第に可憐な笑顔を取り戻すと、
「……はい。凛音さんがそう仰って下さっているのに、私がいつまでも気に病んでいたら、それこそ失礼ですね。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
そこまで言うと、唐突に一歩、凛音から距離を取るように後ろへ下がったルリア。
そのまま、腰が直角になっているんじゃないかと思う程、深々と頭を下げて、
「とてもお優しい凛音さんに、心からの感謝を。本当に……本当に、ありがとうございます」
「……うん、そう言って貰えたらお釣りがくる」
ルリアのお礼に、柔らかな笑みで返す凛音。一介のコスプレショップに生まれた、陽だまりのような暖かいその空間。
そして、鞄から財布を取り出し、お会計を済ませようとしたその時、その暖かさに中てられた先程まで黙っていた人物が、満を持して口を開いた。
「んんんんんんっ!!!良い!とても良い!!何と言うか、上手く言葉に出来ないけどとても良いです!!!……ルリアさんの為に購入するこの衣装達、私自身の趣味も入っているので半額で大丈夫ですよっ!」
「え!?半額!?いや……それはさすがに悪いし、そんな事勝手にしたら店長さんとかに怒られますよ……」
「あー、それなら大丈夫です!店長私なので!」
「……え?」
「え?」
もしこれがアニメなら、木魚の三拍子が聞こえたであろう沈黙が降りかかる。
別に全然その可能性もあった訳だが、何故かこの人は店長では無いと認識していた凛音は、驚きのあまりじゃっかん後ずさりながら、
「えぇ!?あなたが店長だったんですか!?」
「そうですよ……?あ、申し遅れてすみませんでした~!」
「そ、そうだったんだ……てっきり、アルバイトさんか何かかと……」
「え、待って、もしかして今私……物凄く失礼な事言われてます?」
「あー、違います違います!良い意味で!」
「あ、良い意味ですね!なら良かったです!」
どうやったら良い意味で解釈できたのかは置いといて、何とか誤魔化す事に成功して安堵の溜息を漏らす凛音。そして、一度咳払いしてから、
「でも、半額は本当に申し訳ないんで大丈夫です」
「う~ん、とっても律儀な方なんですねぇ……あ!それでしたら、二つ条件を提示しますので、それが可能であれば……というお話でいかがでしょう!」
「条件ですか……?内容にもよりますが、それならまぁ……」
「では、条件一つ目!これからも、時々で良いのでウチの店でお買い物してください!サービス価格でお安くしますからっ!」
さすが、腐っても商売人といった所だろうか。次に繋がる約束を、条件として提示した女性店長。しかし、それには特に強制力なども無い為、凛音は一旦承諾する。
「では、お次に二つ目!ぜひルリアさんと、連絡先を交換させてください!!」
「ルリアの連絡先……ですか?それはまた、どうして?」
「今日買ったコスプレを着てる写真を送って貰いたいんです!!あ、別に、勝手にそれを使ってSNSで宣伝しようとかじゃ無いですよ?完全なる趣味なのでご安心くださいっ!」
そう言って、親指を立てながらグットポーズをする。
もはや、SNSで宣伝する為と言われた方が遥かに安心できるのだが、これに関してはルリアが許可を出した為承諾する事にした。
「ただ、ルリア日本に来たばかりでまだ携帯を契約していないんです。なので、俺の携帯からになりますが、大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です!では……インスタグラムのIDを教えて頂けますか?」
自身のIDを口すると、彼女がそれを入力し終わったタイミングで、インスタの通知欄にフォロワーが増えた事を伝える通知が表示された。
そのアカウントを画面に映し出して、その女性店員のアカウントか本人に見せて確認を取る。
「これで合ってますか?」
「あ、それです!本名を橋本笑って言います!よろしくお願いしますね!」
お互いの連絡先が交換できた事を確認すると、レジに表示されている金額を修正して、本当に半額に直した彼女。
凛音は、表示された金額を財布から取り出しながら、
「まだ申し訳無さが勝ってるんですけど……本当に良いんですか?」
「もちろんです!それに、きちんと条件を呑んでもらっているので、これは公平な取引ですよ!お気になさらず!」
その言葉を聞いて、改めてお礼を言った凛音、それに続いて、ルリアも頭を下げながらお礼の言葉を口にした。
会計後も、懇切丁寧に見送りまでしてくれた彼女。店舗から二人が出る時、ドアに付いている鈴の音に負けず劣らずの声量で、
「素敵なお客様方ありがとうございましたー!!!またお待ちしてます!!」
そう挨拶して、二人の姿が見えなくなりまでお辞儀をし続けた。