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変人コンビは、どうやら個性を裏切るらしい

 ちょっと変な女性店員が、自信満々でまず二人を案内したのは、ロリータ系統の衣装がズラッと並んでいるコーナーであった。


 その中の一つを手に取って、ルリアの眼前に広げて見せる。


「まずは、これなどいかがでしょうか!元々異国感の漂うお客様には、ひっじょ~うにお似合いだと思います!!」

「これは……メイド達の正装でしょうか……?これを……わたくしが?」


 そう言いながら、黒を基調とした布地に白のエプロンを掛けた、メイド服らしいメイド服を眺めて首を傾げたルリア。まぁ、この反応も当然だろう。異世界の王女である彼女にとって、自身に仕えるメイドの服をわざわざ着るというのは、いささか理解の出来ない事だからだ。


 しかし、もちろん店員がそんな事情を知るよしも無く、微妙な反応で聞き返すルリアに、全力でブンブンと首を縦に振りながら、


「はい!そうです!!確かに、お客様の雰囲気的に、貴族コスの方がイメージには似合うかもしれません!」

「えぇ、その通りですから」

「しかぁし!!!!」


 突如、握り拳を前に突き出して、目をガン開きにしながら言い放つ店員。


 ルリアと、ついでに後ろで聞いていた凛音の肩が、驚きでピクッと跳ね上がる。


「しかしですよお客様!!それでは、良くも悪くも裏切りが無いのです!!イメージ通り過ぎるのです!!コスプレとはつまり、個性の解放!!個性を曝け出すという事は、年季の入った自身を裏切り新しい自分を見つけるという事!そう!つまり裏切りなのです!!」


 客である二人を完全に捨て置いて、一人で猛烈な熱弁を振るったその女性店員。


 それを聞いてもなお、イマイチ意味が分かっていない凛音。ルリアの方を向いて「違うと思うなら、他の選んでもらいな?」と、そう言おうとしたが、意外にも彼女は、ふむふむと軽く頷きながら、


「なるほど……個性の解放は裏切り、ですか。貴方、非常に興味深い事を仰いますね……」

「いえ、恐縮で御座いますお客様……」

「え、興味深い……?もしかして、この場で意味が分かって無いの俺だけ!?」


 何故か妙に理解を示した彼女に、愕然としながらもはや自身の感性を疑い始める凛音。


 店員は、まるで王に献上物を捧げるかのように、頭を下げながらメイド服を上に掲げる。


 ルリアは、それをゆっくりと手に取って、


「確かに……試しもせず忌避きひするのは、私が非常に保守的な考えを持っている何よりもの証拠。それでは、古き考えに固執して他の者の声を聞くことの出来ない愚者ですわ。私が浅はかでした。この非礼、謹んでお詫び申し上げます」


 日本で行われている会話とは思えない文面で、Tシャツの裾をちょこんと持って、頭を下げて見せたルリア。彼女が何を言っているのか、とうとう全く分からない凛音だが、下着が見えそうだった為、とりあえず視線だけはズラしておいた。


 謎に清々しい表情をしながら、意思を通じ合わせている女性二人。


 どちらからともなく同時にコクリと頷くと、


「試着……させて頂けるかしら?」

「もちろんです。こちらへどうぞ……」


 そのまま、ルリアは店員に案内される方向へと歩き出した。


 自分にはあまりにも最先端過ぎる会話に、軽く溜息を吐いた凛音。もう思考を辞めて彼女達に付いて行こうとしたその時、ふと背後から視線を感じ取って反射的に後ろを振り向く。


 しかし、そこには誰もいない。だが確かに感じ取った違和感に、凛音は一人でに首を傾げた。


 すると、そんな様子の彼を不思議に思ったルリアが、


「どうかしましたか?凛音さん」

「え、いや……ううん。何でもない」

「そうですか……?ではでは!私の今までを裏切った新たな個性!お楽しみに待ってて下さいね!」

「う、うん……っあれ~?何か誰かに見られてる気がしたけど、気のせいだったのかな……?」







 ルリアが試着室に入ってから数分が経過し、凛音が何かの視線を感じた事など忘れ始めた頃。


 彼女がメイド服の着用を完了したらしく、着替えるのを手伝っていた店員が、一足先に試着室から出て来た。


「でへ……でへへへへ……可愛い……可愛すぎる……じゅる」


 絶対に外で見せてはいけない顔で、よだれをすすっている店員。


 凛音からの冷ややかな視線に気が付くと、一度咳払いして笑顔で口を開いた。


「彼氏さん……彼女さんのメイド姿、半端ないですよ!この世の物とは思えないくらい可愛いです!これは……」


 言いながら、店員は凛音の耳元に口を近付けて、内緒話をする時のような仕草で、


「今日の夜は……凄い事になりそうですねっ!」

「……え?今日の夜?」


 一瞬、本当にこの女性が何を言っているのか分からなかった凛音だが、すぐにその意味を察すると、顔を真っ赤に染め上げて、


「な……ッ!!あんた何言ってるんですか!?セクハラですよ!?てか彼女じゃ無いし!!」

「え、そうなんですか~?でもルリアさん、一緒に住んでるって言ってましたよ~?」

「いや、まぁ……間違っては無いけども……」

「……ハッ!付き合ってはいないけど同棲!?イコール禁断の関係!?」

「違うから!!ただ昨日拾って──」


 そこまで言った所で、自分が余計な事を口走りそうだったのに気付き、すぐに口を噤む。


「拾って……?」

「と、とにかく!!そういう関係性じゃありませんから!ていうか、着替え終わったんですよね?」

「はい!それはもうバッチリに!……早く見たいですか?」

「ま、まぁ……そりゃ」

「ですよねー!それでは、早速出て来てもらいましょうか!ルリアさん!試着室のカーテン開けても良いでしょうか?」


 その質問に、少しだけ間を開けて「はい!」と答えたルリア。


 その返事を確認した店員は、試着室の前で片膝を付くと、何とも仰々しくそのカーテンを開いた。


「こちらが、ルリアさんの素敵な素敵なメイド姿で御座います!!ご覧くださいっ!」

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