エッチな彼シャツを着ている王女と、どうやら手を繋ぐらしい
凛音がルリアのお風呂上りに遭遇してしまった後、しばらくは何とも言えない空気感に包まれていた二人。
しかし、それも束の間。携帯を渡して、インスタグラムで様々な洋服の写真を見せていたら、彼女のテンションはどんどん上がっていき、今ではすっかり元通りとなっていた。
そんな彼らだが、現在少し電車に揺られた先の、最寄りから三駅ほど離れた中型のショッピングモールに足を運んでいる。理由はもちろん、今朝した約束を果たす為。
先に、小走りでショッピングモールの中に入ったルリアは、後から入ってきた凛音の方にくるっと向き直ると、
「凛音さんっ!!あの電車という乗り物も凄かったですが、この場所も凄いですね!!建物が大きいし、何より人がたくさんいます~!!」
はしゃぎ過ぎて周囲の数人から視線を向けられているが、特に気にする事無く無邪気な笑顔でそう言ったルリア。
凛音は、そんな彼女の様子に、初めてデパートに来て喜んでる小さい子供みたいだなと、そんな感想を抱きながら口を開く。
「迷子になると大変だから、あんまり俺から離れないようにね~?」
「もうっ!凛音さんったら、私は右も左も分からない幼子ではありませんよ?……と言いたい所ですが、さすがに知らない世界の知らない土地で一人になるのは怖いので、凛音さんの横にぴったりくっ付いていますね!」
そう言って、駆け足で凛音の元に戻ってくると、彼の横のスペースにちょこんと収まって、そのまま左手を差し出した。
彼女が差し出したその左手を見つめて、きょとんと首を傾げる凛音。
「……?どうかしたの?あ、お金?大丈夫大丈夫。ルリアまだこの世界慣れて無いし、お会計とかは俺がやるからさ」
気を利かせたつもりで、にこやかにそう言った凛音。
しかし、それを聞いたルリアは、少しだけ頬をぷくっと膨らませて、唇を尖らせながら口を開く。
「むっ……違います!金銭を要求している訳ではありません!もうっ!私の事を何だと思っておられるのですか!」
「……えっと、転生して来た王女で……家無し文無しの異世界人……?」
「……ッ!ひ、酷いです凛音さん!何も間違って無いのが、なおさら酷いです……!」
「何も間違って無いなら酷くはないんじゃ……?」
ルリアの言葉に、困惑気味な表情を浮かべてそう言った凛音。
「と、とにかくです!私は金銭を要求したい訳ではありません!」
「じゃあ……この手は……?」
「私の口から言わせるのですか?……その、凛音さんが仰ったのではありませんか……『俺から離れるな』って……」
ほんの少し照れたような様子で、そう言葉にしたルリア。
それでもなお、あまり意味が分かっていない凛音は、その言葉の真意を聞き返そうと口を開いた。
「え、うん……離れたら迷子になるかもって思ったから言ったけど、それが何────あっ」
そこまで言った所で、彼はやっとルリアの行動──差し出された左手の意味を理解する。
そして、手持無沙汰にぷらぷらしている自身の右手を軽く服で拭って、そっと彼女の右手を包み込んだ。
「こ、これで……あってる?」
「はいっ!これで、凛音さんが私の手を離さない限り、私達がはぐれる事は無いですねっ!」
満足気に頷いて、楽しそうに笑うルリア。
そんな彼女の様子に、凛音の心はくすぐったいような感覚を覚えて、口を噤んでしまう。
──こうしてると、何だかカップルみたいだなぁ……
もちろん、生きてる世界も立場も、そうじゃなくたって容姿的な面でも、彼女と自分では全く吊り合っていない事など重々承知している。だが、絡ませ合っている繋がれた二人の手を見て、そう思ってしまったのだから仕方が無い。
しかも、それに加えてルリアが今着ている服も、カップルとしての雰囲気を大いに助長させている。
あまりにも目立ちすぎる為、ドレスを着用して外出する訳にはいかないという事で、凛音は自分の持っている白のTシャツを彼女に貸した。
しかしそれは、当然と言えば当然だが、二人の圧倒的な身長差的にルリアが着るとぶっかぶかで、所謂彼シャツ状態なのだ。その上、彼女的に下着が見えなければそれで良いらしく、着用しているのは上下の下着と凛音のシャツ一枚で、それ以外は何も着ていない。
露出された白い足と、風が吹けば捲れてしまいそうなスカート代わりのぶかぶかなシャツ。だが、シャツの胸元だけはぎゅうぎゅうで生地が伸びてしまいそうという、男のロマンが詰まった完全なる彼シャツ状態のルリアを改めて眺め、彼女の手を握る凛音の手は、無意識に少しだけその強さを増していた。
「……凛音さん?どうかしましたか?」
自身の手の締め付けが少し強くなったのを不思議に思い、小首を傾げたルリア。
凛音は、すぐに彼女の顔からサッと視線を外して、
「え?あ、いや……何でもないよ」
「そうですか……?」
あまり釈然としない様子のルリアだが、ふと視界に入ったある一軒のお店に興味を抱いて、感じていた疑問はすぐに空気へと霧散した。
「あ!!あそこ見て下さい!!私、あのお店から可愛いの波動を感じますー!!」
「可愛いの波動……?それは──」
「早く行きましょ!!可愛いが私を呼んでおります!!」
瞳を輝かせているルリアは、彼の言葉を遮って、握っている手をぐいっと引っ張った。
そんな、言葉よりも体が先に動いている彼女に、半強制的に急かされた凛音は、置いて行かれないよう同じように小走りして、
「ちょ、ちょっと待ってルリア!!そんな急がなくても、お店は逃げないから!!」
「お店は逃げなくても、可愛いは逃げてしまうかもしれませんから(?)!!」