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ダンボール箱に入った王女様が、どうやら捨てられてたらしい

「あぁぁ……もう、飲み過ぎた……気持ち悪い……」


 深夜の住宅街を、フラフラと覚束ない足取りで歩く男は、胃の中で暴れ回るアルコールを抑える為腹を擦りながら、帰路の途中にあるコンビニを目指す。


 千鳥足で、ゲッソリとした表情を浮かべているこの男の名前は、南凛音みなみりおん


 平均的な偏差値の文系大学に通う二年生で、年齢は二十歳。


 大学に入ってからずっと染めている茶髪以外は、容姿も個性も──人生も、ごくごく普通な日本人。例外的に普通では無い部分を言うならば、親に有名な小説家の父と、非常に優秀で容姿の造りも良い妹弟きょうだいを持ってしまっている事だろう。


 そんな、比べると自分があまりにも惨めに感じる親兄弟から逃げるように、凛音は家から遠い大学を選び、今は独り暮らしをしている。


「あーもう……人数合わせとは言え、意味分かんない合コンに行くんじゃ無かった……二次会は、それぞれの男女でって……大体、男が奇数になるなら人数合わせいらないじゃん……」


 回ったアルコールで纏まらない思考の中、今日の合コンの不満を漏らす凛音。


 散々お酒を飲まされて盛り上げ役に徹した挙句、自分以外の男女はそれぞれで二次会に行ってしまった為、溜息を吐いてしまうのも仕方が無いだろう。


「はぁ……この押しに弱い性格、どうにかしないとなぁ……」


 頼み込まれて行きたくもない合コンに行ってしまった後悔と、そんな断れない性格の自分に嫌気が差して、口から漏れ出す溜息は止まる事を知らない。


 そんな事を考えていると、いつの間にか到着していた目的のコンビニ。


 中に入って、明日の講義に支障をきたさないようヘパリーゼと、お気に入りの天然水、そして電子タバコのフレーバーを一箱、レジに持っていく。


 それ等の会計を済ませて、そのまま自宅への帰路に就こうとした時、


「……にゃーお」


 ふと鼓膜を揺らした猫のような鳴き声。


 どっかの野良猫が鳴いているのだろうと、特に気にも留めず帰ろうとしたが、もう一度更に大きな鳴き声が凛音の後ろから発せられる。


「にゃーお、にゃーお…………シャー!!」


 急に威嚇してきたその猫。


 流石に気になった凛音は、踵を返してその猫の方に体を向けた。


 そして、その視界に映ったものは、大きめの捨てられた段ボール箱と、大きめの金色な猫──


──……ん?猫?何か……デカすぎない?


 もう一度、目を擦ってしっかり見てみる。


 大きめの捨てられた段ボール箱と、大きめの金色な……人。それも、女の子。


──え、女の子?いやいや、こんな深夜のコンビニの駐車場に、段ボール箱に入った女の子がいる訳……


 先程までより回っているアルコールで、思考力が激減している脳内。


 途切れ途切れの何とか保っている意識で、これは酔っている故の幻覚だと自分に言い聞かす。


──いくら合コンで惨めな思いをしたからって、捨て猫が人間の、それも女の子に見えるなんて……さすがに酔っぱらい過ぎだぞ俺……


「……にゃーお、にゃーお。酔ってるからじゃ無いにゃーお」

「いやいや、さすがに酔っぱらってるって…………ん?」

「貴方が見えてるのは、捨て猫じゃ無くて人だにゃーお。それに、ちゃんと女の子だにゃーお」

「心が読まれてる!?!?」


 人の言語を話す猫──いや、もうここまで来たら疑う余地も無く、人の言語を話す人に、驚き過ぎて声にならない叫び声を上げた凛音。


 しかし、そんな彼を他所よそに、段ボール箱に入った女の子は口を開いた。


「気付いたら、知らない世界に来てたにゃあ。捨て猫ならぬ捨て王女、拾ってほしいにゃあ」

「……は?知らない世界?捨て王女?ちょっと待ってどういう事……」

「あ、失礼しましたにゃあ。わたくしの自己紹介がまだでしたにゃあ」


 全く追い付いていない凛音の思考など露知らず、そう言いながらゆっくりと段ボール箱から出て来たその子。


 美しい金髪と豊かに実った双丘を揺らしながら、纏っているドレスの裾をちょんと持ち上げて、深々とお辞儀して見せた。


「お初にお目にかかります。グロリオサ王国から転生してきました、グロリオサ王朝第一王女。名前をエレオノール=グロリオサ=ルリアーノと申します。以後、お見知りおきを……にゃあ」


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