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2話:謎と余命

小鳥のさえずりが、まだ冷たい朝の空気を震わせていた。

今日はいよいよ、長谷高校の入学式だ。


中学三年の春、僕を救ってくれたあの人を追いかけ、この学校を志した。ようやく夢は叶った。胸の奥が高鳴り、自転車のペダルを知らず知らずのうちに強く踏み込んでしまう。

(どんな自己紹介をすればいいのだろう。格好をつけるべきか、それとも目立たぬように……)


考えごとをしているうちに、校舎が視界に入った。


(やっぱり古いな)


創立152年を誇る建物は、歴史を刻んできた分だけ傷みも深い。けれども、僕にとっては新しい世界の門出だ。

(ここから、僕の青春が始まるんだ)


門をくぐると、先輩たちが談笑しながら登校していた。男女の距離も近く、あたりに明るい声が溢れている。


(羨ましい……いや、妬ましい……)


複雑な感情を抱えながら立ち止まっていると、聞き覚えのある声が響いた。


「隆誠、おはよう」


振り向けば、中学からの友人・中村悠翔がいた。彼とは数えきれないほど馬鹿なことをしてきた仲だ。


「隆誠は三組、俺は一組か。」

「同じになれなかったな。」


少し肩を落としながらも、気心知れた友人の存在に安堵する。


「そういえば――あの人には会えたのか?」


胸の奥にしまい込んでいた記憶を、悠翔の一言がそっと引き出す。あの人とは僕を救ってくれた先輩のことだろう。


「まだだ。」


言葉にした途端、胸の鼓動が速くなる。その時見覚えのある後ろ姿が目に映った。


「……あ」

「どうした?」

「あそこに……あの人が。」


その一瞬で、全身が熱くなる。だが彼女はすぐに教室へ消えてしまった。見れただけでも幸せだ。早く会いたい気持ちが高まった。



自己紹介の時間。僕は「趣味は読書です」とだけ述べた。華やかな言葉を口にする者もいれば、淡々と終える者もいる。教室の空気の中で、目に見えぬ序列が少しずつ形づくられていくようだった。


けれど僕の心は上の空だった。――どうしても、彼女に会いたい。


下校時、僕はすぐに昇降口で彼女を待った。人混みの中、ただ一人、光を放つような存在を見つける。


(やっと……!)


勇気を振り絞って近づこうとした瞬間、目が合った。だが彼女は一度も言葉を交わさず、僕から逃げるように駆け足で遠ざかっていった。

 (なんで・・・。)


胸の奥に冷たい穴が空いたようで、僕はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。



翌日、あの時の光景が頭から離れず授業なんて全く耳に入ってこなかった。そんなとき教室の前方から凛とした声が響いた。


「俺、大沢昂。水泳部に入ろうと思ってる。よろしく」


一人ひとりに声をかけて回る彼の姿は、陽光のようにまぶしかった。やがて僕の番が来る。


「俺、大沢昂。君は?」

「那珂川隆誠。よろしく。……すごいな、一人ずつ声をかけられるなんて。」


「えーっと那珂川 隆誠、よろしく。すごいね。一人一人に話しかけれるって。学級委員とか狙ってる?」

「あーあったらやろうかな。クラスを、まとめるの好きだし。」

 彼の笑顔に、教室の空気さえ明るく照らされる気がした。何かあったら彼に頼ろう。



それでも、心の奥の影は消えない。しかしこれ以上落ち込んだって意味がない。僕は昼休みに上級生ので廊下に行き、そこにいた女子の先輩に思い切って話しかけた。

 

「す、すみません。むかし会った人を探してて。目が大きくて、長い髪の、とても綺麗な人で」

「ああ、それなら――美川瀬那さん?」


見せられた写真に、息を呑んだ。そこに写っていたのは、紛れもなく“あの人”だった。

「そうです!その人です!」


「最近、あまり学校に来てないのよ。様子もおかしいし。」

なんとなく予想していた言葉が胸に刺さる。僕を避けていたしなんかあったんだろうな。思ったより深刻そうだ。

「そうなんですか・・・答えてくれてありがとうございました。」



それからの一週間、彼女を探し続けた。けれども姿は見えず、そう簡単にはいかなかった。諦めかけた頃――かつて出会った公園を思い出す。願いながら僕は公園に足を踏み入れる。


身を潜めて覗くとベンチに座る制服姿。近づけば、やはり美川先輩だった。


「こんにちは 美川先輩。」


振り向いた彼女は、怯えたように体を震わせた。


「……どうしてここに?学校は?」

「サボりました。先輩に会える気がして。久しぶりですね」

「……受かったんだね」

「はい。先輩のおかげです」


しかし彼女は俯き、かすかな声で告げた。


「……急で申し訳ないんだけど。私とは、もう仲良くできないかも。」


「え?まっ待って。何があったんですか。」

 しかし僕の言葉には一切反応せず歩き続ける。

「なんで・・・」

 

僕はその背中を、ただ見送るしかなかった。



それから数週間は放心状態からだった。ずっと追いかけていた人から拒絶されるのはショックが大きかった。ある昼休みの教室で、思いがけない言葉を耳にする。

 

「ねーねー3年生にさぁめちゃめちゃ可愛い人いない?なんだっけな美川瀬那だっけ?」

 なんとある男子が美川先輩の話しを出してきた。

 

「あー美川先輩ね。あの人中学同じ部活だったよ。凄いモテてたわ。」と昂がそんなことを呟いた。

「まじ?その人のこと結構知ってる?」と思わず勢いよく乗っかってしまった。

「隆誠も知ってるのか?なんだ気になるのか。」

 

「ちょっとした知り合いで。」

 

 あまり知られたくなかったので全部は言えなかった。


「ねぇあの人なんか最近様子がおかしいんだ。昂なんか知らない?」

 ここは聞くしかないと思ったので立て続けに質問した。


 「ここだけの話なんか親から聞いたんだけど思い病気にかかってて余命、一年だって....。」

 

「え?・・・まじ?」


  驚きすぎて言葉が出ない。

その瞬間だけ世界から音が失われていた。

 

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― 新着の感想 ―
ようやく同じ高校に通えたと思えば、 唐突の拒絶、これはへこみますね。 更には彼女は病気、これはもっとへこむ。 でもこのままでは終われない。 主人公にはなんとか頑張って欲しい。
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