1話:救いのメモリー
合計点348点。偏差値52。
凡庸な数字に、思わずため息が漏れた。
第一志望にはあと8足りない──遠い。いや、届かない。そんな現実が胸にのしかかる。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
落ち込んでうつむきながら歩いていると、澄んだ声が耳に届いた。顔を上げると、目の前に一人の女子高生。
驚くほど綺麗で、吸い込まれるような存在感だった。
「すごく暗い顔してるけど、何かあった?」
「……え、えっと、はい。模試の結果がダメで……第一志望に受かる気がしなくて。」
こんなこと知らない人に言うのに少し戸惑ったが可愛いぎてつい言ってしまった。
「あー、よくあることだよ。でも、勉強が全てじゃないんだから、もっと気楽に生きなよ。」
その軽い言葉に、心がざわついた。
気づけば、口が勝手に動いていた。
「いいですよね……。勝ち組は楽して生きていけるんですから。」
言うつもりなんてなかった。
ただ、自分とは大違いな彼女の外見と、人を自然に励ませる姿に、羨望が募って溢れた。
「それは違うよ。」
彼女の声が少しだけ鋭さを帯びた。
「才能がある人だって努力してる。あなたが勝手に決めつけて、努力を諦めてるんじゃないの?」
「僕だって……!」
そんなんじゃない!声が震えた。胸が熱い。
「辛い思いをして、どれだけ泣いて、どれだけ苦しんできたと思ってる!それでも……僕はコツコツやってきたんだ!」
いつの間にか僕が悪役みたいになっていた。本当はわかっていた。才能のせいにして逃げていたことを。涙がにじむ視界の向こうで、彼女は静かに頷いた。
「……そうなんだね。私も同じだった。悔しくて、苦しくて……でも最後までやり切った先に見えた景色は、本当に美しかった。生きててよかったって思えたんだ。だから──信じて努力して。」
「なんで、そんなこと……」
「私も同じ思いをしてきたから。才能のある人が嫌で仕方なかった。でもね、未来は変えられるんだよ。苦しみを味わっても、それを超えた先にきっと光がある。高校に入ったら、きっと天国が待ってる。今の私がそうだから。」
ふっと、眩しい笑顔を見せる。
その笑顔は、僕の心に焼きついた。
僕が今まで見てきた中で一番美しい笑顔だった。
「僕でも……できるんですか?」
「もちろん。だから待ってるよ。」
胸の奥で、何かが弾けた。
──この人についていきたい。自然とそう思った。
「だから、目の前のことを頑張って。Just do it!」
彼女はそう言ってかばんから小さなストラップを取り出し、僕の手に握らせた。
「ほら、お守り。受かりますようにって。私が高校受験に使ってやつ。」
黄色いひよこに「合格」と書かれた、可愛らしいストラップ。
「じゃあね! 頑張れ、少年!」
そう言って手を振り、彼女は去っていった。
「は、はい! 頑張ります!」
思わず声を張り上げていた。
──ピピピピピ。ピピピピピ。
目が覚めた。アラームの音だ。
またあの夢を見ていた。
中学三年のあの日から、忘れられない記憶。
「Just do it」──あの言葉は、今でも胸の中で生きている。
彼女のおかげで、僕は努力を続けられた。
そして奇跡のように倍率が低く、第一志望に合格できたのだ。通知を手にしたとき、自然と涙が溢れた。
(やっと……やっとあの人に会える!)
嬉しさのあまり、枕を抱えて振り回す。
春はすぐそこに来ている。




