ついでに言うなら味も絶品
「これでヨシ、と」
大学生になり一人暮らしを始めた青年は荷解きを終えてそう独り言ちた。まだまだ段ボールに詰められたままのものも多いが、とりあえず今日寝るくらいのことはできる。
「さあて、と。晩飯どうしようかな」
時間を確認した青年は腹をさすりながらそう言った。昼も抜きで作業をしていたのでさすがに空腹も限界である。
その瞬間である。
妙に生暖かい風が吹き、背骨が凍るような悪寒が走る。そして地の底から響くような不気味な声が聞こえてきた。
『うら……めしや……』
青年は恐る恐る声のしてきた方へと顔を向ける。そこには血の気のない顔をした影のない不気味な男が立っていた。
幽霊だ。
青年はなぜそんなものが現れたのかも分からず、そしてそんな理由も考えずに大急ぎで逃げ出し、近所に住んでいる友人の家へと駆け込んだ。
青年の話を聞いた友人は頷くと、一緒に青年の家へとついてきてくれた。
「なんだ、なにもいないじゃねえか」
「あれ……でもたしかにさっきは……」
青年は首を傾げるが、そこには幽霊がいたような気配など欠片もない。担がれたと思ったのか友人は少しがっかりしたような表情をしていたが、すぐに気を取り直す。
「そういや晩飯まだだろ? このアパートの裏に学生証提示で大盛り無料、唐揚げまで付けてくれる飯屋があるから行こうぜ」
友人がそう言うと同時に、またあの声が聞こえてくる。
『だから裏の飯屋って……言ったのに……』