ドラゴンフライ27
一度冷静さを失った人間には、軍人が何で銃を撃ち、前の人達が足を止めているのかを理解する事も出来ないし、しようともしない。
目の前が崖だったとして、それを叫んだとしても、冷静さを失った者達は、前に進むのを止めたりしない。
「お前等……!!!!」
列を崩した民衆を、羊の群れを整える牧羊犬のように威嚇してやろうと、銃口を……
「下げろ!!!!」
「しかし!!!!」
「あっちの怪物に向けろ!!!!」
「……了解!!!!」
あまりの我儘な態度に、怒りを感じた兵士が、銃口を向けて恫喝しようとしたが、それを指揮官が許さない。
「広報しろ!!!!下手に嘘を言うと、余計に混乱する!!!!敵が来ているから、建物に避難するように指示を出すんだ!!!!」
「了解!!!!」
嘘を言っても仕方無いが、さすがにオウムガイみたいな怪物が来ていると言っては混乱するので、敵という表現を使う。
『皆さん!!!!我々は今、敵と交戦しています!!!!皆さんは、至急、建物に避難して下さい!!!!繰り返します!!!!我々は今、敵と交戦しています!!!!皆さんは、至急、建物に避難して下さい!!!!』
スピーカーを通しての広報は、効果があった。
滞っていた流れの中に、建物の方へと向かう流れが生まれ、それが次第に本流となる。
新たな動きがある事に、イラついていた者達も流れに沿って動き出すのだが、
「あれは何だ?」
「おいっ!!!!早くしろ!!!!」
場の混乱が少し収まったからこそ、怪物が向かって来ているのに気付いてしまう。
『落ち着いて、建物の中に避難して下さい!!!!建物の中に入った人は奥に行って!!!!立ち止まらないで!!!!』
それは電車に乗り込んだ人が、自分は乗れたからと、安心して足を止めるように、建物の中という安全な場所に入れた者達が足を止めてしまう。
「くっ……状況は!!!!」
「撃ち続けています!!!!」
先程も行ったが、建物の中へのルートは出来上がっている……が、時間が足りない。
まだ建物に逃げるという流れは、支流なのだ。
本格的に建物の中に逃げ込むという状況になるには、しばらく時間が掛かる。
「民間人の身動きが取れていない!!!!何でも良い!!!!追い払うだけで良い!!!!絶対に近付けさせるな!!!!」
「全員きばれぇぇ!!!!!!撃ち続けろぉぉぉぉぉ!!!!!!」
『『『『『バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ!!!!!!!!!!!!』』』』』
咆哮に応えるように、兵士達の銃口から火花が上がる。