ドラゴンフライ25
恐怖ではない……武者震いだ……これから起きる事を体が感じ取っている……のに、
(どうしたら良いんだ…………)
まだ、自分だけ訳が分かっていない……体は、これから起きる事を最高の時になると、分かっているのに……自分は……
「任せてくれよ……」
「えっ……?」
「お前が次にトリガーを引く時は、俺が最高の場所に連れて行ってる」
「それは……信じてるよ……」
「いや、お前は信じていない……お前の銃の腕は、天下一品だよ……だから無意識に、俺の中途半端な操縦に反感を覚えていたんだよ」
「…………」
「別によ……命を惜しんでいた訳じゃない……兵士として、パイロットとして……こぅ……上手くやるというのとさ……個人で好き勝手にやるのは話が違うじゃん?」
「……そうだね」
『ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!ピー!!』
D兵器の計器が叫ぶ、もう限界が来ると、これ以上は危険だと叫ぶ。
「好きな方を選んで良いぞ?このまま逃げたって良い……その時は、俺しか乗っていないって話にすれば……」
「僕は、まだまだだね……」
四号機のパイロットの体の震えが止まる。
「体は……あの状況でも、オウムガイの怪物を潰せると言っていたけど、まだまだ経験が足りない……」
「そっか……それじゃあ、経験を積みに行くか!!!!」
「頼むよ!!!!」
『ギュゥゥゥゥィィィィィィィィィィ!!!!!!!!』
五号機のパイロットが、レバーを思いっ切り傾けると、D兵器はそれに応えるように背面飛行になる。
最大速度で飛ぶ事によって、右に膨れて逸れるという事は、背面飛行になって180度回転して飛ぶという事は……
「最高の場面は一瞬だ!!!!」
「決めてみせるよ!!!!」
________
『どこに行ったのやら……』
自分に追い付こうとしたのか、ドラゴンを模した兵器は加速したのだが、明後日の方向に飛んで行ってしまった……どう考えても銃弾が当たらない距離へと。
『事を急ぎ過ぎるから、そうなる』
D兵器の不調は、オウムガイの怪物も感じていた。
マナの循環が上手くいかずに、変な所で溜まり、マナが循環せずに、足りなくなっていた。
あれでは飛ぶだけでも難儀すると思ったが、
『ふふっ……良い腕をしていたのにのぉ』
それでも、追いすがって来ていたのは、間違い無く天才的な腕であった。