ドラゴンフライ23
二人の技量は、システムに組み込まれる程に腕が良く、俗にいう天才、才能を持つ者であった。
(狙えている……問題は、獲物がこちらを察してしまう事……)
四号機のパイロットは、トリガーに掛ける指から力を抜く。
狙った所に撃つ事は出来るが、オウムガイの怪物は、こちらのマナを感じ取ってしまう。
今の奇襲の一撃は当たったものの、致命傷になっていない。
(理屈は分かる……森の中に隠れている獣を撃ち抜くように……だけど……)
そんな森の中で、獣を撃ち抜くような経験は無い。
あるのはシミュレーターの中の実践風の世界と、訓練場での射撃のみで、本物の獲物を撃つというのは、今回が初めてであった。
(でも……やれるはずなんだ……体が、そう言っている……)
初めての経験なのに、体は興奮している……久しぶりの狩りに、血管という血管が脈を打って喜んでいる。
(やるんだ……やってみせんるんだ……)
足りないのは、自分という存在。
『ドゥルルルルルルル!!!!!!』
『ぐっ!!!?ぬぅうぅうぅう!!!!』
ガトリング砲の弾丸が、オウムガイの怪物の横を掠めて地面を抉り、抉られた破片がオウムガイの怪物の体にぶつかる。
「もうちょい!!!!」
「もう少しなんだ!!!!」
自分の感覚と、体の感覚が合っていない。
体の方の感覚は、オウムガイの怪物を撃ち抜いているが、自分の感覚が邪魔をする。
だったら体の感覚に従えば良いじゃないかという話なのだが、
(この感覚は何なんだ……信じられない……世界が違う……)
それが出来無いのだ。
アマチュアのレーサーが、プロのレーサーからコースのライン取りを教えて貰えれば、その通りに、すぐに走れるようなものでは無い。
体が訴える射線は完璧だが、その完璧な射線を自分が追えない。
『ドゥルルルルルルル!!!!!!』
『えぇい!!!!いきなり何だというのだ!!!!!?』
『良いぞ!!!!あのオウムガイ、嫌がってるぞ!!!!』
体の感覚が引く線をなぞろうとするが……
「ダメなんだ……」
「どうした!!!?後、もう少しじゃないか!!!!」
「ダメなんだ!!!!その、もう少しが届かないんだ!!!!」
その「少し」が絶望的に遠い。