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優子と由紀江

 数日後、優子(ゆうこ)は身支度を済ませた。

「今までお世話になりました。」

 世話になった保護施設の職員や先生、生徒たちに挨拶をした。

 生徒たちも先生も「また会おうね」といい、別れを済ませた。

「持っていく物はそれだけか。」

 斎藤(さいとう)は優子に言った。

 優子はこう返した。

「はい、特に服や小さい生活用品以外は何もありませんし、あとは向こうで揃えます。」

「そうか、ならいい。一応、天筒(てづつ)は保護者という位置づけだから頼れるところは遠慮なく頼ると良い。」

「はい。わかりました。」

 優子は、恩人であった斎藤にも挨拶をして由紀江(ゆきえ)のところへ行った。

 由紀江はしばらく東京に滞在しており、優子とともに福井県敦賀へ戻る予定だった。

「優子ちゃん、早かったね。もう大丈夫?」

「はい、挨拶してきました。天筒さん、これからよろしくお願いします。」

「よろしく。あと、由紀江でいいよ。言いにくいでしょ?天筒って。それに私は優子ちゃんの保護者、家族みたいなものになるんだから、名前で呼び合おうよ。」

「わかりました。由紀江さん。」

「よろしい。」

 優子は出会ってまだ数日の若い女の人にここまで親しく優しくされたことに少し戸惑いがあった。しかし優子には由紀江が何の裏もなく、ただ純粋に接してくれていることが分かっていたので、純粋に嬉しかった。もちろん優子は顔には出ない。

 一方の由紀江は、優子が緊張気味であると見抜いていた。由紀江は優子が感情を全く表に出さない人だということもここ数日で分かったので、何を考えているか、どうすれば警戒心を解けるかを見極めていた。というのも、由紀江は斎藤から優子の過去の話を聞いていたため、何とかしてその傷を癒してあげたいと思っていたのだ。優子を少しでも気分を楽にさせてあげたい。そう思っていた。

 由紀江はそうすんなりうまく優子に受け入れられるものではないとも思っていたが、優子の方は由紀江のことを信用できる人だろうと思ってもいた。それでも優子はまだ緊張は解けてはいなかったし、優子にとって誰かと親しくなるということは、その誰かを自分の運命に巻き込んでしまうことだという認識も持っていた。だから由紀江のことを巻き込まないように気を付けなければいけない。そう強く思っていた。これが緊張の一番の原因であった。

 二人は駅に着いた。ここから新幹線に乗る。新幹線に乗ってしまえば、あとは一本で敦賀に着く。

 優子は数か月お世話になった人々を想いながら、東京を後にした。


 新幹線に乗っている途中、優子と由紀江はこんな話をしていた。

「優子ちゃんって出身どこなの?」

「それが、よくわからなくて。昔からいろんなところに変わってましたから。」

「そうなんだね。福井県は初めて?」

「記憶では、初めてですね。もし小さいころ住んでいたらわかりませんが。」

 優子はその境遇から、小さい頃は少しでも噂がたてば、迫害されていなくても、そうなる前に家族と転居を繰り返していた。しかしそうしているうちに生活も苦しくなり、そう易々と転居できなくなり、最後の方には転居も難しくなって迫害から耐える日々が続いていたのだった。

「まあ、福井県はいろいろと言われることも多いけど、敦賀はいいところだから、心配しなくていいよ。」

「住んでいる人がそういうのだから間違いないですね。」

 優子は穏やかに話した。しかしそれでも笑顔は出せなかった。

 由紀江はその後もいろいろと話を振ったが、優子が笑顔を見せることはない。優子自身は特に何も考えていないが、今までの境遇もあって、なかなか笑顔というものを出せなくなっているのだろう。

 由紀江はそれもなんとなくわかっていた。

 そして由紀江は、優子のその整った美人でなおかつ可愛らしい顔が笑うと、きっとものすごくかわいいのだろうなと思っていた。しかし今それを強要することはない。由紀江は少しずつでいいと思った。

 対する優子も、会話中まじまじと由紀江の様子を見ていた。大人の女性。そして何より、優子が今まで見た中で一番と言っていいほどの美人だと思っていた。身長も170センチは超えている。優子自身も168センチと女性としては身長は低くはなかったが、それよりも少し高めだった。スタイルもいい。優子はそんな由紀江を純粋にきれいな人だと思いながら見ていた。

 そうしていくうちに、北陸へ入り、敦賀へ到着した。大きな駅だ。店はほぼないが、巨大なコンコースを歩き、大量にある自動改札機を通って、駅前へと行く。新幹線・在来特急の新駅舎から在来線や第三セクターの乗り入れる駅舎へ渡って行くと、雰囲気は一変してまさに地方の駅という感じになる。優子にとってはこういった駅の方が、なじみがある。そして再び改札を通る。ここまで来たら完全に地方の雰囲気だ。改札も小さい。

 駅から出た。

「さあ、ここが敦賀だよ。」

 由紀江は言った。優子はこれからここで暮らしていくのだなと思った。

人は少ないが、これくらいがちょうど良い。

 ここからどんな人生が待ち受けているのか。優子の第二の人生がこの地で始まる。


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