勝原優子、天筒由紀江と出会う
優子は保護施設を出ることは決めていたが、そのあとのことはまだはっきりとは決めていなかった。今まで騒ぎを起こしてきてしまった自分が社会に出てやっていけるのか。その他にも、結局社会に出たら今までの中学以前のように迫害されるのではないか。そのようないろいろな懸念が出てくるのだ。
今日は、特殊能力者捜査局局長の斎藤助安と本部で面会する予定である。
年度末。今は本当なら来月から高校三年生だ。しかし優子は十七歳の高校二年生相当年齢で高校卒業資格を取得した。これからどうするか。優子は悩んでいた。
優子は特殊能力者捜査局本部へ出向いた。そして局長である斎藤助安に面会した。
「問題なくやれていたか、勝原優子。」
斎藤は優子に向かって言った。
「はい、みんなやさしかったので、大丈夫でした。」
「それは良かった。まあ、あいつらなら心配しなくてもいいがな。」
斎藤は寡黙で少し厳しいながらも、自分が見定めた仲間は信頼する人だった。
「で、問題は今後か。」
斎藤はそう言いながら、局長の席を立って、その前にある談話用長椅子と長机の席に座った。優子にもそこに座れというような合図をした。
優子は斎藤の前に座って話をつづけた。
「施設は出ます。でもそこからどうするかはまだはっきりとは決めていません。」
優子はうつむきながらそう言った。
「そうだろうな。今までのこともあるだろうし、あんな騒ぎを起こしたらなかなか社会に出るのもためらうだろう。」
斎藤はすべて見通していた。
そのうえで斎藤は案を提示した。
「なあ、勝原。勝原はこれから社会には出たいのか?」
「はい、生きていくためにはそれは必要だと思います。」
「じゃあ、二つ案がある。一つは、特殊能力者捜査局で働くという案だ。これなら働くこともできるし、理解ある多くの者たちに囲まれて過ごすことができる。こちらにとっても能力者不足だから入ってくれるとありがたい。しかしデメリットもある。特殊能力者捜査局はそれなりに行動に制限がある。場合によっては命を掛けなければならないこともあるし、戦闘となれば人から恨みを買うこともあるかもしれない。それに勝原優子が戦闘となればまた悪いうわさが広まる可能性もある。」
「…。」
「二つ目の案は、特殊能力者捜査局と治安維持協力している地方のとある経営者がいる。今は法人でやっているようだが一人で事業をしているらしい。そいつも能力者なんだが、そこで働くという選択肢だ。社会に出るという点ではそちらの方がまともかもしれん。行動も制限されない。多少治安維持に協力はしてもらうことになるだろうが、特殊能力者捜査局ほど戦闘することはまずないだろう。」
「どんな人なんですか。」
「若い女だ。商売に関しては少し貪欲だが悪い奴じゃない。」
優子は提示された二つの選択は両方とも魅力的に見えていた。自分だけでは全く先行きが見えなかったが、こうして道が開かれようとしている。それだけで希望が持てた。
そして優子はやはり普通に生きたいというのが希望でもあった。「普通」というのが何を意味するのかは優子自身も漠然としていたが、能力者でもいろんなところに行って、仕事をして、平和に生きたい。優子の生きる上での大切にしていることは、「同じ過ちを繰り返さない」ことだった。そのうえで成り立つ平和な日常に優子はあこがれていた。それができるのは…。
「私、その人に会ってみたいです。平和な日常というものがどんなものか知りたいです。」
優子はこう言った。斎藤は、
「ある程度、決まった感じだな。わかった。ちょうど今日出張で来てもらってる。今呼ぼう。」
そういうと斎藤は電話を掛けた。
「ああ、斎藤だ。さっき話した例の件で。ああ、頼む。」
斎藤はそう言って電話を切った。
しばらくして、部屋の戸が鳴り、人が入ってきた。
「こんにちは。あ!あなたが勝原優子ちゃん?」
そこに入ってきたのは、優しそうな大人の女性という感じの人だった。
「私は、天筒由紀江。福井県の敦賀で会社やってます。」
優子にとってこの出会いは運命的なものとなる。
優子は由紀江からいろいろと話を聞いた。そして、由紀江も斎藤と優子からいろいろと話を聞いた。
「凄い優秀な子だね。うちに欲しいなぁ。」
由紀江は優子に強制にならない程度に勧誘した。
優子はいろいろと話した時にもうすでに心は決まっていた。『この人と過ごしてみたい。』そう思ったのだ。それは能力者でありながら、それを隠しつつ、普通の人として日常を送り、会社まで経営して、休みの日には休日を満喫する。優子には人を見定める目も持っていた。信用できる人かできない人か。今まで迫害を受け続けた優子にとってはその選別の目はなくてはならないものだった。そんな優子が由紀江のことをこの短時間で尊敬できる人だと思ったのは必ず意味のあることだ。
優子は心を決めた。