城崎温泉への旅行 ~城崎温泉にて⑦~
由紀江は優子より早く起きた。優子はまだ寝ている。
時間を見るとまだはやい。由紀江は伸びをした後、優子の寝顔を覗き込んだ。
(かわいいなぁ。)
由紀江は窓際の椅子に腰かけた。外は明るい。窓の外を見ると、車が止まっていたり、人がちらほらいたりする。そんな風景を見ながら由紀江はぼーっとしていた。
しばらくして優子が起きた。
「ん…。由紀江さん。おはようございます。」
「おはよ。」
二人は身支度を整えて、朝食の時間になり、旅館の特別な朝食を食した。じっくり味わい、食べ終わる。
「はぁ~。朝から満足。これで終わっちゃったね。」
旅行の楽しみの時間が終わっていくのが、なんとなく虚しいような気がして、もう一泊したいとも思いながら、名残惜しいが、時間が来た。
チェックアウトの準備を済ませて、一回のカウンターでお金を払い旅館を後にした。
「いいところだったね。」
「そうですね。とてもよかったです。この旅館。」
二人は時間を確認した。
「さて、そろそろ時間だね。行こうか。」
「はい。」
二人は城崎温泉の温泉街の様子を目に焼き付けながら歩いていき、駅に着いた。
十時前に乗る鈍行に乗って帰路に就く。
今まで通ってきた鉄路を戻る。
城崎温泉から豊岡までの短い区間をまずは乗って、豊岡から乗り換えて、福知山まで行く。
二両編成の短い列車。行きとは違う、近年よく見る車両での鉄路。
優子はなんだか、由紀江とたくさんの思い出を作った城崎温泉から離れていくのを少し虚しく思った。しかし、これから敦賀に帰るという安心感もあった。ただ敦賀に帰れば、また一人暮らし。由紀江とずっと一緒にはいられない。そう思うと、とても今この瞬間が名残惜しいのだった。
福知山で乗り換える。どんどんと家に近づく。
「由紀江さん。」
「ん?なに?」
「私、また、これからも、由紀江さんの家に、何度もお邪魔してもいいですか?」
「もちろん。いつでもおいで。」
「ありがとうございます。」
「もしかして、私とずっと一緒にいたくなっちゃった?」
「はい。」
「へ…⁉あ…、そう…。そっかぁ…。」
由紀江はあまりに正直すぎる純粋な優子の返答と、その返答の内容に、少し視線をそらし窓の外を見て、口を隠した。にやけてしまった。
「じゃあさ。一人暮らしやめて、またうちで一緒に暮らせばいいじゃん。」
「やめてください。本気で心が揺らぎそうなんですから。」
優子のその様子を見て、由紀江は少し期待した。賃貸の部屋はそんなに早く出られないが、そうであっても、別に由紀江の家で寝泊まりくらいしてもいいのではないかと。そうなってくれないかと。由紀江もこれからまた、夜、優子と離れ離れになる日常に戻るのが嫌だった。こんなにも優子と距離が縮まって、楽しい日々を過ごせたのに。もしかしたらこれからも一緒に暮らせられればこんな楽しい日常があるのではないかとも思って。
東舞鶴で乗り換え。あとは一本で敦賀へ着く。しばらくして福井県に入る。行きの際に、この景色のあたりで、「またこのあたりの海に一緒に来よう」と約束した。昨日のことなのになんだか懐かしい。あの時間はとても楽しみな時間だった。
「楽しかったです。」
優子は車窓からの眺めを見てつぶやいた。
由紀江も応えた。
「楽しかったね。」
列車は敦賀に入った。粟野駅付近の敦賀の眺望。帰ってきた感がある。
しばらくして列車は敦賀駅に着いた。
「あー。帰ってきた。」
由紀江は伸びをして、つぶやいた。
二人は改札を抜け、駅前に出た。
「さて。ただいまだね。三時半ごろ。少し早いけど、帰ろうか。」
「はい。」
二人はいつものように、歩いて家へ向かった。
由紀江は優子をアパートまで送った。
「すみません。送ってもらって。」
「いいんだよ。また明日ね。」
「はい。また明日。」
由紀江は自分の家へ帰った。
優子はしばらくその背中を見ていた。行ってしまう。明日またすぐに会えるのに。今日の夜はもうお別れ。その時の気持ちは、優子にとって、とても不思議な気持ちだった。『今日も一緒にいたい』。
だけど、優子はそんな気持ちを押し込めて、自分の部屋へ向かい、入って、荷物を片づけたり、洗濯物をまとめたり、やることをやった。
由紀江の方は、家に帰って、鍵を閉めた後、玄関に寝そべった。
「さすがに鈍行は疲れちゃったなぁ。…。でも、すごい楽しかった…。」
由紀江は寝たまま横に向いて、
「優子ちゃん…。」
とつぶやいて、少しウトウトしてしまった。起きたのは四時半ごろ。やばっ、と思い、いろいろと片付けや洗濯をして、その日を終えた。
明日からはまたいつもの、普通の日常が訪れる。




