城崎温泉への旅行 ~鉄路『福知山→城崎温泉』~
由紀江と優子は鈍行を乗り継いで、敦賀から福知山まで来ていた。あと一本乗ったら、城崎温泉に着く。
二人はまだ朝食を食べていなかった。朝食はサンドウィッチを持ってきてはいたが、電車の中で食べるのはなんだか現代において申し訳ない気もして食べられず、東舞鶴駅では、楽に食べられるような雰囲気ではなく。ここまで引きずってしまった。現在九時四十分。まずはトイレに行っておこうと、二人はトイレに向かって、そのあとで、時間を見て次入線してくる、一番線ホームで椅子に座って二人で朝食を食べた。
その間に、何度も列車が行きかっていた。特急も多い。あちらには城崎温泉行の特急も来ている。
「すごいね。大ターミナルだ。福知山って結構大きな駅なんだね。」
由紀江は一度来たことはあったものの、こんなにまじまじと駅に滞在してその様子を見たことがなかったため、改めて福知山駅の存在感を知った。
遅めの朝食を食べ終わり、何回か列車を見送った後、次に自分たちが乗る列車を待った。
鈍行とはいえ、それなりに同じ方面へ向かう人がいるようだ。城崎温泉に行くのだろうか。
列車が来た。
「あれ、なんだか懐かしい顔の電車だね。」
「そうなんですか?」
やってきたのは、113系。もちろんそんな番号まで由紀江たちが知っているわけではないが、由紀江にとっては少し懐かしい顔の列車だった。
二人は後ろの車両のボックス席に座った。
人はそれなりにいると思っていたが、満席というほどでもない。落ち着いて過ごせそうだ。
列車が走り出すと、またさっきの車両とは違った走行音を感じる。鉄道を乗り継ぐ、違った車両に乗る。これが旅か。由紀江も優子もしみじみと感じた。もはや旅行ではなく旅の気分だ。
途中は山間の風景が多い。それでも優子はずっと車窓からの風景を眺めている。由紀江もその眺めを楽しんだ。
「いいね、こういうの。鈍行は旅情があるね。」
「旅情…。いいですね。」
優子は由紀江の方を見た。
「由紀江さんとだから、こんなに楽しいのだと思います。」
優子の顔は相変わらず無表情だったが、目は輝いているようだった。
由紀江は優子の顔を見たまま少し止まった。あまりに嬉しかったのだ。
「優子ちゃんがそう言ってくれるなら…、良かった。嬉しいよ。そう言ってくれて。楽しい旅行になるといいね。あ、いや、もう楽しいんだっけ、あはは…。」
由紀江は嬉しさのあまり動揺を隠そうと思っても隠し切れなかった。
いままで、優子には気をずっと使わせていたし、緊張が解けない時もあった。それでも二か月半。一緒にいるから楽しいと、そんなことを言ってくれる。
由紀江は、自分の口がにやついているのかどうなっているのかわからないので、とりあえず、頬杖のようにして口を隠しながら外を見た。
「由紀江さん?」
優子は急に動揺している由紀江のことを見つめ続けた。あまりにもまっすぐな目。由紀江は、つい言ってしまった。
「かわいいね、優子ちゃん。」
「え?」
優子は唐突に、なぜそんなことを言われたのかも理解できなかったが、必死にその意味をくみ取ろうと考えた。もちろん深い意味なんてない。ただつい本音が出てしまっただけだった。
由紀江は、優子が必死に考えているのを察して、
「ごめんごめん。なんか口に出ちゃっただけだよ。深い意味はないから。」
由紀江はなんだか自分が恥ずかしくなってきてしまった。
優子はそんな由紀江の言葉を聞いて、ひとまず深く考えることをやめた。
列車は進んでゆく。
和田山駅に着いた。少し人の乗り降りが激しい。向こうには謎の建物が見えている。
「あれ、なんでしょうね。」
「んー、昔の車庫かなんかじゃない?」
「車庫…。」
列車は動き出す。
川や田園、集落、山沿いを走る。走行速度もかなり出て飛ばしている。
「鈍行でも飛ばすねー。」
「速いですね。」
二人は景色を眺めながらなんでもない会話をつづけたり、話さず景色を見たりして時間が過ぎていった。
豊岡駅を過ぎると、川沿いを走る。川と線路の間に道路があるが、道路と川がすれすれなのだ。
「うわー、見てよ。川の水位すれすれ。こんなん増水したら道路沈むでしょ。」
天気のいい日でも、道路と川の水位の差があまりない。由紀江はそれが衝撃だった。
そうこうしていると、城崎温泉に到着した。乗客も一斉に出て、車両から外に出ると、人でごった返していた。
「人多いね。」
「多いですね。」
ついたのは十二時手前。六時間近く、鉄路の旅を満喫したのだった。




