城崎温泉への旅行 ~鉄路『敦賀→東舞鶴』~
由紀江は四時半に起きた。一通りの持ち物を確かめ、準備をしているうちにすぐに時間は過ぎる。五時台に由紀江の家の前で優子と待ち合わせ。優子が時間ぴったりにやってきた。
「じゃあ行こっか。」
由紀江と優子は駅へと歩き出した。
優子はなんだかそわそわしている感じだった。なかなかその様子はわかりづらいが、いつも優子と接している由紀江には何となくその様子が伝わってきた。口数も少ない。もともと少ないが、今日はさらに少ない気がする。緊張しているようだ。
「優子ちゃん、大丈夫?」
由紀江は歩きながら聞いた。
優子は、
「はい。いえ、なんだか、誰かとこうしてどこかへ行くというのは中々経験がないもので。」
真剣な顔で話した。
「まあ、旅行ってものは気楽にやればいいよ。というか今回は目的地と宿は決めてるけど、それ以外は全然決めてないから。気楽な旅行というわけで。」
由紀江はそう言って、場を和ませた。
駅について、改札を通る。切符は普通乗車券のみ。『敦賀→城崎温泉』と書かれている。由紀江はまさか鈍行で行くことになるとはと思っていたが、それもありだなとも思っていた。
駅のホーム、一番線に留まっている小浜線の六時十六分発東舞鶴行きの電車に乗り込んだ。終点まで行くからと、人が比較的少ない二両目に座った。
小浜線の列車は特徴的な音を立てて動き出した。ここから始まるといった感じだ。優子は窓際の席から外を眺めていた。
「いい旅行になるといいねぇ。」
由紀江はつぶやいた。
「旅ってほどじゃないからね。今回は、あくまで旅行だから。」
「?旅と旅行って何が違うんですか?」
「んー、旅行は目的地をはっきりさせたり、人気観光地を巡ったりするものかな。旅は目的を決めずに行き当たりばったりとか、その地のものをその地で見つけ出すとか、そういったことかな?」
「旅って難しそうですね。」
「まあ、どっちも気楽にやればいいよ。楽しいよ?旅も旅行も。」
「今回は旅行なんですね。」
「だと思ってるんだけどね。」
そうこう話していると、粟野駅あたりで、敦賀を一望する景色を見る。優子は話を聞いた後に、その景色を眺めた。由紀江は車窓からの風景を楽しんでくれているかなと優子のことを見守った。
その景色が終わると、優子はまた話を戻した。
「旅行ということは、行くところとかやることとかを決めているんですね。」
「大体はね。旅館も取ってあるし、やることはもちろん外湯巡り。他はー。決めてない。」
「え?昼食の場所とか、他に寄る所とかは。」
「決めてない。」
意外と大雑把だった。でも優子自身も、あまりに予定を固めすぎても楽しみが減るかなとも思ったし、そのくらいがちょうど良いのだろうと思った。
列車は山を越え、野を越え、集落を越え、遠くに海が見え。優子の知らない車窓が次々と現れる。優子は由紀江と話しながら、その車窓からの風景を眺めていた。
車窓は移り変わっていく。
「そういえば、由紀江さんって身長高いですよね。」
「まあ、女にしては高い方かな。」
「何センチあるんですか?」
「174センチ。」
「やっぱり高いですね。モデルじゃないですか。」
「いやいや、モデルはもっと高いよ。優子ちゃんも高くない?」
「保護施設で測ったときは168センチでした。」
「十分高い方だよね。」
そうこう話していると、主要駅の一つの小浜駅に着いた。ここで、今まで乗ってきた乗客のほとんどが下りる。特に学生。学生はほとんどが下りて行った。それに代わって、今から旅行へ行くのかというような人がちらほら乗ってきた。
列車は先へ進む。
小浜駅から先は車窓がより一層壮大さを増す。
勢浜から始まる海の眺めは優子の目をくぎ付けにした。奥に見える半島や島も壮大さを演出する。湾曲した海岸線。そして加斗駅を越えて、再び海が見えた時、奥の方にかかる青戸の大橋と、さらに奥にそびえたつ青葉山の景色があまりにも美しすぎる。特に青葉山の綺麗な三角型はとても印象的である。そして道を挟んですぐそこには海。優子は列車に乗る前の緊張はとっくにほぐれて、鉄道旅を楽しんでいるようだ。
列車は進み、若狭高浜駅を過ぎた。
「さっきの若狭和田駅と今の若狭高浜駅あたりはいいところが多いからねー。」
「そうなんですね。海沿いですか?」
「そうだね。特に海沿い。和田ビーチとか、明鏡洞とか。また今度、小浜線の旅でもしてここに来よう。」
「いいですね。楽しみです。」
由紀江は優子の様子を見て、笑顔はないが、会話は続くし、楽しんでくれているようで良かったと思った。今はまだ旅行は始まったばかりだが、次の旅先の話もして、これからも一緒にどこかへ行けるだろうという期待もできそうだ。
そうして、小浜線の列車は青葉山のふもとから山の中へ入っていき、そのうち高架の線路を走って、東舞鶴に着いたのだった。




