由紀江の寂しさ
由紀江は、優子が帰った後も仕事をしていた。別に仕事が終わらなくて残っているわけではない。今後のこと、世間のこと、何が通用するのか、流行は何か、ではこれからどうするか。そういうことを調べては、考えて、いろいろとやっている。
社長に残業という概念はない。そもそも労働という概念もない。だからどれだけ働いても残業代は当然関係ないし、会社を存続させるためには時間を削ってでも『次』のやるべきことを見つけないといけない。しかも今は自分だけではなく、優子という従業員を抱えている。優子のためにも今までよりももっと会社の存続をかけて経営していかなければならない。
つい最近までは、優子が家に泊まっていたから、優子のためにも自分も早く仕事を終える必要があったが、優子が一人暮らしを始めるようになってから、また今まで通り、二階の事務所に残って、やるべきことを見つけては進めている。
そうはいっても、由紀江自身も会社経営は大変なものだと実感していたし、理由があってこういう生業でやっているが、我ながらいばらの道を選んだなぁとも思っていた。
そんな由紀江にとって、優子がいるというのは非常に助かっていた。それは仕事中もそうだが、やはり家に帰ったら優子がいるということだ。
確かに最初は気を遣いすぎて、やはり疲れることも多かった。しかし、徐々に優子の緊張がほどけていくのは感じていた。それに優子は頑固なところはあるものの、純粋でこちらが言ったことは素直に受け取ってくれる。優子という存在そのものも癒しであった。
気を遣うことや、仕事を早く切り上げなければならないということもあれど、やはり優子は家にいてほしい存在になっていた。そんなことを今思っても遅いと思うばかりだった。
しんどい社長の立ち位置も、優子がいてくれるだけで助かる。そして優子が成長して、心も柔らかくなっていってくれるなら、その過程を見ていたい。
それを少しでも見られなくなることに少しさびしさを感じた。まだたった二か月なのに。もうそこまで感情が入ってしまっている。由紀江は優子に対してならそれも必然だろうと思っていた。




