二人の静かなゴールデンウィーク
優子と由紀江は、由紀江の家で過ごしていた。由紀江は休みだ。
「平和堂でも行こうか。」
由紀江は言った。優子は、
「いいですよ。」
といった。
二人は昼を食べてしばらくしてから、家を出た。また歩いて平和堂まで行くことにした。
ゴールデンウィークだけあって、気比神宮の人は多い。それに伴ってか、アーケード通りも普段より人が多いような気がする。
ショッピングセンターもかなりの人だ。駅前の地方のショッピングセンター。皆行くところがないのだろうか。
「じゃあ、本屋行こうかな。今度行く場所載ってる本ないかなー。」
由紀江はそれも一つの目当てでここに来た。
「お、これかな?」
由紀江は、よくある県ごとの観光地紹介のにぎやかしい表紙の本を手にとって、パラっとページをめくり、その場所を探した。
「んー、まあ、この程度しか載ってないよね。こういう本って。なんかこの数ページのために買うのももったいない気がしてきた。やめよ。」
由紀江は本を戻して、そのほかを探した。すると、今度行く場所だけが載っている観光本を見つけた。
「なんだ、あるじゃん。あ、ここにもある。意外とあるもんだね。」
由紀江はサッと、中身を見た後、
「せっかく優子ちゃんと行くし、記念に買っていこっ。」
そういって二冊、その地域が載っている本を持った。そのあと、別のジャンルの並びも見ていった。
「優子ちゃんさ、記憶力いいんだから資格取り放題じゃない?会社から受験費用出すよ?」
「いやいいです。私には意味ないと思います。何を受ければいいかもわかりませんし。価値もわかりません。」
「資格ってのはね。もってるだけで称えられることもあるんだよ。それだけで入社の難易度が下がるからね。」
「じゃあその時取ります。由紀江さんの会社を辞める予定はないですし。由紀江さんの会社から費用を出してもらうことまではしなくても大丈夫です。」
「んー、役に立つと思うけどなぁ。じゃあ、うちの会社で持っててほしいのがあったら、会社負担で受験してよ。それならお互いにいいでしょ。」
「まあ、それなら…。」
そんな会話をしながら、今は特に何が必要かは考えたくなかったので、その場を後に、カウンターに行き、観光本の会計を済ませた。
日用品が売っている場所では、香りの良いフレグランスオイルの陳列してある場所に来た。
「いいね。こういうの、優雅に部屋に置いておきたいね。」
由紀江は自分が嗅いだ後に優子に嗅がせて、それを全部展示してあるものでおこなった。
「優子ちゃん何が一番好きな匂いだった?」
「これですね。」
優子が指したのは、金木犀の香りだった。
「いいよね。これ。私も好きだよ。」
そんな会話をして、時間が過ぎていった。
服を見たり、日用品を見たりして、優子に今足りない日用品はないかとか、ほかに服はいらないかとか、由紀江と優子はいろいろ見て回った。
以前ショッピングセンターに来た時よりかは、終始気を楽にして二人は過ごしていた。
「そういえば、忘れてたけど、駅前の複合施設。気になるって言ってなかったっけ?今から行く?」
「そうでしたね。私は行っても大丈夫です。」
二人は、平和堂から歩いて敦賀駅まで行き、駅前の複合施設を訪れた。
ここには土産物屋や一風変わった本屋がある。そして、飲食スペースもある。広場を挟んで向かいの建物には飲食店がいくつか入っている。
「うん、人多い。」
来る日を間違えたかと思うほど人が多い。若者が多い。観光客は多い、のか?
施設内はそこまで人は多くなかった。
「こんなになってるんですね。本屋さんですか?」
「本屋らしいよ。図書館っぽいよね。」
二人はその中を見て回った。二階もあるので隅々と。二階には勉強している学生らしき人たちがいた。若者が駅前に集うというのは良いことだと由紀江は思った。それと同時に、もしかすると優子もこういうことをやりたかったのだろうかとも思った。そう思って優子を見ると、特にその人たちに気にする様子もなく、そこら辺にある本を眺めている。由紀江は、あまりそうやって考えすぎるのも良くないかと思って、そのことは、今は考えないことにした。
そうこうしているうちに、結構いい時間になった。
駅前の施設も見終わったところで、
「そうだ。そろそろ、アレが来る頃だから、もうしばらく平和堂で時間潰さない?」
「アレ?」
由紀江は何かを待とうとしているようだ。優子にはわからなかったが、とりあえず由紀江の言う通り、平和堂に戻ってしばらく時間つぶしをした。
そして、
「そろそろだね。」
と、由紀江が腕時計を見て、「じゃあ出ようか」と二人は平和堂を出る。すると、すぐ近くに数軒、屋台が出ていた。
「敦賀名物、屋台ラーメン!なんか、この屋台ラーメン。もうすぐ衛生何とか法で規制されて、屋台ラーメンじゃなくなるっていうからさ、今のうちにこのスタイルを味わっておきたくてね。」
「ラーメンですか。なくなるんですか?」
「なくなるかもしれない。キッチンカーは大丈夫らしいんだけど。この雰囲気は無くなるかもね。詳しくは知らないんだけど。」
そう言うと、「食べていこう」といって、由紀江は優子を誘った。
どこにするかは「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」で決めた。
優子にとっては屋台ラーメンは初体験であった。
由紀江は屋台ラーメンのおじちゃんに普通のを注文して、席に座った。周りの席にもどんどん人が入ってくる。屋台ラーメンの人はせわしなく働いている。
そしてラーメンが運ばれてきた。優子がいざ食べようとすると、横から屋台ラーメンの店の人が
「はいこれ。」
と、チャーシューが入った箱を渡された。
優子は「????」となった。由紀江は、
「これ、無料で取り放題なんだよ。すごいよねー。」
優子はどれだけ取っていいかわからず、ほんの少し取るだけにした。
優子は初敦賀屋台ラーメンを味わった。
「おいしいですね。」
「でしょう。何だろうね、この味は。醤油なのかな、塩なのかな。なんか何とは言えない、敦賀ラーメンの味なんだよね。これって。」
そう言いながら、由紀江もおいしそうな顔で食べる。優子はその様子を見て、余計においしく感じた。
ラーメンを食べ終わって、由紀江は金を払って、「さあ行こうか」といって、優子とその場を後にした。
優子はなんだか特別なことをしたみたいで、少し高揚感があった。桜の花見の時と似たような感覚だ。もちろん顔には出さないが、とても満足したようだった。
「じゃあ、帰ろっか。」
「そうですね。」
由紀江は優子をアパートまで送って、そのあとに自分の家へ帰った。
今日は一日、優子と一緒にいれて、由紀江にとっても満足した日になった。




