中村高次と斎藤助安
「なかむらたかつぐさん」
「チッ、たかじです。」
中村高次はよくそう言われる。
「おいおい、また間違えられてるじゃないか。」
「まじ勘弁っすよー。戦国大名にいたのか知らないっすけど、小学校も中学校も間違えられたんすよ。まじでめんどくさい。」
高次はその状況にうんざりしていた。
中村高次は非常勤であるが、頻繁に特捜局に出入りしている。かつては高次も中学生の時に特殊能力関係の事件に巻き込まれて、孤独になってしまった。両親は幼少期に亡くしている。それからいとこの家で中学生まで暮らしていた。いとこの姉さんとその両親に世話になった。その時に事件が起き、いとこの姉さんの両親が死に、いとこの姉さんはしばらく意識が戻らなかったことがあった。今では、姉さんは片方の手と足を失いはしたが、意識は戻り、高次とともに暮らしている。高次は中学からは特捜局の保護施設にいたため、優子の先輩にあたる。
高次はさまざまな特殊能力事件と対峙してきて多くの成果を上げた。
高次と一緒にいるのは熊野という人物。特捜局の一員で、秘書の一人。誰の秘書かというと、特捜局の局長である斎藤助安の秘書である。この熊野も特殊能力者である。過去の事件を何度も助安や高次と対応しているので、高次とも仲がいい。
「こんにちはー。」
助安は熊野とともに、助安の部屋へと入った。
「勝原優子はどんな感じでした?」
熊野が助安に問うた。
助安は今少し、天筒と電話をしていた。軽い近状報告を受けていたのだ。
「うまくやっているそうだ。詳しくはまた今度行くからな。その時話す。」
とりあえず、熊野は自分の席に、高次はソファーに座った。
すると、もう一人の秘書が部屋に入ってきた。
「あ、中村君。来てたんだね。」
「こんちわー。村上さん。」
村上は特殊能力者ではない。秘書として、助安が抱えている。
その後これからの日程を話した。皆先に知ってはいたが、詳しい内容を説明する。
「いいですねー。天筒さんのところに行けるの。また会いたいし、あの人のお菓子食べたい。」
村上はかつて、助安と高次とともに三人で、由紀江の事務所を訪れていたことがある。それは、由紀江が危ない商売に手を染めた時に、その事業を終わらせるための協力と事件が終わった後日の挨拶の時に訪れていた。その時に、由紀江は三人を趣味のお菓子作りで作ったクッキーを出してもてなしたことがある。村上はそのクッキーがいまだに忘れられないようだ。
「別に行ったからって絶対出してくれるわけじゃないっしょ。」
高次は冷静に言った。
「まあお菓子なくても会えるだけでも俺は嬉しい!」
村上は言った。
「行けませんけどね。」
「そうだぞ。俺たちは秘書だが、斎藤さんが不在の時の対応の仕事があるんだ。」
「わかってますよ(泣)。」
日程はまだ決まっていないが、六月に行くということを伝えた。
「天筒さんと勝原ちゃんか。あの二人、オーラありすぎてなんか気安く話せんのよなー。」
高次は少し遠い目をした。




