優子の一人暮らし
優子は仕事と休日のある生活にも慣れてきて、淡々と日々を過ごしていた。しかし心配事があった。
いつまでも由紀江の家でお世話になるわけにはいかないということだった。それは由紀江にいつまでもくっついていたら、それも由紀江を不幸にするかもしれないという思いからでもあった。それにせっかく料理も教わったし、これ以上電気代も水道代も負担があるし、部屋もないから同じ部屋で寝させてもらっているし、そろそろ一人暮らしを始めるべきかと考え始めていた。
なので、しばらくして由紀江に相談をした。
「由紀江さん、しばらく由紀江さんの家に居候していましたが、これ以上お世話になるのも申し訳ないので、そろそろ部屋を借りて一人暮らしを始めたいと思うのですがダメでしょうか。」
一応、由紀江は保護者であり、保護観察官という名目であるので、そのあたりは由紀江の判断に任せることになっていた。
「え…。」
さすがに由紀江は心の中ではだいぶ残念がっていた。優子がやはりこの家にはなじめない、ずっと気を使っている、今まで何かまずいことがあっただろうか。など、いろいろと考えてしまう。何が原因だろうか。せっかく日常をこれからも一緒に過ごしていけたらと思っていたのに、と。
「私的には一緒にいたいけど、一人暮らししてみたい?」
「一人暮らしをしてみたいといいますか、しなくてはいけないかなと思いまして…。」
優子は特に由紀江が心配しているようなことがあったわけではない。由紀江の家にはなじめていたし、気もあまり使いすぎないようになっていた。もちろん不満があったわけでもない。むしろあまりにも居心地がよくなっていた。優子からしたらだからこそだったのだ。このまま由紀江に完全に養われると、年齢的にも高校三年生になって、しかも実の家族でもないのにこんなに金銭的にも負担をさせてしまっているという申し訳なさから優子はあまりお世話になりすぎないうちに一人暮らしへ移行しようと考えたのだった。
「まあ、一度本格的な一人暮らしを体験してみるのもいいかもね。」
由紀江は残念がったが、優子のためでもあるだろうと思い、そんな言葉を送った。
そういうわけで、優子の一人暮らしが決まった。
というわけで、由紀江の家の近くのアパートに部屋を借りることとなった。
日用品は既にそろえてある。布団や物干しなど、必要なものをすぐ買ってそろえた。由紀江には言わずに自分で。由紀江に言うとまたお金を出されてしまうかもしれないと思ったからだ。料理関係の道具は順次必要になったら買っていく。それまではできる料理だけ、それか総菜を買っていくことにした。洗濯機はないので、近くのコインランドリーを使うしかない。しかしそんなすぐ近くにあるわけではないから、結構歩くことになりそうだが仕方がない。由紀江の家の洗濯機を借りるのでは意味がない。そこは自分でやろうと思っていた。
部屋は古めかしい。築年数も結構経っているから、家賃も抑えて、まあこんなものだろうといった感じではある。優子はそれはそこまで気にしていなかったので大丈夫だ。ただ由紀江から、隣人の騒音には気をつけた方がいいという忠告を受けていたので、上からの騒音がない最上階にした。もちろん下から横からは騒音があるが、上からの騒音ほど気になるものではないとのこと。
そのほか、これから不便なことは出てくるだろうが、保護施設にいたころの延長線だと思えばよいかなと優子は思っていた。
優子が家からいなくなり、由紀江はまた一人の生活に戻ったが、一か月と半月ほど優子と過ごして、たったその程度の期間だったのに、どこか穴が開いたような気分にもなった。
「なんか、距離感間違えちゃったかな…。…。はぁ…。やっぱり一人は寂しい…。」
それは優子が単なる同居人だったというからではない。きっと優子だったから由紀江はそう思ったのだ。優子の律儀で無垢でかわいらしい人柄だったからこそ、由紀江は優子に癒されていた部分もあった。この短い期間。優子にとっては言うまでもなく由紀江の存在は大きなものになっていたが、由紀江にとっても優子のことは特別な存在になっていたのだった。
由紀江はそれを無くしてはじめて気づくものと同じ感覚なんだろうと少し思った。一緒にいると、もしかして自分のこの感情はただの庇護欲なのではないかとも感じることがあったが、そんなものではないと、やっぱり一緒にいたかったなぁと思える。そんな思いを優子に寄せている。それを別居することになったからか、理解したのだった。
「やっぱり、別居、反対すればよかったかな…。」
由紀江は少し後悔した。でもそれは自分のわがままであって優子を思っての感情ではない。だからこそこの判断は正しかったはず。由紀江はそう思いながら、どこか虚しかった。




