第95話 ラブコメの波動
一方、隠された横穴を見つけたサイトとカルミアは、横穴の中に入って道なりに進んでいく。
隠されていた穴の中は単純に雑に横に掘られていたわけではないようで、柱などで補強されていてそれなりに時間を掛けられていたようだ。
とはいえ、穴の中は人一人が通り抜けるのがやっとの広さで正直ギチギチだ。
先頭を歩いている俺は足場を確認しながら慎重に進むが、後ろのカルミアちゃんは俺より小柄だからか、俺の背中にぴったりとくっついている。
それは良いのだが、何度も背中にぶつかってくるのが何とも急かされてる感じだ。
「カルミアちゃん、さっきからおっぱい当たってるんだが」
「!? す、すいません!」
俺がそう軽口を叩くと、カルミアちゃんは慌てて俺から離れてしまう。
実際は胸当てで柔らかさを感じ取れないのが残念だ。
俺は密かに苦笑して更に先を進む。
離れてくれたお陰で姿勢を低くして動けるからさっきよりもスムーズだ。
しかし、隠れて横穴を掘っていた割に妙にしっかり通路が出来ている。
……これをバレずに掘ったのか? しかしどうやって……。
夜間にこっそり作るにしてもどう考えても人手が足りないのだろう。それに素人がやれるとも思えないし、こんなの作業員の力でも借りないと……。
「……」
まさか、な。
実は作業員が結託して雇い主のアイゼンを謀ってる……なんてことは……。
俺は今回の一件が、俺が考えているよりも根深い事なのではと思い始めていた。そしてしばらく進むと、横穴の先に光が見える。どうやら出口のようだ。
「カルミアちゃん、そろそろ出口みたいだ」
「分かりました!」
俺はそう言って慎重に先へ進む。
その出口の先にあったのは、何処かの倉庫のような場所だった。
俺達は入り口からこっそり覗きこむ。
すると、数人の獣人達が鉱石を運んでいた。
「……オイオイ、マジで盗んでたやつが居るのかよ」
「獣人さん……ですよね。作業員さんじゃなかったみたいです」
俺達はひとまず物陰に身を隠して様子を見ることにした。
倉庫の奥には、鉱山から運び出したと思われる鉱石が山積みになっている。
「なぁ、あの鉱石は一体何なんだ?」
「今まで見た事ない色ですねー……綺麗……」
俺はカルミアちゃんにも分からないようだ。奥の鉱石は既に磨かれているようで綺麗な赤色や緑色のクリスタルの様な輝きを放っている。
倉庫の外に運び出そうとしているようだがはっきりとは分からない。
俺は声を潜めてカルミアちゃんに言う。
「奥の方で何か話しているみたいだな、ちょっと近づいてみるか」
「え、バレちゃいませんか?」
「暗いしなんとかなるだろ……よいしょっと」
俺は中腰で立ち上がり一歩を踏み出す。
――パキッ。
「あ」
「あ」
俺が踏み出した一歩目に、丁度木材の床があって踏み割ってしまったようだ。
「誰だ!?」
その音に倉庫に居る獣人が気付いてこちらに向かってくる。
「や、やべ!」
「さ、サイトさん。そこにある木箱の中に隠れましょう!」
俺達は慌てて倉庫の中へと入り、すぐ近くの木箱に身を隠す。
すると、俺達に気付いた少し遅れてやってくる。
「……ん、今ここで物音がしたような……」
獣人はいきり立っているのか、少々乱暴な口調で倉庫の中を探し始める。
「……」
俺達は息を押し殺しながら、獣人達が立ち去るのを待つ。
しかし、狭い木箱の中に強引に二人入ったので色々カオスな状態になっている。
具体的に言えば、俺はカルミアちゃんの下敷きになっていて、俺の顔の辺りに丁度カルミアちゃんの太ももがある。彼女の軽鎧は上半身はそれなりに硬いが足の方はスカートになっていて、その中は生足がチラリズムしている。
何故女の子の鎧はこんなに露出が多いのだろう。
世の中にはビキニアーマーとかいう鎧の体を為していないほぼ水着レベルの鎧があるらしいが、この世界の女戦士達は羞恥心が薄いのだろうか……。
俺がそんな下らない事を考えてるとカルミアちゃんが、声を小さくして少し困ったように言う。
「あ、あの……サイトさん?」
「何?」
「足に息が掛かって……その……」
「どんな生き物でも呼吸はするものだよ」
自分の息が荒くなっているのはこの際知らないふりをする。
「で、でも……その……変な所に息が掛かってくすぐった………ひゃっ!?」
カルミアちゃんの妙に色っぽい嬌声が木箱の中に響き渡る。
「……今、メスの声が聞こえたような……」
「!?」
近くの獣人の声にカルミアちゃんはハッとして自分の口を塞ぐ。俺も極力声を出さない様にするが、木箱の蓋を閉じているので元々酸素が薄い上に、更に上に彼女が乗っかっているので満足に息も出来ない。
なので彼女の太ももの下で呼吸を荒くするのを止めることは不可能だった。結果、彼女は顔を真っ赤にして何かを耐える様に顔を俯かせてしまう。
「なんか変な声がした気が……おい、誰か居ねぇのか!?」
倉庫の外から獣人達が何かを言っているが、カルミアちゃんの嬌声のせいで全く耳に入ってこない。
ちなみに俺の場合、男なので女の子の喘ぎ声はむしろ大好物である。
しかし今はそんなことを言っている状況ではないし、そもそも俺は今現在進行形で命の危機なのだ!
決して、彼女のエロい声と表情に興奮しているわけではない! ……違うからな!!
「駄目だ、誰も居ねぇ。気のせいか?」
どうやら獣人達は諦めて何処かへ行ったようだ。
俺は心の中でホッと一安心し、上に乗っかってる彼女の様子を伺う。
「カルミアちゃん、行ったみたいだぜ」
「ち、違いますよ? 私、そんなはしたない女じゃないですから……!!」
「……?」
カルミアちゃん、何か勘違いしてる……?
……あ。
「(カルミアちゃんがアダルトなボケ方してる!)」
カルミアちゃんは真っ赤な顔で涙ぐみ、木箱の中で蹲ってしまった。
流石にやりすぎたか……俺は反省しつつ自分だけ木箱の外に出て、彼女が気分が落ち着くまで彼女に休んでもらう事にした。
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