第94話 怪しい穴
鉱山で落盤の可能性を考えたサイト一行は、中で作業中の従業員に避難を呼びかける。その最中、自分達から逃げる様に走り去る何者かの人影を見つけ、サイトとカルミアはその後を追う。
「……うーん、随分と奥まで来たのに誰も居ませんねぇ」
「おっかしいな……途中で分岐点とかあったか?」
俺は背後を振り返ってカルミアちゃんに聞く。
「うーん、分かれ道なんかは無かったと思うのですが……」
「だよな……うおっ!?」
考え事をしながら走っていると足元の地面が突然僅かに崩れる。どうやら小さな穴が空いていたようだ。
「大丈夫ですか砕斗さん!?」
「ああ、へーきへーき……にしても……」
俺は穴の開いた地面からそっと離れて覗きこむ。
「……もしかしてリリィの言ってた地響きの影響か。落盤の不安もあながち冗談じゃなさそうだ」
「地盤が緩んでるのかもしれませんね……でも、この穴の開き方は……」
カルミアちゃんはそう言って地面の穴を見る。まるで何かドリルで地面を掘ったような跡にも見える。
「……なぁカルミアちゃん。俺、嫌な予感がするんだが……」
「……サイトさんが見た人影の事ですよね。私達が追ってた場所は一本道で隠れる場所なんか無かったのに……」
「もっといえばこの先は行き止まりになってた。なのにソイツの姿が見えないって事は……だ!」
俺はそう言いながら、地面の穴を軽く蹴飛ばす。するとその地面の周囲は簡単に崩れて、人が通れるくらいの横穴が出来た。
「やっぱりな」
「もしかしてリリィちゃんや他の人が聞いた地響きっていうのは、誰かが隠れて地下を掘っていた音なのかもしれませんね」
「ああ、その可能性は高い」
俺はそう言って横穴を覗き込んでみる。
「……で、この先がどこに繋がってるかだな」
「行ってみますか?」
「一度戻って女神達と合流したいところだが、時間を掛けると犯人を逃がしそうだからなぁ……」
「犯人って?」
「俺が見た人影の事だよ。何処にも居ないって事はここに潜んでるに違いない。で、わざわざ俺達から隠れるってことは何か後ろめたい事があるんだろうよ。俺の勘だとアイゼンの言ってた事もきっと関わってるに違いねぇ」
「なるほど、流石サイトさん!」
「ははは、もっと褒めてくれ ……ってこんな事してる場合じゃねえな、急ぐぜ」
「はい。私達二人ならきっと大丈夫です!」
「お、おう!」
……こういう時、カルミアちゃんの俺の評価って妙に高く感じるな。
ただの一般人の俺よりカルミアちゃんの方が圧倒的に強いし、もし援護を求めるなら女神の方が役に経つと思うんだが……。
……とはいえ女の子に信頼されてるなら、それに応えるしかねぇよな!
「よし、行くぜ!!」
俺は気合を入れ直し、カルミアちゃんの手を借りて横穴を入っていくのだった。
◆◇◆
「……さて、これで全員でしょうか」
「もう人は居ないと思うけど……」
サイト達と別行動していた女神とリリィはカミラの許可を得て、坑道の作業員の避難命令が出たことで採掘作業は中止にさせることが出来た。
「それでミリアムさん、リリィ達はお兄さん達と合流したら避難するの?」
「いいえ」
女神はリリィの質問に対して首を横に振る。
「え?」
「まだ、私達にはやるべき事がありますから」
「それって……」
リリィがそう聞くと、女神はニコリと微笑んで言う。
「ええ……落盤の原因を調べて、この鉱山の問題を解決する事です。おそらく二人もそれを考えているはずですよ」
「……でも、どうやって調べるの? 原因が分からないと調べようがないよ」
リリィの言葉に女神は少し考えてから答える。
「リリィさんが言ってた地響きの事がヒントになるかもしれません。
先程、作業員の方々に避難を呼びかける時に探りを入れてみたですが、若干名の方が同じような地響きを感じ取ったことがあるようです。どうやらその地響きは奥の方で感じ取ったらしいです。……これが自然に発生した現象であれば危険ではありますが……」
「もしかして人為的に誰かが起こしているって言いたいの?」
「アイゼンさんが言ってたじゃないですか。岩盤を削る時にそのような地響きがするって」
「じゃあ、犯人はその岩盤を削って落盤を起こそうとしてるってこと?」
リリィは若干不安げな声色で聞く。
「……どうでしょうね。アイゼンさんの話だと質の良い鉱石が採れなくなったという話もありますし……まぁこれから調べればわかる事ですが」
「……大丈夫かな」
「心配なら、貴女もアイゼンさんの所まで避難しても良いんですよ?」
「……」
女神がそう言ってリリィを安全な場所に誘導するのだが、リリィは不機嫌そうな顔をして女神の先を歩いていく。
「……リリィってそんなに頼りない?」
「え?」
「リリィは自分の意思で皆の仲間になったの。だからもう一人だけ逃げたりしないよ」
「……ふふ、そうですか」
女神はそんなリリィを見て笑顔になり、彼女の後を追って奥へと進むのだった。
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