第93話 怪しい影
前回までのあらすじ。
俺達は元領主のカミラの協力を取り付けて無事に現領主のアイゼンと話をすることが出来た。
彼の話によると、最近になってこの鉱山から良い鉱石が採れなくなったとの事。
その事についてカミラに心当たりが無いか聞いたところ、空気の流れが変わった気がするとの答えが返って来た。俺達はアイゼンに許可を得て鉱山を探索する事にしたのだった。
「さぁてと、どこから調べますかね?」
俺は先に進みながらとりあえず仲間達の意見を聞いてみる。
すると女神から返事が返ってくる。
「私達は知識がないのでこの鉱石の判別が難しいですし、危険な場所もあるかもしれません。まずは実際に鉱石を採掘している現場の様子を見に行きませんか? そこで何か手掛かりが見つかるかもしれません」
「そうだな、じゃあまずは採掘現場に行くとするか。確かこっちだったな……」
俺達は聞いたこと頼りに歩き始めるが、リリィが俺の皮のマントを引っ張った。普段はマントなんて付けないが砂漠対策に必須だ。
「ん、どうした?」
「一人で先行して進むと危ないよ」
「あん? なんでだよ?」
「……」
俺がそう質問するのだが、リリィは何も答えない。俺が不思議がっていると、作業員の男性がこちらに近付いてくるので俺達は情報を得るために話しかけに行く。
しかし、大した情報は得られなかった。
そうして歩き回って調査するのだが素人である俺達には難しい。
こうなれば誰か捕まえて鉱山の中を案内させようか。
俺はそんな提案をしようと考えていたのだが、隣にいるリリィの様子が少しおかしい事に気付いた。時々足を止めて周囲を振り返ったり、何か不安そうな顔をしていた。
「おい、リリィ。どうかしたのか?」
「……ううん」
「その割に具合悪そうだが……疲れたなら一度戻るか?」
「違うの……気のせいかもしれないけど、時々地鳴りがするの。もしかしたら落盤が起こるかもしれない」
「え!?」
俺達はリリィの言葉に驚いて足を止める。
「リリィちゃん、それ本当?」
カルミアちゃんが少し慌てた様子で聞くと、リリィは即座に返答せずに少し間を置いて答える。
「うん……でもあんまり自信は無い」
「一応、ここで働いてる人にも確認した方がいいですね……。正直、そんな話を聞いてしまうと今すぐここから出たいというのが本音なのですが……」
「そうだな、じゃあ安全な所に居る領主様に報告してみるか。もし本当に落盤が起こりそうだったら作業員に避難の指示をしてもらないといけねーし」
「ならリリィさんと私はアイゼンさんにこの事を報告してきます。砕斗とカルミアさんは先に行って作業員の人に声を掛けてみてください」
「ああ、分かった」
俺はそう返事すると、女神とリリィと共にアイゼンの居る小屋まで戻るのだった。
◆◇◆
「なに? 落盤が起こるかもしれない?」
女神の報告を聞いたアイゼンは怪訝そうな顔をして言った。
「はい、この子が言うには地鳴りの音もするそうです。もし何かあれば奥で作業をしている方々が危険です。避難の指示を出してくれませんか?」
女神はそう言ってアイゼンにお願いをする。だが、アイゼンはぷよぷよとした自分の顎肉を触りながら言った。
「……バカバカしい。そんな事起こるわけないじゃないか」
「でも、本当に……」
「確かにそのような報告を以前に聞いたことはあるが、実際そのような事は起こっていない。どうせ岩盤を削る時の振動をそう勘違いしたんだろうさ」
アイゼンは自信満々にそう言って女神の言葉を否定する。
「いや、しかしですね……」
女神が食い下がろうとすると、話を聞いていたカミラが突然アイゼンの頭を叩く。
「このバカ息子が!!」
「あいたっ! ……何すんだよカーチャン」
「相変わらずお前は捻くれ者だねぇ……。そんなにママに構って欲しいのかい!?」
「やめろ! くっつくな!」
カミラはアイゼンを後ろから羽交い絞めにして、彼の頬を指でぐりぐりと弄る。
「全く、お前は昔からこうだったよ! ひねくれた事ばっかり言って、ワタシがどれだけ苦労したか……!」
「分かったから離せよ! もう子供じゃねーんだからベタベタすんな!」
アイゼンはそう言いながらカミラの手を振りほどく。
「やれやれ……相変わらずだねぇこの子は……。
このバカの事は放っておいていいからお前達はこの事を作業員に呼びかけて避難させとくれ。万一、鉱山が崩れようものなら街の収益がどうのとか言ってる場合じゃないからねぇ」
「……分かりました」
カミラにそう指示を出された二人は、とりあえず坑道を出て作業員達を探しに行くのだった。
◆◇◆
その頃、別行動をしているサイトとカルミア。
「お、いたいた」
「あの人達がここで働いてる人達ですね」
坑道から少し離れた場所で働いている作業員を見つけ、俺とカルミアちゃんは声を掛けて事情を話す。
「落盤……? そんなの起こってねーよ」
「ええ、それらしい音も地鳴りも今はしてませんし……」
作業員はそう言って否定する。
「でも、俺達の仲間が……」
「万一の事があるので作業を中断して一度戻ってもらえませんか?」
俺達はそう言って作業員にしつこく頼み込む。
「でもなぁ、アイゼン様が……」
「そのアイゼンから頼まれてるんだよ」
まぁまだ許可取ってないんだが。
俺がそう言って食い下がると、作業員は仕方ないといった様子で言う。
「はぁ……分かったよ。アンタらの言う事が本当なら俺達も危ない目に合うかもしれねーしな」
「ありがとうございます」
カルミアちゃんが礼を言って頭を下げると、作業員達も同様に礼を返してその場から去って行く。
「ほっ……これで安心ですね」
「ああ、だが肝心な俺達の目的が達成できてないんだよな」
「目的というと……」
「ほら、鉱石の質が何故悪くなったのって話」
「そういえばそうでしたね」
「どうすっかな……俺達も避難した方が良いんだろうが、こっちも一応調査しないといけない案件だしなぁ」
俺達二人が次にどう動くか悩んでいると……。
「……」
「……ん?」
ふと、誰かに見られているような視線を感じた。近くにいた作業員は全員避難してもらったはずだが、まだ残っているのだろうか。俺はそう思って声を掛けようとするのだが……。
「おーい、そこの――」
――タタタタタッ!!
俺が声をかける前にその誰かは一目散に遠くへと逃げてしまう。
「……なんだ?」
今の後姿、どうも作業員ぽく無かったような……。
「どうかしたんですかサイトさん?」
「いや……今、誰かに見られてた気がするんだが……逃げちまったな」
俺はそう言ってカルミアちゃんと一緒に辺りを警戒する。
「もし避難の事を知らないなら追いかけないと!」
「……ああ、そうだな」
俺達は逃げた人影を探しながら調査を開始することにした。
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