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第92話 調査開始

 ――アステア鉱山――


「ここがアステアの鉱山さ」


 カミラはそう言って俺達を先導する。俺達はカミラの後についていき、そのまま鉱山の入り口まで辿り着いた。入り口の前には領主の私兵と思われるガタイの良い男性が通せんぼしており、こちらを見るなり近づいてくる。


「おい、余所者。ここはレストアの領主アイゼン様の私有地だ。勝手に入られると困るんだよ」


 男はそう威圧的に言い放ってくる。

 男は一緒に居るカミラに視線を移すと嫌そうな顔をする。


「なんだこの汚らしいババアは……おい、ここはお前の様な薄汚い奴が立ち入れられる場所じゃあないんだよ」


「ワタシはそのアイゼン様の母親だよ、このバカたれが!」


 カミラは睨みつけながら男の言葉にそう返す。すると男は顔を青くして後退る。


「な、アイゼン様の母親……!?」


「だそうだぜ。ご領主様の親族がこうして訪ねてきたんだ。俺達も入れてくれるよなぁ?」


 俺は男にそう言うと、男は困った顔をしてカミラを見る。


「ひっひっひ! 久しぶりの息子の顔を見るのに面倒な手続きなんて要らないだろう? ワタシが直々に様子を見に来てやったんだからアンタはさっさとそこを空けな」


「……わ、分かりました」


 そう言って男が渋々道を譲るとカミラは勝ち誇ったように笑いながら鉱山の中に入る。俺とカルミアちゃんとリリィもそれに続いて鉱山の中へ入って行くのだった。


「いや、助かったぜ元領主さん。アンタのお陰ですぐにでも息子さんに会えそうだよ」


「本当に助かりました!」


 予想以上にスムーズにいった事に気を良くした俺達は、カミラにお礼の言葉を述べる。


「ひっひっひ! もっと感謝してもいいんだよ!まぁワタシとしては最近あまり顔を合わせてなかった息子と話せるいい機会ってもんさね。あくまでお前達の要件はついでさ」


「それでも助かりました。お礼を申し上げます、カミラさん」


 女神は丁寧に礼をするが、カミラはそれを手で制して言った。


「まだお礼は早いんじゃないかい。お前達の目的は息子と交渉して町の圧政を解かせる事なんだろう?」


「それは……」


「その点に関してはワタシはもはや部外者だけど…あの馬鹿息子に一言ガツンと言ってやらにゃ気が済まないからね」


 カミラはそう言うと俺達を先導して鉱山の奥へ進んでいくのだった。


 ◆◇◆


「アイゼン! 居るんだろう!? 話があるからここを開けな!!」


 鉱山の中を進む俺達はカミラの先導で奥へと進んでいき、やがて最奥にある小屋まで辿り着いた。


「ここに息子が居んのか?」

「あの馬鹿息子がツルハシを振りかざして汗水垂らしてるとも思えないから間違いなくここで休んでる筈さ……。おい、開けないなら今からこの扉を魔法でぶっ飛ばすよ!!」


 カミラはそう言いながら小屋の扉に手をかざすと、指先に光を灯してそう脅す。

 するとすぐに慌てた様子の男の声が聞こえてきた。


「わ、分かった! 開けるから扉を破壊するのは止めてくれ!」


 そして扉が開き、中から出てきたのは30代半ばくらいの小太りの男性だった。随分と高そうな服や装飾品を身に纏っているが、慌てて出てきたのか顔から肩の辺りまで汗びっしょりだった。


「な、なんだアンタ達……このアイゼン様の私有地だぞ……!」


 アイゼンと名乗った男は俺達を見て怪訝そうな顔をした後、カミラに視線を向けたと思えば突然後ろにひっくり返る。ドスンと尻餅を付いたアイゼンはカミラを見てまるで悲鳴のように言った。


「か、かーちゃん!」


「ひっひっひ! 久しぶりだねぇ、アイゼン。ワタシを屋敷から追い出してからぶくぶくと太ったもんだ。アンタ、その腹の肉で馬にも乗れないだろう? 全く、情けないねぇ」


「う、うるさいな! かーちゃんこそなんだよその恰好は……。元領主の妻がそんな小汚い恰好で出歩くなんてどうかしてるぞ……」


 アイゼンは尻餅を付いたままカミラに文句を言う。このまま二人に話させていると家族会議に移行しそうだったので、俺達は慌てて二人の間に割り込んで仲裁に入る。


「悪いんだけど家族団欒は後にしてくれねーか。用があるのは俺達の方で、この人はアンタに会うために協力してくれたんだよ」


「なっ……!?」


「チェッ……まぁいいさ。馬鹿息子の説教は後回しにしてやろう」


 カミラはそう言うとアイゼンから離れて俺達の方にやってくる。そして、アイゼンは立ち上がると苛立った様子で俺達に話しかけてきた。


「見た感じアンタ達は冒険者だろう。冒険者風情がこの俺に何の用だ」


「あのな、俺達――」


「サイトさん、ここは私が」


 俺が話を進めようとするとカルミアちゃんが代わりに話を始める。どうやら昨日俺と話をした事を少しでも実践しようと考えているようだ。


「初めまして、アイゼンさん。私はここより東の地にあるレガーティアの国王様に頼まれて遣わされたカルミア・ロザリーです。どうか落ち着いて私の話を聞いてください」


「レガーティアの国王だと……?」


 アイゼンはカルミアちゃんの言葉で態度が一変し、カミラの方を見る。


「かーちゃん、まさか……」


「ワタシは何も関わってないよ。あっちが勝手にお節介焼いてきただけさね」


 カミラはそう言って知らんぷりの態度をする。


「レガーティア国王はこの町の人達と親交があるようで、この国の情勢が悪化していることに心を痛めています。それでレストアの街の人々に話を聞いてみると、この鉱山の鉱石の採掘量が激減して収入が悪化、そして新しく始めたビジネスが失敗して、そのしわ寄せとして住民は重い税を掛けられて苦しんでいるのだとか……」


「……ぐ」


 アイゼンはカルミアちゃんの言葉に言い返す事も出来ず、顔を歪めて悪態を吐く。


「ぜ、税金は仕方ないんだ……。ああでもしなければ、この鉱山だって運営出来なくなるし、それにお前達にどうこう言われる筋合いは……」


「でもよ、現領主様。それで民が苦しんで不満を漏らしてる。アンタも何らかの起死回生の策で新しい商売を始めたって話だがそっちはどうなんだ? 街の人の話によるとどうも結果が伴っていないらしいが……」


 俺がそう質問すると、アイゼンは歪めた顔が真顔に戻り、こちらを睨みつけながら言う。


「……この大陸で生息する魔物の肉を捌いて、それを販売しようとしていた」


「魔物の肉……?」


 俺達はそれを聞いて首を傾げる。そんな俺達の反応が面白くなかったのか、アイゼンは苛立ったように説明を始めた。


「以前、ここに来た行商人が私に売り出していたんだ! 実際に試食してみたら中々の美味で、その魔物を養殖して肉を売り出せばきっと大儲けできると考えた!

 ……だが、いざ実際に売り出してみたら肉が臭くて食えないだの魔物を捌くのは危険でやりたくないだの、餌代が掛かるだのでロクに売れなかった! くそ! あの行商人め!」


 アイゼンはそう言って悔しそうに床を殴る。


「結局、魔物の肉は大した値段にならなかったし、他も色々考えたが失敗続き……結果このザマだ」


「……なるほど」


 街の人の言ってた新しい商売とはこの事だったのか。

 だが、魔物の肉を売り出すなんていくらなんでも無謀すぎるだろ。


「……大人の話って難しくてよく分かんない」


 リリィは俺の傍に寄ってきてそう俺にボヤく。俺は小柄の彼女の頭にポンと手を乗せて軽く撫でる。


「失敗続きで税を上げるしか街や鉱山を存続させる手が無かったと……そういう事ですね?」


 女神はアイゼンにそう確認すると、アイゼンは「ああ」と感情の消えた声で肯定する。


「話は分かりました。つまり収益が以前の状態に戻せれば街の税金も戻せるという事ですよね?」


「……それが出来れば苦労しない」


 カルミアちゃんの質問にアイゼンはそう言って悔しそうに歯噛みする。


「っていうかよ、そもそも何で鉱山の採掘量が減ったんだ? 鉱石の事はよく分からんが、そんな突然収益が落ちるって事があんのか?」


「……それが、どうにも不可解なんだ。以前までなら湯水のように鉱石が採れて加工すれば高値で売れていたのに最近は突然質が落ちて……。まるで誰かがこの鉱山から良い鉱石だけを盗んでいるかのような……。あと、誰の居ない鉱山の奥から妙な音が聞こえたという話もあるが……」


「ふーむ……」


 アイゼンの説明に俺達は考え込む。


「……とりあえず、俺達で一度調査してみるか?」


 俺は皆にそう提案してみる。


「でもサイトさん。私達は鉱石に関しては素人ですよ?」


「ああ、だから俺達だけじゃ鉱山を探索するのは難しい。アイゼンさん、さっきの話以外でこの鉱山で何か変わった事はなかったか? 例えば……怪しい人物がうろついていたとか」


 俺がそう聞くと、アイゼンは首を横に振る。


「いや、特に心当たりはない」


「何でもいいんだ。少しでも変わったことは無かったか?」


「……そう言われても」


 アイゼンは本当に心当たりがないようで、腕を組んで考え込む。

 そこに、彼の母親であるカミラが口を開いた。


「変わった事ねぇ……以前と比べて空気の流れが変わった気がするよ」

「なんだそりゃ、空気の流れ?」


 イマイチピンと来ない例えに俺は首を傾げる。

 するとカミラはいつもの不気味な笑い声を上げて言った。


「こういう狭い場所には空気の流れってもんがあるのさ。例えば、狭い穴に風の流れが流れていって外に出て行く事もあれば、逆に流れ込んで来て息が詰まるような事もある」


「なるほど、つまり異変のせいで空気の流れが変わったと」


 俺がそう聞くとカミラはニヤリと笑う。


「正確には逆さね。空気の流れが変わるような何かを誰かが引き起こしたのさ」


「……と、それってつまり……誰かがこの鉱山に手を加えたって事ですか?」


 カルミアちゃんの質問に、カミラは「さぁねぇ」と答える。


「よし、じゃあ早速調べに行くか」


 そう言って俺達は鉱山の調査に乗り出すのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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