第91話 二人はどういう仲なの?
前回までのあらすじ。
レストアの元領主を尋ねて町外れの森へ向かった俺達だったが、その前領主砂漠で会った老婆その人だった。俺達はその事実に驚きながらも、老婆の小屋の中に案内されて腰を据えて話をすることになった。
「まさか、あの時のお婆さんが前領主様だったなんて驚きました」
「普通、男だと思うよな」
「ひっひっひっ! まぁこんなどこの誰とも知らぬ気味の悪いババアが領主とか思わんさね」
老婆……もとい前領主のカミラはカルミアちゃんの言葉に愉快そうに笑う。
「自覚あったのかよ」
「そりゃこんな白髪頭と皺くちゃな顔じゃあ誰も分からんよ。実際、ワタシがレストアを治めていた時とは身なりも全然違うからねぇ」
「どうして、貴女はそんな恰好で旅人を脅かすような事をしていたのですか?」
女神は疑わし気な視線をカミラに向けて問いかける。
「”脅かす”、とは失礼だねぇ。ワタシは何も知らない哀れな冒険者達を無償で助けてやってるだけさぁ。実際、アンタらだって助けてやらなかったら幻覚の中で悪魔に喰われてたよ? 少しは感謝してほしいもんさね」
「……見た目が怖いから誤解されるんだよ」
おびえたリリィがそう呟くとカミラは素で驚いたような反応をする。
「おやおや、こんな可愛いお嬢ちゃんに言われたら、ワタシも少しは見た目に気を使うべきなのかねぇ……」
そう言って、カミラは幼いリリィの眺めてニタリと笑いながら言う多分、本人からすれば可愛いものを見て和んでいるだけなのだろう……別に獲物を前に舌なめずりしているわけではない。
「で? ワタシに何の用だい坊や」
「ああ、そうだったな。実は俺達はレガーティア王に頼まれてこの国が抱えている問題を解決する為に来たんだ。それでアンタに頼みごとがあって訪ねてきたってわけだ」
俺がそう説明すると、カミラは露骨に不機嫌そうな顔をする。
「……ほう? あの男、自分で顔も出さずに赤の他人を寄越すとは……。王様王様って随分偉くなったもんだねぇ」
「おいおい……」
あまりに辛辣な言葉で、普段から口が悪い俺でも思わず口ごもる。
「ああ、そういえば少し前に毛色の違う兵士のような恰好をした連中が町の方で何か探っていた気がするねぇ。……全く、自分で挨拶に来ないであの男は……」
「あの……お婆さん……いえ、カミラさんはレガーティア国王とどういった関係だったのでしょうか?」
「ん? そんな事も聞いてなかったのかい……全く……」
カミラは元々気味の悪い笑みを浮かべていた顔を更に歪める。
「……えっと」
「……なに、ワタシとあの男は旧知の仲だったんだよ。それだけさ」
「は、はぁ……」
カミラの言葉にカルミアちゃんは歯切れの悪い返事を返す。
「(……これは)」
女神の思念が俺の頭の中に響く。
なんとなく女神の考えが予想出来たので俺は念話で突っ込んでみる。
「(……まさか元旦那とかそういうオチか?)」
「(流石にそれは無いでしょうが……ただの旧友にしては随分と根に持ってるというか、意識しているように見えますし……)」
「(でもこの外見であの国王とどういう関係だ……? 歳の差恋愛とかか……?)」
俺はそう思って前領主のカミラに質問してみる。
「なぁカミラさん、あんた今幾つだ?」
「あん? レディに年齢を尋ねるとかアンタ男として終わってるねぇ。童貞かい?」
「ど、童貞ちゃうわ! ただの好奇心だよ」
俺はカミラの言い草に思わずムキになって叫んでしまう。
するとカミラはそんな俺を見てケタケタと笑いながら言った。
「ワタシはこれでもまだ60も行ってないよ。あの男と同期さ」
「嘘だろ!?」
外見だけ見たら100歳とかあっても不思議じゃないぞ。
「さて、坊やの頼みとやらを聞かせてもらおうか? ただ、あの国王がこっちに気を利かしてくれたんだから、多少気に食わなくてもアンタ達には対応してやるよ」
「そ、そうか……じゃあ話だけでも聞いてくれるか?」
俺はそう言ってカミラに事の詳細を話した。
するとカミラは興味深そうに頷く。
「なるほどねぇ……あの鉱山の所有権の名義はワタシだよ」
「なら協力してくれ。今の領主……要するにアンタの息子が部外者立ち入り禁止にしてるせいで俺達は入れないんだよ」
「……たしか、ここ1年くらい採掘量が激減しているんだったね……最近息子の態度が悪いっていうのは風の噂で聞いてるし、たまには親が出て説教してやらにゃいかんか……いいさ、協力してやる」
「ありがとうございます!」
カルミアちゃんがカミラに礼を言う。
「ひっひっひ! ワタシが協力してあげるんだから感謝しなよ」
カミラはそう言って魔女のような気味の悪い笑い声を出して立ち上がる。そして小屋の扉を乱暴に開けると、何処から取り出したのか箒を取り出して俺達に言う。
「じゃあ早速、鉱山を見に行くとしようかねぇ」
そう言って箒に跨り、そのまま外に飛び出して行った。
「……って、俺達を置いていくなよ」
俺はそう小さく突っ込むと、仲間達と一緒にカミラの後を慌てて追うのだった。
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