第89話 前領主様に会いに行こう
次の日。俺達は領主と挨拶する前に街の人達にこの街レストアが今どういう状況なのか聞いて回る事にした。
「ここの街の近くに鉱山があって、大半の男はそこで働いてるよ」
「なるほど、鉱物資源の採掘ですか……」
「ああ。その鉱山で採れる宝石や鉱石はレストアの名産品として他国に輸入されてるんだ」
「ふむふむ……じゃあこの街に住んでる人達は皆そこで働いてるんですか?」
カルミアちゃんが尋ねると男は首を横に振る。
「いや、そういうわけじゃないさ。確かに鉱山で働く人は多いけど、街から出稼ぎに行く奴もいるし女達は別の仕事だってある。ただ……」
住民の顔が曇る。
「……最近、鉱山の採掘量が減ってね。それで街全体の収入が以前よりも大きく下がってしまった。そのせいで不景気になって、街に活気がないんだ」
「なるほど、活気が……」
女神は街の周囲に視線を巡らせる。彼の言葉が真実かどうかは分からないがあまり街が賑わってる様子はない。大半の男が鉱山で働いていると言っていたが、その割に若い男性が暇そうにしているのも仕事が減ってるのが理由だろうか。
「それで、領主様は別の商売で収益を取り戻そうとしているんだがそれも上手く行かず赤字続きらしくてね。数ヶ月前から、突然領主様はこの街の税金を高くし始めたんだ。おかげでウチの息子どもは皆貧乏だよ……」
「ふむ……税金、ですか」
「それだけならまだ良かったんだけど、今の領主様は前領主様と違って気が短くてね。少し税の支払いが遅れると怒り狂って、滞納者の家に赴いて烈火の如く怒り始めたりするのさ」
「それは穏やかじゃないですね……」
女神が苦い顔で言うと、住民も頷く。
「ああ、だからウチの息子達もいつ取り立てにやって来るか気が気じゃなくて……。領主様には何度もお願いしてるんだけど、聞く耳を持ってくれなくてね」
「……なるほど」
カルミアちゃんは何か考え込むように顎に手を当てる。
「レガーティア王が言ってた圧政ってのはこの事だったんだな……」
「街の収益の減少と新商売の失敗……これらのしわ寄せが住民に重税という形で圧し掛かって、それが更に街全体の不景気に繋がるという悪循環に陥っている……これは早急に手を打つ必要がありますね……」
女神はそう言うと住民は驚いた顔をする。
「あんたら、初めてこの街に来たばかりなのに妙に理解が早いな?」
「ええ、ちょっとレガーティア王から依頼がありまして」
女神はそう言って話を合わせる。するとその住民は驚いた顔をする。
「レガーティアの王が……!? そういえば、以前の領主様はレガーティアの国王と親友だったって聞いたことが……」
「その国王様がこの街の事を心配して私達にこの国の問題を解決してほしいと依頼を受けたんです。出来れば、私達に協力して頂けないでしょうか?」
女神はニコリと微笑む。
「レガーティアの国王が……この街の事をそこまで思ってくれているとは……」
男は感動して少し涙ぐむ。
「それで、ちょっとお願いしたい事があるんですが」
「ああ、何でも言ってくれ。出来る限り協力するよ」
そう言うと女神は男にこの街や領主について尋ねてみる事にした。
◆◇◆
街の人達から情報を得て、俺達は早速領主の屋敷に向かう事にした。
領主の屋敷は街の最奥にあり、噂通り他の民家と比べて広い土地に建てられている。
街の様子は活気があるとは言えないが、それなりに人通りはある様だ。
俺達は屋敷の前まで辿り着くと早速門番に話しかけてみる事にした。
「すいやせーん」
俺がそう話しかけると門番達は怪訝そうな顔をして俺達を見る。
「なんだお前達は?」
「すみません……私、レガーティアから依頼を受けた冒険者なんですが……」
カルミアちゃんはそう言ってレガーティア国王から貰った書状を兵士に見せる。
「領主様と面会したいのです。通して頂けませんか?」
カルミアちゃんはそう言ってお願いする。だが、兵士は「うーむ」と唸って俺達に書状を返す。
「会わしてやりたいところだが領主様は今、屋敷の中にはおらず留守なんだ。最近、鉱山の方の仕事が捗っていないようで、私兵を連れて鉱山の視察に行っておられる」
「帰ってくるのはいつ頃でしょうか?」
「さぁな、日を跨ぐという事は無いだろうが、いつ帰るとは聞いていないから返事は出来ん」
「……困ったな」
「じゃあ、私達もその鉱山に行ってみましょう。何処にありますか?」
「ここから北の方に行けばあるが……。鉱山の採掘場は素人には危険な場所だぞ? それに、領主様の許可なく立ち入る事は出来ない」
「鉱山の所有権はどちらの方ですか?」
「それは、前領主様だが……しかしあの方は現在隠居されておられる。だから鉱山の所有権は今の領主様に帰属される」
「なら、その方と交渉出来ませんか?」
「うーむ、だがあの方は気まぐれで今の領主様よりも厄介な方だぞ?
……あ、いや……今の領主様に不満があるというわけでは……すまん、この事は内密にしてくれないか。俺もここをクビにされたら行く当てが無いんだ」
「自分で墓穴掘ってるじゃねーか……」
「なら、ここで不満を言った事は内密にしておきますから、その前領主様の名前と居場所を教えて頂けませんか?」
カルミアちゃんがそう頼むと門番の兵士は困った様に頭を掻く。
「前領主様の居場所か……あの方は神出鬼没でな。何処にいるのか、いつ帰ってくるのか誰にも分からないんだが……一応住んでいる場所は教えよう。帰ってきているかは分からんがな」
そう言って見張りの門番は俺達に地図を渡す。
そして、この街から南東の場所を指差して言った。
「前領主様……カミラ様は街から外れた辺鄙な場所に一人で暮らしている」
「分かりました、ありがとうございます」
カルミアちゃんはそう言って門番に頭を下げて礼を言う。
そして、俺達の方に振り返って言う。
「それじゃあまずはカミラって人の所に行きましょうか」
「なんか、思ったよりも時間が掛かりそうだね……」
リリィはそう呟き、俺達はそれに頷いたのだった。
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