第09話 正義感の強い勇者様と凡人主人公
初投稿?
「はぁ……はぁ……」
「うぅ……なんとか撒けたみたいですけど……」
息を切らしてその場に座り込む僕達。
勢いよく彼女の手を引っ張って走ってきたのは良いが、先に体力が尽きたのは僕の方だった。
僕が深々と呼吸を繰り返して周囲に気を配る余裕はないが、彼女は周りを確認するだけの余裕があり、僕のように大の字で寝込んでいる様子は無い。男である僕が先に体力切れを起こすなんて情けない限りだ。
「旅立ち早々、危うく身ぐるみを剥ぎ取られるところだった……」
「あはは、でもサイトさんカッコよかったですよ♪ 下手にあの人達に従ってたら酷いことになりそうでしたし……」
「そ、そうかな……?」
正直、めちゃくちゃ恥ずかしいけど褒められて悪い気はしない。
「でも意外でした」
「え?」
「サイトさんってあんな風にいきなり怒れるイメージがありませんでしたし……」
「あ、あぁ……」
「それに、一人称も『僕』から『俺』に変わってて……ちょーっと、本当にちょっとだけビックリしました」
「……」
一応言い訳をさせて貰えるならアレは不可抗力だ。
僕は決して自分の力を誇示したくてあんな行動に出たわけではない。
口調が変わったのは……昔の自分が出てしまっただけだ。
「でも、あの盗賊のリーダーさんを素手で殴ったのはサイトさんらしいですよね」
「え、僕らしい……?」
別に僕は他人を拳で殴るのが好きとかそんな特殊な趣味は無いのだけど。カルミアちゃんは何を以て僕らしいと考えたのか、全く理解が及ばない。もしかしてこの子は天然ってやつなのだろうか?
「だってだって、サイトさんは剣を持ってるじゃないですか?」
カルミアちゃんはそう言って、僕の腰に掛かっている剣を指差した。
「それを使わないのは、サイトさんの優しさですよね。向こうの武器は大したものが無かったからそれを使えば上手く切り抜けられたかもしれないのに」
「……それは優しさって言うんだろうか」
剣を使わなかった理由は一つ。
下手に脅しの道具として使って誤って殺してしまうのは避けたかったからだ。
別にあの盗賊たちを気遣う感情など無い。
というか盗賊たちに絡まれた時、カルミアちゃん……妙に静かだったような?
あんな奴らに脅されたら誰だって怖くて怯えるものだけど、彼女はそんな様子では無かった。
むしろ僕だけビビッてた気がする。
「それにサイトさん。私の事をちゃんと気遣ってくれたんですよね? やろうと思えば私を置いて逃げることだって出来たはずですし……」
「……っ。それは当たり前だよ、だって……」
『好きな女を守るのは男として当然だろ (キリッ)』
「!!」
おいコラ、クソ女神!
ずっと黙ってたと思ってたのに突然人の思考盗聴するんじゃねえよ!
突然脳内に割り込んできたバグ女神の声に思念で反論する。
『ふふっ、カッコいいじゃないですか。まぁ実力が伴ってないのが笑えますけど』
あぁん?マジでぶっ殺すぞ。
「どうしたんですか?」
僕が急に押し黙ったのを不審に思ったのかカルミアちゃんが僕の顔を覗き込む。
今脳内で女神様と話してる最中ですって言えれば楽なんだけどな。多分言ったら可哀想な人扱いされそうなので絶対言えない。彼女ならきっと優しい目で僕を見守ってくれそうだけど、それで距離置かれたら死にたくなる。
『っていうか私と話す時に妙に口調が荒れるのはわざとじゃなくて素ですか?』
「……」
「おーい、サイトさーん?」
「あ、ごめん……そろそろ行こうか……あいつらが追ってくると面倒くさいし」
「ですねー! 冒険再出発しましょう!」
カルミアちゃんはそう言ってスカートの裾を抑えながら立ち上がる。思わず彼女のスカートの中がチラリと見え掛けて凝視しそうになったが、自分の心の奥底に眠る申し訳程度の紳士がそれを必死に抑え込んだ。
「どうかしたんですかー?」
「なんでもない……」
この子、強いのに人の視線に無防備過ぎる……。
一緒に旅をする上で彼女の無防備さは何とかしないといけないかもしれない……と、僕は彼女に気付かれない様に溜息を一つ吐く。
その後、僕達はまた盗賊たちに鉢合わせしないように道を逸れて移動し関所に辿り着いた。
僕達が関所に近付くと兵士の一人がこちらに歩いてくる。
「そこで止まってください……旅の方ですか? この関所はグリムダール国王の許可が下りた者のみが通行を許されている場所です」
「どうも、許可ならちゃんとありますよ」
兵士の言葉にカルミアちゃんは反応して鞄から王様に貰った通行許可証を取り出す。
「失礼、確認させて頂きます……国王様のサインも入っていますね。どうぞ、お通り下さい」
兵士がそう言って一歩下がると、関所の扉が他の兵士によって開かれる。
「ありがとうございます」
「……そうだ。ここに来る前に怪しい奴らに絡まれました。多分、盗賊だと思うんですけど」
僕がそう切り出すと、兵士の人は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……また現れたのか……”黒炎団”が……」
「黒炎団……?」
その言葉に反応して聞き返すと、兵士の人が教えてくれる。
「はい、国中で指名手配されてる凶悪な盗賊集団です。別の国から流れてきたという噂もあるくらいで、奴らは無法者を集めて勢力を拡大し続けているという噂もあります。もし見掛けても近寄らずに最寄りの兵士に報告をお願いします」
「指名手配って……そんなに危険な奴らなんですか?」
「はい。旅の行商人を襲って金品を強奪したり、村の女子供を浚って身代金を要求するなどの事件も複数報告されています」
そんな危ない奴らだったのか……ただのチンピラだと思ってたのに……。
「おそらく、あなた達が出会ったのは”黒炎団”の下っ端の方だと思います。
そいつらは道のど真ん中に数人で通りかかった旅人を待ち構えて金品を要求したりなどを行っているようですが……。こちらもそいつらの対処に追われているのですが、何度捕まえても別の連中が現れるので対処が難しいんです」
「そうですか……」
「そんな悪い人達許せませんね! 私達で捕まえましょう、サイトさん!」
「へ?」
「え?」
カルミアちゃんのまさかの発言に僕と兵士の人が同時に彼女の顔を見る。
「いや、盗賊ですよ? 危険ですよ?」
「そうだよカルミアちゃん。さっきは逃げられたけど、まともにやり合ったら流石に……」
「えー?」
僕と兵士さんの言葉に不満そうな声を出すカルミアちゃん。あの時は不意打ちだからパンチを当てられただけだ。次は通じないだろうし殴られた事に腹を立てて報復を受ける可能性すらある。
「っていうか、カルミアちゃん。あんな連中に囲まれて怖くなかったの?」
「いえ、怖いというか……絡まれていた時はずっと『この人達、なんでこんなことをしてるんだろう』って思ってました」
「どういうこと?」
確かに彼女は怯えている様子は無かったが、そんな事を考えていたのか?
「だってだって、あんなことをする意味あるんですか? 仮に金品を得られたとしても、街に入ればお尋ね者として追われる事になりますし……普通に働いた方がよっぽど楽だし、何より家族や友達だって作れるかもしれないんじゃないですか」
彼女の考えを聞いて僕も考える……彼女の言葉は正論だ。
しかし、世の中にはどうしても社会やルールに適合できない者もいる。
奴らはそういう集まりなのだろう。
付き合いはまだそこまで長くないが、普段の言動を見る彼女は正義感が強いのは理解してる。”勇者”という肩書も彼女のように正義感溢れる人間を指すのかもしれない。清廉潔白な彼女が盗賊団を許せない気持ちも分からなくもないが……。
「カルミアちゃん、気持ちは分かるけどそれは僕達の仕事じゃないよ。奴らを取り締まるのは兵士さん達の仕事だ」
「うっ……」
僕の言葉に口を噤むカルミアちゃん。すると兵士さんも僕の言葉に同意したのか彼女の言った。
「彼の言う通りですよ。キミのような少女がそんな奴らとやり合うなんて危険だ。そういう事は我々に任せておいてください」
「で、でも……」
「大体、アイツらの後ろにどれだけの構成員がいるのか分からない状況なんだよ。仮にさっき僕達が出会ったゴロツキ達に仕返しをしたとしても、その報復にどれだけの人数が出てくる事か……」
「……そう、ですよね」
僕の説得にカルミアちゃんは少し寂しそうな顔をして頷く。
う……そんな顔をしないでくれ……。
勿論、自分の命が惜しくて関わりたくないって気持ちもあるが、キミの事も心配なんだよ。
『その言葉、本人に言ってあげないんですか?』
僕の脳内から女神の声が響いてくる。
なんでも言えば良いってもんじゃないだろ。彼女だってこちらの言葉が正しいのは理解してるみたいだし……。
「とにかく、奴らは非常に危険な存在です。もしも見掛けたら最寄りの兵士にご報告をお願いします」
「分かりました」
「あ、それと……ここから先は魔物の姿がチラホラ見られます。さほど強力な魔物は居ないはずですが、中には今まで見られなかった新種の魔物が出たという報告もありますのでご注意を」
「ま、魔物か……」
そういえば、この世界に来てまだ一度も魔物を姿を見た事が無かった。
一体どういう奴らなんだろう……。
「じゃあサイトさん、先を急ぎましょう。日が暮れないうちに”ラズベランの街”まで行かないと」
「あ、そうだね」
どうやらカルミアちゃんは何とか納得してくれたようだ。
「それではお二人とも。旅の精霊の加護があらんことを」
「旅の精霊?」
「はい、行ってきます♪ 」
旅の精霊とかいう謎のワードに困惑したが、兵士さんに見送られて僕達は関所を抜けて魔物のいる世界へと足を踏み出した。
読んでくださってありがとうございます。
ちょくちょく主人公の一人称が変化しますが、誤字では無いのでご了承ください。
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