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第88話 散歩

 それから俺達はどうにか数日かけて目的の街レストアに辿り着いた。


「……や、やっと着いた……」

「いやぁ……割とここまでの道のりは地獄だったな……」


 俺達は馬車の中でぐったりとしながら言葉を交わす。今までの旅路で野宿は何度かあったが、今回は特に酷い目に遭った……。


 砂漠の悪魔とかよく分からない存在に惑わされたり、カルミアちゃんの着替えを見てしまったり、その後も度々トラブルに見舞われたり……とにかく色々あり過ぎてもうクタクタだ……。


「と、とりあえず領主様にご挨拶に向かわないと」


「いやぁやる気があるのは買うが、カルミアちゃん。今は宿を取りに行こうぜ。領主に会う前に街の様子を探らなきゃだしな……」


「そ、それもそうですね……」


「お姉ちゃん、もしかして緊張してる……?」


 リリィがカルミアちゃんに訝し気に尋ねる。


「べ、別にそんな事はないよ……?」


 カルミアちゃんは言葉を詰まらせて俯いたが、その挙動がもう肯定しているようなものなのだが……。


 そんなリリィの言葉に俺も同意する。


「まぁ俺達も居るし緊張することは無いと思うぜ」

「そ、そうですね……ひとまず宿を探しましょうか……」


 今回の旅にあたってカルミアちゃんはレガーティア国王に直々に仕事を依頼されている。それもあってかパーティのリーダーとして俺達を仕切ろうとする場面が見受けられた。ただ、元々の性格もあって押しが弱いせいで結局上手くいってない。


 結局、パーティ全体を引っ張るのは女神様になりがちだ。とはいえその女神様も『砂漠の悪魔』とやらにしてやられたせいで意気消沈気味だったりする。


「……ようやく身も心も休めそうです」


 女神はそう言いながらため息を吐く。

 彼女もそんな調子では先が思いやられるだろうな……。


「さて、とりあえず宿を取ったら皆自由行動でいいか?」


 俺が皆に尋ねると全員が頷いたので、俺は領主の館に向かう準備をする為にも宿で休むことになった。


 ◆◇◆


 宿を取った後、各自個室で旅の疲れを癒す為に休息を取っていると、俺の部屋の扉をノックされた。


「お、夜這いか?」

「違いますよっ!!!」


 俺がそう軽口を叩くとカルミアちゃんの慌てた声が聞こえてくる。

 俺は扉の施錠を外して彼女を部屋に迎え入れる。


「どした、カルミアちゃん」

「今から少し散歩でもしませんか?」

「散歩? ああ、構わないぜ」


 俺はチラリと自室の窓に視線を向ける。

 街に辿り着いて数時間、外は日が傾いて夕暮れに差し掛かっていた。


 レストアの街は砂漠から距離が離れていたが、それでもこの辺りは夜になると肌寒い。俺と彼女は普段着に一枚羽織って外に出る。


「うー、寒っいなぁ……」


「この大陸に来て随分気候に悩まされてますよねぇ」


「まぁな。グリムダールやレガーティアは丁度良い感じだったが、砂漠のある地域は年中暑い所と寒い所の気温差がすげぇ激しいらしい」


「ここの住んでる人達は大変ですねぇ」


「ああ、そんな過酷な環境だからこそ気候に合った生活環境を整えて上手く共存してるんだろうなぁ」


 そんな他愛もない会話を交わしながら俺とカルミアちゃんは街を歩く。

 すると彼女はふと立ち止まって俺に尋ねる。


「……サイトさん。……その、砂漠でのことですが……」

「ん?」


 俺は立ち止まって彼女の言葉の続きを待つ。


「その……女神様とサイトさんの事です」


「あー、あの時の話か」


「その……お二人って仕事上の関係なんですよね?」


「仕事かどうかって言われると眉唾もんなんだがな……俺からすりゃほぼ強制的にここ(異世界)に連れて来られたし」


「そうなんですか?」


「ああ、向こうの世界の仕事帰りに家で休んでた時にいきなりだったからなぁ……」


「もしかして、こっちの世界に来たのは嫌だったんですか?」


 カルミアちゃんは複雑そうな表情で俺を伺う。


「いや、魔物や犯罪組織と戦う羽目になったのはしんどいが、こっちの世界に来て良かったとは思ってるよ。不便な事も多いが、その分楽しい事も多いしな」


「……なら良いんですけど」


 カルミアちゃんはそう言ってにこりと笑う。


「で、女神はその時にアレコレ指示されてどっちかというと嫌な上司って感じだったが……」


 とはいえ、最近一緒に行動するようになって意外と親しみやすい奴だというのも理解出来てる。最初の時と比べたら彼女に対する考えも随分変わった。


「……まぁアレはアレで一緒に居て楽しい奴ではあるよ」

「……」


 俺がそう言うとカルミアちゃんは何とも言えない顔をする。


 ……やっぱりフラグが立ち始めてる?


「で、それがどうかしたか?」


「……いえ、私はいつまでも人見知りしてるのに、サイトさんは凄いなって……苦手な人でもそうやって理解して仲良くなれるんですから……」


「まぁ俺は昔からそんな感じだったからなぁ……」


「どうすればそんな風になれるのかなって……最近ずっと考えてるんです……。

 レガーティアの時もサイトさんや女神様がフォローしてくれなかったらあんな風に王様と話は出来なかったと思います。私は”勇者”なんて偉そうな肩書きを持ってるのに、いつも足を引っ張ってばかり……」


 ……そんな事を考えてたのか。


「んなことねぇよ。少なくともカルミアちゃんのお陰で事件を解決出来たし、国王も助けられなかっただろ。確かにカルミアちゃんは人付き合いが苦手かもしれないが、俺だって苦手な事は山ほどある。だからこそ互いに補い合って一緒に旅を出来てるわけだしな」


「……サイトさん」


「俺からすればカルミアちゃんは人を引き付ける魅力もあるし、称号に見合うだけの能力だってあるさ。

 強いて足りない部分があるとするなら、自分に自信がない事だな」


「……そ、そうなんでしょうか?」


「女神の奴を見てみろよ。アイツ、いつも無駄に自信満々で自分は常に優秀だと口にしてるだろ。だけど能力の高さで言えばカルミアちゃんだって負けてない。だからもっと自分を押し出してみると良いんじゃないか?」


「どんな風に?」


「そうだなぁ……普段から言葉遣いが固いしもっと砕けた感じで……。それでいて、自分の考えはしっかり発言するとか。後、あんまり気負わず人の話に耳を傾けてあげるとかさ」


「……そ、そんな事で良いんでしょうか……?」


「最初はそんなもんで良いと思うぜ。まず最初は俺達にタメ口を話す所から始めてみるか?」


 カルミアちゃんは俺に言われてちょっと考える仕草を取った後、小さく頷いて言った。


「……分かりました。……私、頑張ってみます」


「うーん、もっと砕けた口調で」


「わ、私、頑張る」


「リリィみたいに『カルミア、がんばる!』的な」


「そ、それはなんか恥ずかしいです……」


 カルミアちゃんはもじもじしながら俺の提案を遠慮する。


「まぁとりあえず丁寧口調を変えてく感じで良いんじゃね?」


「は、はい……」


「最初に会った時のカルミアちゃんはもっと気さくな口調だったんだがなぁ……」


「あ、あの時は精一杯、頑張ってたので……」


「それを素で出来る様になると良いな」


「……うん、やってみる」


 カルミアちゃんはそう言って決意の篭った声で頷いた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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