第87話 テント
謎の体験を経て、俺達はオアシスの側にテントを立ててそこで一晩を明かすことにした。流石に周囲が砂漠で冷え込むので、俺達は分厚い毛布で包まって外でたき火をして温まりながら今日起こった出来事と話し合う。
「いや、もうワケが分からねぇよ……」
俺はあの老婆に助けられてからこれまでの事を思い出し頭を抱える。
「疲れましたもんねー」
「ホントだよ! もうクタクタだっつーの!」
カルミアちゃんは人懐っこい笑みを浮かべて布越しに引っ付いてくる。
そんな彼女に気をよくして俺は軽く愚痴を溢す。
「っていうか女神様よぉ、神様のクセに幻覚だって気付かなかったのか?」
「む」
「いや、神様なら村が幻覚かどうかなんてすぐに見抜けるだろ?」
「……確かに少し違和感は感じましたが、他に休める場所も無さそうでしたし……仕方ないじゃないですか」
「お兄さん、あのまま無理して進んでたら本当に行き倒れてたかもしれないよ?」
シュンとする女神にリリィがフォローを入れる。恨みがましそうにこちらを見る女神の様子に俺はコホンと咳払いして誤解を解く。
「別に責めたいわけじゃないって。ただ神様にも苦手な事だってあるんだなって親近感持ってただけだよ」
「ちょっと油断してたんですよ。私に出来ない事なんてそんなにありませんから!」
「おいコラ、人のフォローを台無しにすんなって」
胸を張って自信たっぷりに答える女神。
俺はツッコむが、カルミアちゃんがやんわりと話に入ってくる。
「まぁまぁ……それよりもそろそろ眠りましょうよ。今日は疲れましたし……」
「そうだな……じゃあ俺は馬車に戻るわ。テントは三人で使ってくれ」
そう言いながら俺は立ち上がり、馬車に戻ろうとする。
「あれ、お兄ちゃんはテントで眠らないの? 馬車の中は冷えるよ」
「あー、流石になぁ……」
俺は三人に視線を向けて苦笑する。このメンバーだと俺以外は全員女なのだ。俺に質問してきたリリィに関してはまだ女って歳ではないがそれでも一応気を遣う必要がある。
城で泊まった時はベッドは別だから良かったが、テントは狭いからどうしてもぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
「こんな寒空の中で馬車で過ごすと下手すれば凍死してしまいますよ。許可しますから一緒にテントに入りましょう」
「え、マジ? 堂々と着替え覗いても良いの?」
「いい訳ないでしょうが!」
女神は俺がセクハラ発言をすると怒声を上げる。
「……冗談だって。流石に俺でもそのくらいの配慮は出来るわ」
「リリィ、砕斗が余計な事しそうになったら貴方が彼に目潰ししてやってください」
「分かった、目潰し弾を調合しとくね」
「おい止めろ、それ喰らったら冗談じゃ済まねえ」
俺はツッコむが女神とリリィは俺の抗議をスルーしてそのままテントの方に向かって行った。
「ったく、アイツら……悪いなカルミアちゃん」
「あはは全然構いませんよ。それにサイトさんは何だかんだで私達を気遣ってくれているのが分かりますし」
「そうか?」
「そうですよ。それに私はサイトさんの事を最初からずっと信頼してます」
「おう、それを言うなら俺もカルミアちゃんの事は出会った時からベタ惚れだからなぁ」
「ちょっ……冗談はやめて下さいって」
「ははは」
……別に冗談ではないんだがなぁ。本気にされてないって事だろうか……。
「……大体、サイトさんは女神様とすっごく仲良しじゃないですか」
「……ん?」
「一緒に旅をしてると、以心伝心って感じで言葉にせずとも互いが通じ合ってるのが分かりますし……」
「……?」
「二人が一緒に並んでると仲が良過ぎて入り込めないっていうか……」
おんやぁ?なんかちょっとカルミアちゃんがむくれているような……。
「だから、その、えっと……」
何かを言いづらそうに口ごもるカルミアちゃんを見て、俺は何らかの誤解を受けていることに気付いた。
……もしかして、そういう関係に思われてるのか?
彼女の言う通り、俺と女神は確かに言葉にせずとも互いの意思を確認出来る手段がある。だがそれは信頼によるものではなく単純に、彼女から受けた恩恵によるものだ。
「あー……カルミアちゃん」
「な、なんですか?」
「女神と俺はそういう関係じゃないって」
俺がそう言って誤解を解こうとすると、カルミアちゃんは突然立ち上がって珍しく大声で言った。
「べ、別に私にそんな事言ってませんよ!?」
「お、おう……」
誤解してたわけじゃないのか……だけど彼女にしては珍しい反応だな。
「わ、私ももう寝ますから。サイトさんも早く休んでくださいね」
カルミアちゃんはそう言って妙に焦ったようにテントに戻っていった。
「……ふむ、もしやこれは……」
……ちょっとずつフラグが建築されてるという事か?
ただの友達関係だったのが旅を通じて徐々に異性として意識し合う的な?
……いやいや、流石にそれは都合が良すぎるか。
「……ま、俺もテントに戻るかね」
そう言って俺は重い腰を上げて立ち上がり、ゆっくりとテントの方に向かっていく。そして、テントの入り口のシートの幕を上げると――
「あ」「……あ」
そこには上着を脱ごうとするカルミアちゃんが、健康的な白い肌と純白の下着を露出させたまま固まったカルミアちゃんの姿があった。
「……」
カルミアちゃんは恥ずかしさのあまり真っ赤になり、俺に何か言おうとするのだが声が出ないようだ。
「……えーっと、その」
俺も今すぐ回れ右しろと頭の中で警告を発しているのだが、目の前の光景があまりにも眼福過ぎて目を離せない。そんな時、固まったカルミアちゃんの後ろから女神が一言。
「リリィ、目潰し弾準備」
「うん」
「いや、それは勘弁!」
俺は即座に回れ右をしてそのままテントの外へと出て行った。
……結局、その日は顔を合わせ辛かったので、おれはたき火の傍で布に包まって一夜を過ごしたのだった。
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