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第86話 お人よし

 船を降りた後、俺達はレストアを目指して旅をすることになった。今までの旅した場所に比べて、日差しが強く体力の消耗が酷く度々休憩をせざるおえなかった。


「あ、暑い……」


 馬車の奥で床に横になって少しでも暑さを逃れようとするリリィが呟く。


「お前はまだマシだろ、馬車を操ってる俺の身にもなれよ……」


 俺は馬車を操ってるから多少なりとも日の光を浴びてその熱を受けている。一応、帽子を被って肌が出る場所は布を被って対策して直射日光は避けているが純粋に暑苦しい。


「サイトさん、代わりましょうか?」

「いや、まだ大丈夫。次に休憩した後に代わってもらうからそれまで頑張るよ」


 俺はそう言いながら疲れた笑顔をカルミアちゃんに向ける。とはいえ、そう言いながらも中々休憩出来る場所が見つからずに数時間が経つのだが……。


 馬もかなり疲れていて定期的に水を与えているがそれもそろそろ限界のようだ。ペースも落ちていて予定よりも進んでいない。だが、このまま夜になると今度は逆に凄まじい寒さで凍え死ぬのでそれまでにどうにかしないと……。


「なぁ女神様、アンタ空を飛べるよな? 馬車ごと浮かして空飛んで進むこと出来ねーか?」


「無茶言わないでくださいよ。私の力だって限度があるんですから……」


 俺がそう質問すると嫌そうな顔でそんな事を言って視線を逸らす。


「じゃあせめて空を飛んで休憩できる場所を探してくれねー?」

「……仕方ないですね」


 俺の頼みに女神は渋々応じる。そして貰った分厚いローブを頭からすっぽり被って馬車の外に出てそのまま飛び立った。


「……あれが神様には見えないよな……」

「し、失礼ですよ、サイトさん……」


 俺の呟きにカルミアちゃんが軽く注意する。


「いや、でもなぁ……」

「……ふわぁ」


 俺が視線を逸らすとリリィが大きなあくびをしたのが見えた。


 ―――それから10分程して空を飛んでった女神が戻ってきた。


「ここから向かった先に集落がありました。そこに一泊させてもらいましょう」

「マジか!」

「マジです」


 女神は真剣な表情で頷く。

 そして俺達は女神が見つけた集落へ案内されて向かうのだった。


「さぁ、着きましたよ」


 やがて辿り着いたそこは小さな村だった。俺は馬車を村の柵近くに止めて先に降りてから手を差し伸べてリリィとカルミアちゃんの二人を引っ張り上げて降ろした後、俺も最後に飛び降りた。


 すると近くにいた村人の一人が俺達のもとへやって来た。


「旅の方々かな?」


 頭にターバンを巻いてオシャレな巻き髭を生やしたおじさんに尋ねられたので俺達は頷く。


「はい、レガーティアの方が船で来ました」


「それは随分と遠い場所から来たんだねぇ。この辺りはあっちと比べて暑いだろ? さぁ、こっちに来なさい。冷たいお茶をご馳走するよ」


「ありがとうございます!」


 俺達はおじさんに付いて行き、村の中にある小さな家へと招かれた。そしてそこでは俺達を歓迎するように村の人達が出迎えてくれるのだった。


「いや、こんな所に村があるなんて思わなかったな」

「下手すると干からびちゃうところでしたねー」

「砂漠はもうヤダよ……」


 村の人達に歓迎されて俺達はテーブルを囲んで温かいお茶を飲みながら雑談して休憩する。


「ところで君達は今日泊まる当てはあるのかい?」


 俺達を正体してくれた巻き髭のおじさんはそう質問してくる。

 それに返答したのは女神ことミリアムだった。


「いえ、私達も突然の事だったので……」

「そうか、だったらここに泊まって行くと良い。幸い空き部屋があるからね」

「本当ですか? ありがとうございます」

「いやいや、旅の方々に歓迎しない村など存在しないよ。では皆に伝えてくるから少し待っていてくれるかい?」


 そう言っておじさんは立ち上がり部屋を出て行くのだった。


「親切な人だねー」

「ええ、助かりました……」


 仲間達はそう言って安心した様子だった。


 だが……。


「(……しっかし、砂漠の何もない場所にいきなり集落があるなんてなぁ……)」


 まるで砂漠のオアシスみたいじゃないか。

 水は見つからなかったが、休める場所が見つかったので無問題ではあるが……。


「蜃気楼だったりしなきゃいいんだが」

「何訳分かんない事言ってるんですか」


 俺が小声で独り言を呟くと隣に居た女神に突っ込まれる。


「いやいや、アンタなら知ってるだろ。ほら砂漠をさ迷い歩いてる時にさぁ」


「それは光の屈折で遠くのものが近くに見えるという現象ですね。砂漠は蜃気楼も起きやすいので、それを警戒してそんな独り言が出たのでしょう」


「まぁそうなんだが、あまりにも都合が良過ぎてなぁ」


「実はここには何も無くて、私達は幻覚を見ているとでも言いたいんですか?」


「現実は行き倒れてたりしてな、はははは」


「いや、はははは……じゃないですよ、そんな訳ないでしょう」


 女神が突っ込みを入れると、後ろから突然声をかけられた。


「……ほほぅ、坊や。中々勘が鋭いねぇ」

「えっ」

「は?」


 俺達はいきなり割り込んできた声に驚いてそちらを見る。そこには他の村の人達と違って薄着のガリガリの老婆が立っていた。その異様な風体に俺達が息を呑んでいると、リリィが老婆に質問を投げかける。


「お、お婆ちゃん……? 今のってどういう意味なの?」

「ひっひっひ……さぁ、どういう意味かねぇ……」


 老婆はそう不気味に笑いながら俺達に背を向けて離れて行く。

 だが、最後にちらりと顔だけ振り向くとこう言った。


「……砂漠の悪魔って言ってね。砂漠に迷い込んだ旅人に見せる幻覚って言われてるんだよ」

「いや、あんた自身の事じゃないのか?」


 どうみても見た目の異質さを考えたら目の前の老婆が怪しい。だが俺の突っ込みに老婆はニヤリと笑い返してそのまま去っていく。


「な、なんだったんだ……?」


 俺はその後ろ姿を呆然と見送っていると、今度はカルミアちゃんが口を開いた。


「砂漠の悪魔って何でしょうね?」

「あの老婆の作り話じゃねーのか?」

「でも気になりません?」

「まぁ……」


 確かに気にはなる。

 あんな突拍子のない話をスルーするのはどうもモヤモヤする。


「……よし、さっきの老婆を追いかけてくる」

 俺は立ち上がって部屋を出て家の外に出ようと出口を潜る。そして村の中を探そうとするのだが……。


「…………は?」


 外に出て俺は驚きのあまりにそんな間抜けな声が出た。何故ならそこに村など何もなく、あるのは小さな緑地と水が沸き出たオアシスだったのだ。


「こ、これは……!」


 同じように外に出てきた仲間達も驚いて言葉を失う。前後左右どこを見ても先程まで見た集落など存在もせず、あの巻き髭の優しいおじさんの姿も無い。


 ―――ヒッヒッヒ、感謝しなよ坊や。


「!?」


 突然、背後から不気味な笑い声が聞こえてきて俺は驚いて振り向く。

 するとそこには先程の老婆がいつの間にか立っていた。


「な、なんだアンタ!?」


 俺がそう尋ねると老婆はヒッヒと笑いながら答える。


「危ない所だったねぇ坊や達。ワタシが気付かなかったら坊や達は今頃、砂漠の悪魔に命を持ってかれる所だったよ」


「……ま、まさか本当に幻覚だったのか……今のは……」


「ヒッヒッヒ……!」


 老婆はそう言いながら浮き上がり、何処から取り出したのか長い箒を取り出して跨る。


「ま、待て! アンタがその『砂漠の悪魔』じゃないのか!!」

「違うとも、ワタシは砂漠に迷う哀れな旅人を導くただのお人よしさ」


 そう言って老婆は飛び上がるとそのまま空へと消え去った。

 俺は唖然としてその消えた方角を眺めることしか出来なかった……。


「……えっと、つまり?」


 状況が呑み込めないリリィは首を傾げて言う。


「……つまり、ここに初めから集落なんて無くて……」


「……その、砂漠の悪魔っていうよく分からない魔物か何かの餌食になりかけて……」


「さっきの謎のお婆さんに助けられたって……コト?」


 カルミアちゃんが困惑した顔で呟く。


「は、はは……マジかよ……」


 俺は乾いた笑いを溢すことしか出来なかった。あの老婆が幻覚を見せる魔物か悪魔かは分からないが、それが俺達を助けてくれて安全な場所へと誘導してくれたようだ。


 その事実に俺達は安堵すると同時に沸々と怒りが込み上げてきた。


「ふっざけんなよ!! もう全然状況が呑み込めねぇよ!!」


 俺は行き場の無い感情を大声で叫んで発散したのだった……。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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