第83話 神の宣告
前回までのあらすじ。
レガーティア王国の事件に巻き込まれた俺達は見事に事件の真犯人を突き止める事に成功する。
そして予定通りにレガーティアの協力を得ると、今度は国王に仕事を頼まれて俺達はレガーティアを発つことになった。
この国に来てから世話になっていたリリィとの別れなど心残りはあった。
だが、俺達はそれを乗り越えて次なる新天地に旅立つ。
次なる目的地は海を越えた西のアステア大陸。
俺達の冒険はまだまだ続くのだ。
旅は出会いと別れの繰り返し。
ここで足を止めるつもりはない。
魔王を倒すために。
犯罪組織の黒炎団を壊滅させるために。
俺とカルミアちゃんの旅はまだ始まったばかりだぜ!!
………。
「……まぁ結局、一緒に来てるんだけどな!」
「お兄さん、虚空に向かって呟いてると変質者にしか見えないね」
「うっせえよ!!」
馬車を操りならが独り言を口にしていた俺の隣から容赦ない突っ込みが飛んでくる。俺のモノローグを邪魔したのは、もはや説明するまでもないがレガーティアで知り合ったメスガキ少女リリィだ。
ダメ元で彼女を冒険に誘ってみたのだが、まさか本当に来るとは思わなかった。冗談のつもりだったんだけどなぁ……まぁ本気にしちゃったなら仕方ないよなぁ……?
べ、別に嬉しいわけじゃないんだから!勘違いしないでよねっ!!
「砕斗、心の声がうるさいです。無心で運転しなさい」
「お前もリリィもモノローグに踏み込んでくるんじゃねーよ!!」
俺の叫びに、リリィと女神は同時に溜息を吐く。
そこにクスクスと楽しそうに笑うカルミアちゃんの姿もあった。
「ふふ……サイトさんってば、リリィちゃんと一緒に旅が出来て喜んでるんですよねー?」
「ち、違うし! 別にこんなメスガキと一緒で楽しいと思ったわけじゃねーから!」
「……え、お兄さん、リリィと一緒に居るの嫌なの……?」
「うぐ……!」
そんな悲し気な目で見ないでくれ。自分のキャラクターを壊さない為にある程度毒舌吐いてるわけで本当はそんなつもりじゃ……。
「……本当の心の声がうるさいですね」
「さっきから俺の心の声を盗み聞きしてるんじゃねーよ、女神様!」
「おやおや、失礼。いつもよりやたらテンションが高いからついからかいたくなってしまいました」
女神はそう言いながら意味深に微笑する。ぐぬぬ……。
「お兄さんって普段からこんな感じなの?」
リリィは首を傾げてカルミアちゃんにいらん質問を投げかける。
「あはは、いつも元気いっぱいだよ?」
「なんていうか、お兄さんやっぱり初見の印象通りの人だったんだね」
「おい、今俺のことバカって言ったか?」
「別に言ってないけど内心では思ってるよ」
「やっぱお前メスガキだよ。このっ!このっ!!」
俺はリリィの頭をぐわしと掴んで左右に揺らす。
「痛い、痛い、やめてよ!!」
「ちょっ、サイトさん!? 暴力はダメですよっ、めっ!」
俺達が騒いでるとカルミアちゃんが止めに来る。
同時に俺が馬車の運転を放棄したせいで馬たちが困惑し出した。
「おっと、いけね」
俺はリリィの頭から手を離して手綱を握る。
そしてそのまま馬を操りながら改めて馬車を走らせた。
「うぅ、痛かった……お兄さんの乱暴者、アホ!」
「直球の罵倒止めろ」
リリィの辛辣な言葉を俺は軽く流して運転に集中する。
「もう、サイトさんったら……」
「……三人共、何やってるんですか。いつかみたいにまた馬を暴走させないでくださいよ?」
女神は他人事のようそんな事を言う。
「わーってるって。あの時と違って街道から外れてないし数十分もすれば港町に着くよ」
「ならいいですけどね。今回はレガーティア国王の直々の依頼ですから失敗は許されませんよ?」
「はいはい」
俺は女神の指摘を適当に流し、馬車を走らせ続ける。それから10分くらい経ってリリィがポツリと俺達に質問を投げかけてくる。
「でもお兄さん達、あのまま国を出ちゃってよかったの?」
「あん?」
「ほら、あの黒炎団のコーストって奴の事だよ。捕まえたは良いけど何か変な力で傷を治してたし、また脱獄でもしないか心配で……」
「ああ、その事ですか」
リリィのその心配に答えたのは、馬車の中で優雅にティータイムをしていた女神だった。お前、何処のイギリス淑女だよ。
「それについてはご心配なく」
「ん? 女神様、アンタなんかしたのか?」
「ええ、カルミアさんの力を借りてちょっと仕掛けをしておきましたし……どのみち、あの男に脱獄する力は残されていないでしょうが」
「そうなの、カルミアちゃん?」
「女神様の話ではそうらしいですよ。私は魔力を女神様に吸われてフラーっとなってただけですけどぉ……」
「ふーん、まぁ今後騒動が起きないなら何でもいいけどさぁ」
俺は特に興味が無かったのでそこで話を打ち切る。
だが、リリィは心配だったようで女神に話しかける。
「ええと……女神様……」
「今まで通り『ミリアム』で構いませんよ。二人にもそう言ってますから」
「わ、分かった……それで、ミリアムさんは何をしたの?」
「ふふ、驚かないでくださいね……実は……」
――時は少し遡る。
サイトとカルミアがリリィが来るのを部屋でじっと待っていた時の事。ミリアムこと女神は一人で再び地下牢獄を訪れて、コーストが入れられた牢獄へと足を運んでいた。
「……おや?」
女神はその場所に辿り着くと、そこには棺桶から出て牢屋の鉄檻にもたれ掛かるコーストの姿を捉えた。そして、女神の足音で来訪者に気付いたコーストは後ろを振り向いて女神と目が合う。
「……貴様ら、よくも俺をこんな目に遭わせやがったな!」
鋭い目で女神を睨みつけるコースト。しかしその威圧とは裏腹に彼の身体が彼女達に倒された時から癒えている様子は無かった。
それどころか以前よりも身体がガリガリにやせ細っており、明らかに弱っている様子だ。
「やはりあの驚異的な再生能力は自前のものでは無さそうですね。おそらく魔族……あなた達の首領であるレイスと同じように”魔王”から与えられた権能でしょう」
「……な、何故それを」
「私が気付かないとでも思いましたか?砕斗とカルミアさんが貴方を打ち倒した時に私の力で貴方の力の根源を断っておきました。驚異的な再生能力を得た代償をその身に受けた気分はどうです?
貴方の残りの寿命はそう長くは無いでしょう……さて、貴方の様子を見れただけで満足なので私は帰りましょうか」
女神はそう言って背中を向ける。
「ま、待て……! 本当にこのまま帰るつもりか……?」
「ええ、念の為に牢に魔法で結界を張っておきましたがそこまでする必要も無かったですね」
「く、黒炎団の情報は要らないのか……? 俺を助けてくれたら……!」
コーストはそう言いながら牢の鉄格子から震える手を伸ばす。
しかし、女神はそれを冷たい目で見つめる。
「……不要です。どうせ貴方が捕まった時点で黒炎団は貴方を切り捨てる。仮に貴方から黒炎団の本拠地を聞き出したとしても、今頃拠点を移してもぬけの殻ではないでしょうか」
「そ、そんな……」
女神の言葉にショックを受けるコースト。
「……なにより、神である私にお前如きが交渉しようなどと烏滸がましい。そのまま死ぬまで牢獄で苦しむといいでしょう……では、さようなら」
女神はそれだけ言い残すと今度こそ出口に向かって歩き出した。
「ま、待ってくれ! ……お、俺を見捨てないでくれ!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにして女神に懇願するコースト。だが、女神は振り返ることなくそのまま去っていくのだった。
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