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第82話 いざ、旅立ちへ

 次の日の正午。


 旅立ちの準備を終えたサイト達は城を出て兵士に見送られて城下町に向かう橋を越えて城下町へ出て、その後は街の出口へと向かう。


 カルミアちゃんや女神と共に並んで歩く俺だったが、気分は少し憂鬱気味だった。


「……はぁ」


 思わずため息を付く俺。


「……砕斗、落ち込んでますね……」

「……やっぱりリリィちゃんの事が気になってるんでしょうか」

「まぁ……そうでしょうね……結局、彼女は来ませんでしたし……」


 隣を歩く二人の会話が聞こえる。


 そうなのだ。

 昨日、俺はリリィに会って一緒に旅をしないか誘った。


 彼女は俺の提案に驚いてその場ではいい返事をしてくれなかったが反応は悪くなかった。本当はもっと早く城を発つ予定だったが俺は無理を言って午前中は城の中の部屋で俺はずっと待機してた。


 もしかしたら彼女が旅の準備を整えて来てくれるかもしれないと思っていたからだ。


 だが、結果は見ての通りいつもの三人だけ。結局、リリィは来てくれず、流石にこれ以上二人を待たせるわけにはいかないと思って城を出ることに決めたのだ。


「(結構、仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ……)」


 そう思っていたのは俺だけだったのだろうか。


 ……いや、よくよく考えると初見で互いに罵り合った仲でもある。


 その後、色々あって交流を深め合えたと思ったけどあれは危機的状況でそうせざるおえなかった。所謂つり橋効果ってやつだろう。そう考えたら諦めも付く。


「サイトさん、もうちょっと待ってみますか? もしかしたらリリィちゃんが来るかもしれないし……」


「……いや、もう数時間待ってるんだから流石に来ないだろ」


「でも……」


「良いって気にすんなよ、カルミアちゃん。アイツはアイツの考えや生活もあるんだしこれ以上巻き込むのもどうかしてんだよ」


「……サイトさん」


「さ、行こうぜ二人とも。早く港町に行かないと迷惑掛けちまうよ」


 俺は彼女に対しての未練を振り払うように駆け出すのだった。


「あ、サイトさん!」


「……ふむ、随分と落ち込んでいますね……まぁ出会いというものは一期一会と言いますし、こういう事もあるでしょう」


 そう言いながらカルミアと女神は彼の後を追って早足で進むのだった。そして、預けてあった馬車と馬を取りに行き、丁度城下町の出口に差し掛かった辺りで足を止める。


「……あん?」


 賑やかな町の喧騒の中。


 ふと聞き覚えのある声が聞こえたような声がして振り返る。だが、そこには相変わらずカルミアと女神が自分を心配するような眼差しを向けているだけで、特に変わった様子はない。


「どうしました?」

「いや……気のせいかな」


 俺は首を横に振って馬車に跨る。


「……さぁ行こうぜ。時間が押してるからな」

「あ、はい!」

「ええ……」


そんな会話をしながら俺達は港町に向かって馬を走らせたのだった……が。


「ちょっとぉぉぉ! 誘っておいて無視しないでよぉ!!」

「……え?」

「ちょ、サイトさん! あの子、リリィちゃんが追いかけてきますよ!」

「ま、マジか!?」


 周りが騒がしくて声がかき消されて気付かなかったが、振り返るとそこには小さな体で大きな荷物を背負うリリィの姿があった。


「リリィ!」


 俺は御者席の操縦を女神に任せて場所を飛び降りてリリィの元に駆けつける。するとリリィは足を止めてその場に大きな荷物を置いて膝を付く。


「お、おい、大丈夫か!?」


「はぁ……はぁ………! お、お兄さん……自分で誘っておいて無視するとか、人の心が無いの……!?」


「い、いやぁ……俺はてっきりお前はもう来ないもんだと……」


 そう言いながら彼女の服装を見る。普段のギルド職員の制服と違い、旅をするためか動きやすそうな服装をしていた。


「はぁ、はぁ……! もう……こんな荷物背負って走るのなんて初めて……死にそう……」


「っていうか荷物多くね? そんなパンパンに鞄を膨らませて何を入れてきたんだよ?」


「何って、そりゃあ着替えとかお気に入りの本とか……あ、あと下着とか……」


 リリィはそう言いながら顔を赤らめる。


「いや、ガキの下着の話を聞いても特に反応しねえからな?」


「お兄さん、人の心以外にデリカシーも無いね」


「うっせぇよ!」


 俺は溜息を吐きながら、リリィに手を差し伸べる。


「……ま、いいや。リリィ……立てるか?」

「あ、うん」


 リリィは息を整えて俺の手を掴む。


「……良いのか、しばらくここには帰ってこれねぇぞ?」


「……うん。大丈夫、叔父さんやギルドの仲間達にはちゃんとお別れの挨拶もしたし、それに……」


「……それに?」


「猫カフェの猫たちにもお別れしてきたから」


「いや、猫かよ……」


 最後に別れを惜しむのが猫たちで良いのかよ? そんなツッコミを俺は心の中で入れるのだった。


「……それじゃあ、行くか」

「うん!」

 

 こうして俺達はリリィと共に新しい旅の一歩を踏み出す事になったのだった……。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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