第81話 幼女を誘う
「くそっ、アイツ何処行った……!?」
俺は部屋を飛び出したリリィを追って城を出て城下町の中を探す。だが小国とはいえ城下町はそれなりの広さがあり、まだ来たばかりの俺には彼女の居場所の見当もつかなかった。
「(……どうする、闇雲に探しても見つからねぇぞ)」
そう考えながら俺は彼女が身を寄せていた冒険者ギルドの存在を思い出す。
「……行ってみるか」
どうせ他にアテがないのだ。俺は一旦、冒険者ギルドに向かって歩き出した。
◆◇◆
「……リリィ職員ですか? いえ、しばらく休暇を取っているので今日は来てませんが……」
「……ッスよねぇ……」
予想はしていたが流石にここには来ていないようだ。居場所が無くなったからといって休日に自分の職場に好き好んで来る人間はいないだろう。
「じゃあ、アイツが住んでる家の場所を教えてくれませんかね?」
「それは構いませんが……」
俺はギルド職員からリリィの住所を聞き出して礼を言ってからその場を後にする。場所はここから遠くない場所で15分も歩けば見つけることが出来た。
……しかし、家を訪れたはいいが肝心の彼女は居なかった。
俺に応対してくれたのは、両親を失った彼女を引き取った親戚の叔父さんのようだった。叔父さんが言うには、あまり自分との折り合いが良くないらしく家に居ることの方が少ないのだとか。
「キミ、あの子の友達かい? 身寄りの少ないあの子は友達も少ないからねぇ……是非、末永く仲良くしてやってほしいんだが……」
「は、はぁ……善処します」
俺が猫を被って返事をすると叔父さんはニコリと笑ってその場を後にする。
「明日にはここを発つんだがなぁ……」
そうなってしまうと結果的にリリィとの関係も疎遠になってしまう。
結局、リリィは居なかったしどうするか……。
「……もしかして、あそこか?」
リリィが何処に居るのか何となく気付いた俺はその場所に足を運んだ。
◆◇◆
――”愛らしい生き物と憩いのひと時を……『にゃんにゃんカフェ』――
「お、お兄さん……何でここに……」
「みゅっ」
「やっぱここに居たか……探したわ、マジで」
「みゅー」
猫と戯れているリリィの姿を見つけて俺は安堵の溜息を吐く。昨日俺と一緒に来た時と同じように、リリィは白黒の猫と戯れているようだった。部屋を飛び出した時のショックを受けた顔と違い、今は満足そうな顔をしていたのでちょっとホッとする。
「今更何の用?」
「おい急に冷たいな」
「お兄さんたちは明日もうここから居なくなるんでしょ?」
「そんな事言うなって。俺とお前の仲じゃねーか」
俺がそう言うと、リリィは呆れた表情をする。
「お兄さんとの付き合いなんて数日じゃん。何、仲良しになった気でいるのさ?」
「いやいや、俺とお前は迷宮で死と隣り合わせの状況で背中を預けて戦った仲だろ? もう仲間じゃねーか」
俺はそう言ってリリィの隣に腰掛ける。
すると、猫が俺の方に擦り寄ってくるのでその顎の下を撫でてやった。
その様子を見てリリィは溜息を吐く。
「……で、何の用なの?」
「ああ、まぁ特に用事があったわけじゃねーけど……逃げてくお前を見て引き留めたくなったんだよ。理由は恥ずかしいから聞かないでくれ」
俺はそう言いながら、ここに来る途中で買ってきたチュールを白黒猫に餌を与える。
「みゅ……みゅ……」
白黒猫は嬉しそうにチュールを啄んでいく。
その姿をリリィと一緒に見守っていると、リリィは不満げに口を開く。
「……リリィの事、心配してくれたって事?」
「そりゃあなぁ……あんな顔して部屋を出て行かれたら誰だって心配になるさ」
「みゅー?」
「うん、心配してくれてありがとね」
そう言ってリリィは白黒猫の頭を撫でる。
「でも、もういいよ。お兄さん達は明日にはこの国を出ていっちゃうし、これ以上一緒に居たら余計寂しくなっちゃうよ」
「なんだ、お前もやっぱそういう気持ちだったんだな」
俺はリリィの方を見て、彼女の頭を撫でる。
「わっ……!」
「なぁ、リリィ。お前、俺達と一緒に来ないか?」
「え……?」
リリィは驚いた様子で俺の目を見る。
「昨日話したが、俺達は一応魔王討伐の旅をしてる。
当然、道のりは険しいと思うし今後も大変な事は沢山あるだろうが、この国に留まるより外の世界を見て色々学べる機会だと思うんだよ。お前はその歳で自立してるわけだしその辺の子供とは違う。だからどうだ?」
俺がそう言うと、リリィは目を泳がせながら話す。
「魔王討伐なんてリリィには……それにこの国を出るなんて考えた事もなかったし……」
「討伐に付き合えってわけじゃないが……まぁそうだよな。俺も無茶なこと言っちまったか」
流石に、この提案はリリィにとって唐突過ぎたかと反省する。
「だけどな、リリィ。俺はお前と一緒に居て楽しいと思ったぜ」
「え」
俺はそう言いながら席を立つ。
「それじゃあ行くわ……もしお前が俺達と付いて行くって言うなら、俺は歓迎するぜ」
「……あ、お兄さん」
「ん?」
「……ありがと」
リリィは、俺に背中を向けたままそう呟いた。
「おう」
俺はそんなリリィに手を振ってその場を後にしたのだった。
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