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第80話 幼女を追う主人公

 次の日の朝。


 レガーティア城の豪華な朝食を終えた俺達は国王との謁見へ向かう。

 謁見の間に通された俺達は国王と対面する形で玉座の前に揃って頭を下げる。

 ちなみにリリィは留守番である。


「国王様、お目通り感謝致します」

「うむ」


 女神の丁寧な会釈にレガーティア国王が頷く。

 そして、国王は俺達三人の顔を見回しながら言葉を発する。


「まずは先日の事件についてこちらからお詫びをしなければならん。お前達の事を詳しく調べず城へ不審者として処理をしようした事はこちらに非があるといえよう」


 国王はそう言いながら軽く頭を下げる。すると近くの兵士達が驚いた表情をするが、強い言われているのかそれ以上騒ぐことは無かった。


「国王様、国の代表とあろうものが一介の冒険者如きに頭を下げてはいけませんわ」


 女神はわざとらしく驚いて国王にそう声を掛ける。


「……だが、お前達は一介の冒険者ではないのであろう?」


 国王は女神の言葉にそう返事を返すと、カルミアちゃんの方に視線を向ける。


「一週間ほど前にグリムダール王国からの使者から言伝があった。

 ――神の啓示を受けた真なる勇者が従者を連れて旅立ったと……その名前は、カルミア・ロザリー……其方の事で間違いないな?」


 国王の言葉に、カルミアちゃんは緊張した様子でコクリと頷きながら答える。


「はい」

「そうか……では改めて確認をするが、其方は魔王を倒すために旅をしておるのだな?」

「はい」


 カルミアちゃんがそう返事をすると、国王は玉座に肘を置きながら俺達に向かって言葉を発する。


「……ならば、お前達に頼みがある。

 更に西に向かった先にある港町に向かってほしい。そこから王国の船で海を渡ってアステア大陸へと渡り、更に西へ西へと進むとレストアという町がある。領主にこの書状を渡して欲しいのだ」


 そう言いながら国王はカルミアちゃんに一通の封筒を手渡しする。


「これは……?」


 カルミアちゃんは国王に手渡された手紙を見ながら首を傾げる。


「その街は最近になって領主が代替わりしたらしい……だが領主が代わって以降、悪い噂ばかり立つようになってな……それが心配で気になっておるのだ」


「私達がこの手紙を領主さんに渡せば良いんですか?」


「より正確にいうと現領主ではなく、前の領主に渡すのだ。彼と私は昔からの幼馴染でな……彼とは幼いころから町の外に出て冒険をしたものだ。

 ……現在の領主は彼の息子と聞いているが、彼の息子が町の住民に圧制を強いていると噂になっている。もし、其方が真の勇者であるならば、彼に改心を促してはくれぬか」


 国王の話を聞いて、俺と女神は互いに目を合わせる。


「(いくら勇者だからってそんな事を俺達に頼むか?)」


「(……まぁ国王は中々動きづらい立場の人間でしょうし、私達は丁度良かったんでしょう)」


「(んなもん自分の国の兵士に頼めよって思うがな……)」


「(国王も昔馴染みが心配なのでしょう)」


 そんな会話を脳内で繰り広げる。


「……分かりました、この手紙は必ずお渡しします。……あと領主さんには改心してもらうよう私から説得してみます」


 カルミアちゃんが笑顔でそう言うと、国王は安堵した様子でふぅと溜息を吐く。


「……感謝するぞ。お前達が王国の船に乗ってアステア大陸に行けるように手配しておく。旅の資金も困っているなら遠慮なく言ってくれ」


「はい、では早速ですが国王様に頼みたいことがあります」


 カルミアちゃんは覚悟が決まったのか、そう切り出す。


「……おお、そういえばこの謁見はお前達が私にお願いがあったのを忘れていたな。……して、どういった要件だ?」


 国王にそう問われて、カルミアちゃんは俺達より一歩前に出る。


「カルミアちゃん、大丈夫か?」


 俺は上手く言えるか心配になってそう声を掛けるが、カルミアちゃんはこちらに手をひらひらさせながら言った。


「大丈夫…… 少しは私も成長してるんですよ」


 カルミアちゃんはそう言いながら国王に顔を向けた。


「……国王様、私達はのお願い通りこの手紙を領主さんにお渡ししますが、その前に私達も貴方のお願いを聞き入れるために一つだけ条件を聞いて頂きたいんです」


「……ほう?」


 国王は興味深そうに目を細めて彼女の言葉に耳を傾ける。

 そんな国王の様子を見てカルミアちゃんは言った。


「私達が魔王を倒すために旅に出たというのはお聞きしていると思いますが、もう一つ大事な目的を掲げて旅をしているのです。レガーティア国王様には是非、その目的の為に協力をして頂きたいのです」


「……申してみよ」


「……はい。それは凶悪犯罪組織、”黒炎団”を壊滅させることです」


 カルミアちゃんの話を聞いて国王は目を細める。


「……なるほど、だから私に『協力してほしい』と申したのか……確かに先の事件も奴らの悪事によるもの……放置するわけにもいくまい」


「私達はそれを第二の目的として旅先の街や村で協力を呼び掛けています。その為に黒炎団の組織に勘付かれる前に人員を集めて本拠地を突き止める必要があります」


「ふむ……」


 国王は口元に手を当てて何かを考えるような仕草をした後、口を開く。


「……つまり、我が国の冒険者ギルドとの協力が必要と言いたいわけか?」

「はい、協力して頂けますか?」


 カルミアちゃんがそう言うと国王は頷く。


「いいだろう……黒炎団にはこちらも手を焼いている。協力させてもらおう」


 その言葉を聞いた俺達は互いに顔を見合わせた後、深く頭を下げるのだった。


 ◆◇◆


 無事に国の協力を得られた俺達三人は、肩の荷が下りた気分で城の中を散策していた。


「いやぁ予想よりも上手く行って良かったな」


 俺はそう言いながら、目の前で歩くカルミアちゃんに話しかける。

 すると彼女はホッとした様子で笑顔で言う。


「本当にそうですよぉ……でも、結構面倒な事を頼まれちゃいましたね」


「それは仕方ないでしょう。逆にカルミアさんが快く引き受けてくれたから国王様もこちらの要望を聞き入れてくれたのでしょうし」


「港町に行ってそこから別の大陸に渡るんだったか? まぁ観光なら喜んでいくところなんだがなぁ……」


 俺はそう言いながら国王の言葉を思い出す。そんな話をしながら城の中の客間に戻るとリリィが俺のベッドの上に腰掛けて暇そうにしていた。


「あ、帰ってきた」

「よう、リリィ。留守番してたか?」


 俺達はそう言いながらリリィに手を振って部屋の中に入っていく。


「で、どうだったの? 交渉は上手くいった?」


「ああ、バッチリだぞ。ただ、ちょっと面倒な頼まれごとを引き受けることになっちまったが」


 そう言いながらカルミアちゃん達と目を合わせて苦笑する。


「面倒事?」


 すると事情が分からないリリィが首を傾げる。


「ええ……私達、明日にでもこのレガーティアを発つことになりました」

「え、えぇ!?」


 女神の言葉にリリィが驚きの声を上げる。


「……まぁ今までの国に比べて一番面倒な頼み事されちまったしな……」


 俺が頭を掻きながらそう言うと、リリィはなんとも言えない表情を浮かべて黙り込む。


「……ん、どうした?」

「……三人共、ここを出て行くんだね」

「……ああ」

「……って事は、もうリリィとここでお別れって事なんだよね」


 ……っ。


「……そう、なるな」

「……うん、分かった……それじゃあリリィはもう行くね……」


 そう言いながらリリィは自分のポーチを持って部屋を飛び出してしまった。


「リリィ!」


 俺は彼女の名前を叫びながら部屋を出るが、既に彼女の姿は見当たらなくなっていた。


「ああ、クソッ……! あんなこと言うんじゃなかった……!」


 俺は自分が失言をした事を自覚して自分の頭を小突く。


「サイトさんはリリィちゃんと仲良かったもんね……」

「ああ……」


 カルミアちゃんの言葉に俺は頷く。


「砕斗、あんな風に別れるのは嫌ですか」

「嫌に決まってんだろ」

「それなら今から探して会いに行ってはどうですか。別れの言葉の一つでも言わないと、彼女の傷も癒えないでしょうから」

「……そう……だな。行ってみるよ」


 女神の言葉に頷いて俺はリリィが向かったであろう城の外に向かって駆け出したのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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