第79話 ぶっちゃける
部屋に戻る途中、良いタイミングでカルミアちゃんと女神の二人に出くわした。
「あ、サイトさんとリリィちゃん」
「二人とも、城を出て街に繰り出していたのですか? もう夜も遅いですよ、ただえさえ私達は怪しまれているのに余計な行動をしてもらっては困ります」
俺とリリィが外に出ていた事に対して二人がお咎めをしてくる。
「夕食が物足りなくて二人で食べに行ってたんだよ、なぁリリィ?」
「お兄さんがどうしてもっていうから……」
リリィに助けを求めたのに素っ気ない態度で返されてしまった。
「それより丁度良いタイミングだった。二人とも、この後俺の部屋に集まってくれないか?」
「サイトさんの部屋ですか? 良いですよ」
「大事な話ですか?」
「ああ、この街に来てリリィには色々世話になったから俺達の事情を話しておこうかと思って」
「事情、というと……」
「いいよな、女神様?」
俺は女神の方に視線を向けて問いかける。
「……まぁ、貴方がそうしたいというのであれば」と諦めた様子で女神は言った。
「という事で、今から部屋に集合な」
そう言って俺は二人を引き連れて部屋に向かう。部屋に入るとまず最初に二人に椅子を出して座ってもらう。そしてリリィと俺はベッドに腰掛けて話を始める。
「それでリリィちゃんが私達に何が訊きたいの?」
カルミアちゃんはほんわかした声でリリィにそう質問する。
「さっきお兄さんが自分の事を勇者パーティって言ってたから……」
「……言ったんですか、言っちゃったんですか?」
「つい口を滑らせて……てへっ★」
「てへっ★じゃないですよ! そういう事は内密にって普段から私は言っていたでしょう!?」
俺の言葉に女神が怒りの声を上げる。
「まぁそう怒るなってば」
「あと砕斗が『てへっ』とか言っても全然可愛くないですよ」
「追撃してくるのやめーや。じゃあお前一回言ってみろよ。女神様なんだからここに居る全員を魅了できるくらいの『てへっ』を期待するぜ?」
「なんですかその無茶振り……女神の威厳を保つためにそんな事は絶対しませんよ?」
「二人とも、どんどん話が逸れちゃってますけど……」
カルミアちゃんにそう言われて、俺達は咳払いをしてリリィに向き合う。
そして女神様は言った。
「……実は私達、魔王を倒すために旅をしている途中なんです」
「……え、何かの冗談だよね?」
「いえ、これは本当のことです。そして、実は私は本物の女神で、カルミアさんは真の勇者なのです」
「お兄さんは?」
「私とカルミアさんの下僕です」
「おいコラァ! 変な嘘設定を付け足すんじゃねえ!」
俺がツッコむと女神が「静かにしてください」と窘めてくる。
「……冗談じゃなくて?」
「はい、本当です」
リリィは視線で俺達の顔を何度も往復しながら、最後に俺に視線を向ける。
「……マジなの?」
「おう」
「え、じゃあお姉ちゃんは魔王を倒すためにルーシア聖教会から旅立った勇者様で……」
「……えへへ、驚かせてしまいましたか?」
カルミアちゃんは舌をペロッと出してお道化る様にリリィに微笑む。
「そ、それで……ミリアムさんは……」
リリィは指を震わせて彼女の方に視線を向けて指を差す。
「はい」
「……愛称じゃなくて、本物の神様……なんですか?」
「ええ、本物の神様ですよ? 分かったなら私を敬い信仰してくださいね」
「あ、はい!」
「リリィ、この女の言葉は適当に聞き流していいからな?」
「え!?」
俺のアドバイスにリリィが驚いて固まる。
「あー、あとな。俺、実は異世界から来たんだよ」
「……い、異世界……? お兄さん、何言ってるの?」
「まー、その反応にもなるわな、ははは」
「ははは、じゃないってば……!」
リリィは俺達の爆弾発言に疲れ果てたようで、ぐったりとベッドの上で項垂れる。
「流石に驚き過ぎたか……」
「でも、何でサイトさんもリリィちゃんに全部話そうって思ったんですか?」
「……まぁコイツは他の奴らより全然信頼出来るし言いふらしたりしないだろうからな。それにずっと隠し事ばっかりして生活するのも疲れるだろ?」
そう言いながらベッドに横たわるリリィの頭を撫でる。リリィはくすぐったそうに俺の手を振り払って再び起き上がると、こう質問してきた。
「でもお兄ちゃん達、黒炎団と対立してるのはなんでなの?」
リリィに質問されて俺達三人は顔を見合わせる。
「グリムダールでアイツらが引き起こした事件に巻き込まれたんだよ」
「その時に街の人達も相当被害を被りまして……色々考えた結果、私達は魔王退治と並行して黒炎団を壊滅する為に色々な国や町を回って情報収集をしている最中なんです」
「それと壊滅に協力してくれる人達を探していたりも……」
「だから、今回みたいな状況も今まで何度もあったって事だな」
俺達はリリィに一通りの説明をしてから一息つく。
「……本当に正義の味方だったんだね、お兄さん」
「な?」
「言葉遣いは悪いのに……」
「うっせぇよ」
「……ふふ、サイトさんってば少し前まで猫被って丁寧口調だったんですけどねぇ」
「今ではすっかりゴロツキみたいな口調になってしまいました」
「二人とも余計な事言うなって!」
二人に向かって叫ぶと、二人は笑顔のまま俺の反応を楽しむように笑い合う。
「猫被ってるって、お兄さんが?」
「いや……まぁ……」
リリィに質問されて俺は頭を掻きながら言葉を詰まらせる。
「最初の頃、一人称が『ボク』でぎこちない丁寧口調でした」
「言うなって!」
「し、信じられない……出会い頭にいきなりメスガキとか言ってきたお兄さんが……」
「……砕斗、貴方こんな子供になんて事を……」
……その後、三人に散々弄られて夜を明かした俺達だった。
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