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第78話 勝てばいいんだよ

 食事を終えた後、俺達は店を出て帰路に着く。


「いやぁ今日は色々あったけど最後は楽しかったなぁ」


「リリィは早朝から酷い目にあって疲れたよ。お兄さん、なんでそんなに元気なの?」


「いや、美味い飯食ったら誰でも元気になるだろ?」


「やっぱお兄さん、単純(バカ)だ」


「うるせぇ」


 俺は生意気な事をいうリリィの頭をごしごし撫でる。


「さ、帰るか」

「わっ!」


 俺はそう言いながらリリィの身体を持ち上げて自分の肩に乗せる。

 驚くリリィは俺の首を支えに跨りながら暴れる。


「おーろーせーよーー!!」

「大人しくしとけっての……さっさと城に戻らないと――」


 そこまで言い掛けた俺だったが、城へ向かう道の途中の街灯で怪しい二人の影を発見する。


 それがただの町人ならば特に気にも留めなかったが、妙に黒い服を身に付けて周囲の闇に紛れる様な恰好だった。


「……リリィ、ちょっと静かにしてろ」

「え?」


 俺は戸惑うリリィを一旦地面に降ろすと、気配を消しながらその二人の近くまで歩いて物陰に隠れる。何かを話している様子だったので俺は耳を澄まして二人の会話を聞く。


「……城の方はどうなってる?」


「……騒ぎに乗じてコースト様がストレイボウの暗殺に向かったようだが未だに連絡が取れない」


「まさか、捕まったのか?」


「分からん。だが、俺達はコースト様に待機を命じられているから動くわけにもいかん」


「……どうする? もし捕まっていたとするなら黒炎団の情報が漏れる可能性が……」


「……こうなればレイス様に連絡を取るしか……」


 ………。


「……」


 どうやら、あの二人は黒炎団の仲間らしい。


 城で捕縛されたコーストが戻るのを待っているようだが、いつまでも戻ってこない奴の様子を見に行こうか迷っていると言ったところか。だがレイスの野郎の名前が出ているって事は町から逃げる算段を立てるかもしれない。


 ……どうする? 黒炎団をこのまま野放しにするわけにはいかないだろう。


「……よし」


 俺は後ろで怪訝な表情で待っているリリィに声を掛ける。


「リリィ、パチンコ持ってるか?」

「パチンコ?」

「いや違った。あの紐に引っ掛けて石をぶつける武器の事だ」

「スリングのこと?」

「それそれ……いいか、俺があの二人に近付いて気を引いている間に……」


 俺はそう言いながらリリィの耳元に口を寄せる。


「あいつらを背後から奇襲してくれ」

「……お兄さんがやるんじゃないの?」

「馬鹿野郎、俺が二体一で勝てるわけないだろ」

「カルミアお姉ちゃんなら出来そうなのに……」

「あの子は特別。俺は一般人、OK?」

「……良いけど、何かあったらすぐに逃げるからね」


 リリィはそう言いながらスリングを取り出して構える。


「うし、じゃあ行ってくるわ」


 俺はそう言いながら、物陰から堂々と出てきて怪しい二人に声を掛ける。


「すいませーん、ちょっと良いっすかー」


 俺は出来るだけ人の好さそうな笑みを浮かべて下手(したて)の態度を取る。


「あ?」

「……やめとけ、ここは町中だ」


 一人が俺に威圧的な態度を取ろうとするがもう一人が静止する。

 そして二人は俺を無視して何処かに去ろうとする。


「あ、待ってくださいっすよ。道に迷って宿の場所を聞きたいだけで……」

「……ち」

「どうする?」

「ただ道を聞いてるだけだろ。適当に追い返せばいい」

 そう言って二人は俺の前に立ち止まる。


 ――よし、釣れた。


 俺は心の中でガッツポーズを決めると、二人の会話に割り込む様に話し始める。


「いやー、実は俺この町に来たばかりで……宿の場所が分からなくって困ってたんすよー」

「そうかい、宿なら少し南に向かったところにある」

「えっと、どの辺りっすか……出来ればちょっと案内してくれた方が……」

「……面倒な奴だな。仕方ない、付いて来い」


 そう言って一人は嫌々な態度で俺を案内しようとする。だが……。


「――ちょっと待て、コイツの顔知ってるぞ。確か、ストレイボウの奴が――」


 ――ドガッ。


「――がっ!!」


 俺の正体に気付いた一人の後頭部に10センチくらいの石が直撃して倒れる。


「な、なんだ!?」


 もう一人の男が驚いて倒れた男に駆け寄って地面に膝を付く。

 そこに俺はおもむろに剣を取り出して刃物の付いてない部分で殴りつける。


「ぐあっ!?」


 そして痛みに悶えて倒れた男を見下ろしながら俺は言い放つ。


「お前ら、黒炎団の下っ端だろ?」

「どうしてそれを……」

「とりあえず、お前は寝てろ」


 そう言いながら俺は奴の鳩尾に蹴りを喰らわせて意識を奪う。

 そして、近くにあった適当なロープを使って二人を街灯の柱に縛り付ける。


「よっしゃ、これで解決だな!」


「……お兄さん、結構姑息な手段を使うよね」


「最終的に勝てればいいんだよ、まぁ悪党以外にそんなことしないが」


「それだけ聞くと正義の味方みたいに聞こえるけど、お兄さん絶対悪党側の方が似合ってるよね」


「あぁん? 俺は世界を救う勇者パーティの一員ぞ?」


「勇者?」


「あー、そういえばリリィには話してなかったよな。とりあえず今から城の兵士を呼んでコイツらを牢にぶち込んだ後で色々話すわ」


「まぁ良いけど……」


 頭を傾げるリリィと共に、俺達は城の兵士を呼んできて二人の身柄を引き渡した。そして事の顛末を説明すると一旦部屋に戻るのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

気に入っていただけたら『高評価』や『感想』などをお待ちしております。


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