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第77話 猫カフェ

 女神とカルミアが牢屋に細工を施して後の憂いを対策していた頃。サイトとリリィは夜の街に繰り出したものの、地球と違って娯楽の少ない異世界の街では特にやることも無かった。


「んー、勢いよく飛び出してきたは良いが、何処の店も閉まっててやる事ねーな……」


「そりゃそうだよ……時間も遅いし……って、いい加減おろせ!」


 相変わらず腕に抱えられたままのリリィはサイトの考えなしの言葉に呆れて足をばたつかせる。


「っと、わりぃ」


 俺はそう言ってリリィを下ろす。


「で、どうするの? 行くところもそんな無さそうだし帰るの?」


「折角出てきたし飯屋くらいは行こうぜ。リリィ、何処かおススメの場所あるか?」


「ご飯食べたばかりなのに本当に行くの? 太っちゃうよ?」


「城のお行儀の良い料理じゃ物足りないし、お前はまだまだ育ち盛りだからんなこと気にすんなよ。奢るから好きな場所言ってみ?」


「……んじゃ、こっち」


 そう言ってリリィは俺の手を引いて先導して歩き出す。


「お、やっぱ腹減ってたか?」


「それはお兄さんの方でしょ? ……でも、こうやって誰かと手を繋いで歩くのなんて久しぶりかも」


「お、そうなのか?」


「……うん」


 そう言ってリリィは恥ずかしそうに顔を俯ける。


「(そうか、リリィは両親を亡くしてたって話だったよな)」


 まだ子供だっていうのに親を失って苦労してきたんだろう。

 最初に生意気な事言われたからって煽ったのは可哀想だったかな。


「……お前、今思うとそこまでメスガキじゃないよな」

「何それ、どういう意味?」


 リリィはジト目で俺を睨む。


「いや、何でもない」

「……変なの」


 そんなやり取りをしながら俺達は夜の街を歩いていくのだった……。


 ◆◇◆


 それからしばらく歩いて、俺達はとある店の前で立ち止まる。


「ここか?」


「うん、リリィが帰りに立ち寄るお店だよ」


「えーっと……愛らしい生き物と憩いのひと時を……にゃんにゃんカフェ……っておい、もしかしてここって……」


 店の看板には猫耳と肉球があしらわれた可愛らしい文字でそう書かれていた。


「うん、猫カフェだよ」


「この世界にも猫カフェってあんのかよ」


「お兄さん、時々変な事言うよね……この世界って?」


「あー、まぁ後で話すわ。折角だしお互いの親睦を深めるためにも入ってみるか」

「うん」


 俺達は扉を開けて店の中に入る。

 すると店員と思われる猫耳と尻尾が生えた女性の獣人がこちらに駆け寄ってきた。


「いらっしゃいませ、にゃん! 二名様ですかにゃ?」

「うお、尻尾とネコミミが生えてる!」

「似合うかにゃ?」

「めっちゃいい!」


 俺はその獣人の女性に親指をグッと立てる。


「ありがとうございますにゃ! お席に案内するから着いてくるにゃ!」


 そう言って店員の獣人は店の奥にあるテーブルへと俺達を誘導した。


「ごゆっくりにゃ!」


 そう言って獣人のお姉さんは笑顔で去っていく。

 俺達はテーブルに着くとメニュー表を開いて何を頼むか話し合う。


「俺はオムライスにするかな」

「じゃあリリィはハンバーグとパンケーキにしよーっと」

「やっぱ子供じゃん」

「違う!」


 そう言ってお互いの注文が決まったので呼び鈴を鳴らす。

 するとさっきの獣人の店員がこちらにやってきた。


「ご注文をどうぞにゃ!」

「えっと、この『ふわふわ玉子のデミグラスソースオムライス』と『肉球ハンバーグ』をお願いします。あとねこパンケーキ」


 俺がそう言うと店員は笑顔で頷く。


「かしこまりましたにゃ! メニューが出来上がるまで猫ちゃんと戯れててくださいにゃ!」


 獣人のお姉さんはそう言ってメニューを取るとお尻の尻尾を振りながら去っていた。


「猫と戯れろって言われても近くに猫が全然来ねぇんだが?」

「え、いっぱい来てるよ?」


 俺がそう言うとリリィはキョトンとした様子で周囲を見る。彼女の座ってるソファーには白黒の猫と茶色い毛並みの猫が寄ってくる。


「にゃーん」

「……にゅ」


「あ、本当だ」


「この子達はリリィが遊びに来るといつも近寄ってくるんだ。白黒の方はリリィが初めて見た時からの付き合いで、茶色い方は最近友達になった子だよ」


 そう言ってリリィは寄ってきた白黒猫を抱きかかえる。


「なるほどなぁ……ほれほれ、こっちこいや」


 俺は手招きをするも、白黒の方は何故か警戒して全く近付いてこない。


「猫カフェなんだから接待しろや。おれぁ客だぞぉ?」

「猫に接待求めるのは何かが間違ってるよ……」

「ええい、こうなればこっちこーい!」


 俺はまだ空いてる茶色い猫に手を伸ばす。しかし……。


 ――ぺちっ。


 俺の伸ばした手が茶色い猫の手で弾かれた。


「……」


 なんだろう。何故か物凄くショックを受けてしまった。


「その子、すっごく気難しい子で……でも本当は優しい子なんだよ」

「……本当か?」


 俺はそう言って手を引っ込める。仕方なくソファーの背もたれに寄りかかると、リリィが抱えていた白黒猫を抱きかかえて俺の膝の上に乗せてくる。


 すると猫は大人しく俺の膝の上に乗って丸くなる。


「おーおー、従順で大人しいなこいつ」

「その子、人気の子なんだよ。人が近くに来るとすぐ寄ってくるんだ」

「にゅっ」

「鳴き方も独特だなぁ」

「時々、鳴きながらマッサージしてくるんだよ」

「マッサージ?」

「ほら、膝とか胸元に乗せると前足でふみふみしてくるアレ」

「あー、あれか。ぬこぬこ動画で見るやつ」

「なにそれ?」


 俺は膝の上の猫を撫でてやりながら、リリィと会話を続けるのだった。そして料理が運ばれてくると、膝に乗せた猫をソファーの横に退かして食事を始める。


 だが、俺達が食事を始めると猫二匹がテーブルに前足と顔を出して見つめている。


「……気になる」

「かわいいでしょ?」

「飯が奪われないか心配になるんだが」

「大丈夫だよ、その子達が目当てなのはこのパンケーキだから」


 リリィはそう言いながらパンケーキをナイフで切り分け小皿に乗せて猫二匹の足元に持って行く。すると猫は引き寄せられたかのように顔をパンケーキに寄せて匂いを嗅いでから食べ始めた。


「猫って魚とか肉のイメージしか無いんだが、こんな甘い物も食べるんだな」


 そんな俺の呟きにリリィはハンバーグを頬張りながら答える。


「実はこのパンケーキ、猫用に調整にされてるんだよ」

「まさかの猫専用メニュー」

「食べてみる?」


 リリィはそう言いながらパンケーキのひとかけらをフォークで刺して俺に向けてくる。俺は猫のように顔を近づけてぺろりと食べる。


「……味、薄くね?」

「だから猫専用なんだってば」

「甘さが足りない」

「猫に砂糖は要らないんだよ。糖分を取り過ぎると健康に良くないんだ」

「あと変な味がする」

「マタタビもちょっと入ってたりする」

「これ、人間が食べても大丈夫なやつか?」

「お腹は壊さないから大丈夫だよ」


 お互いの親睦を深めるつもりだったのに、何故か猫の事ばかり話題になってしまった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

気に入っていただけたら『高評価』や『感想』などをお待ちしております。


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