第73話 救援?
前回のあらすじ。
レガーティア国王の前で今回の事件の真相を語るサイト達。真犯人を捕らえた事を国王に告げて、その犯人を棺の中に捕らえたと豪語するのだがそのせいで国王を危険な目に晒すことに。
国王に何かあったら自分達の身を危ういと女神に言われて焦ったサイト達は必死に国王を護衛する。
そして、女神の力で形勢を五分に戻し、サイトとカルミアの二人は真犯人であるコーストと再び対峙するのだった……。
「国王様と兵士さん達はミリアム様に任せて、私達はこの男を確実に倒しましょう!」
「ああ!」
カルミアちゃんの言葉に強く頷き、俺は剣を構えて敵の出方を伺う。しかし、俺は対峙する男……コーストが無傷である事に疑念を抱いていた。
地下に居た時、コイツは全身ボロボロでもう死に体の状態だったはずだ。
だが、この短い間に奴の身体は完全に治っている。
「お前、本当に人間なんだよな?」
「……さぁな」
俺の問いに、奴ははぐらかすように言う。
「確かに俺は少し前までボロボロだった。そこの化け物女に片腕を砕かれ、お前に顎が砕かれるまで顔面を殴られ続け、金髪女の魔法で壁に叩きつけられて生きているのが不思議なくらいだ。全身の骨が満遍なく砕かれて多少の治癒魔法ではこの怪我は治らないだろうさ」
「……じゃあ、どうやって……」
「さっき言っただろう?俺は不死身なんだよ」
そう言って、奴はナイフを俺に向けて構える。
「さて、地下でのリベンジマッチと行こうか。”黒炎団”の幹部――このコースト様の恐ろしい実力を今度こそ思い知らせてやろう……!」
コーストはそう言うと、顔の布を剥ぎ取って素顔を露わにする。
地下で見た時は悲惨な顔だったが、無傷の状態の奴の顔立ちはやや渋めのイケメンだった。
ただし目の瞳孔が開いていて狂人そのものだ。
そして、奴は左腕に黒い炎を纏わせ始める。
「な、何だ!?」
「多分……魔法……! サイトさん、ここは私が!」
俺が返事をする前にカルミアちゃんがコーストに向かっていく。
「――はあっ!!」
そしてカルミアちゃんは一気に距離を詰めて得意の短剣でコーストに斬り掛かる。狙いは奴の首元、手加減無しで完全に殺す気の一撃だった。
地下での戦いではカルミアちゃんが圧倒していた。
だからこの一撃でコーストは瞬殺されるだろうと楽観的に考えていた。
――だが。
互いの短剣とナイフがぶつかり合った瞬間。
ガキンッ!と甲高い音が鳴り響いてカルミアちゃんの短剣だけが弾き飛ばされた。
「な……!?」
「か、カルミアちゃん!!」
自身の短剣が弾かれた事に驚いてカルミアちゃんは一瞬隙を晒してしまう。
当然、コーストはそれを見逃さない。自分がカルミアちゃんに首元を狙われたように、彼女の短剣を弾いたナイフがそのまま彼女の首元に突き立て――
「させるか、ボケェ!!!」――る前に俺が阻止しに掛かる。
彼女のピンチに俺が黙って見てるわけないだろーが!
舐めんな!!
俺は即座に手に持つ剣をコーストに投げ飛ばす。
咄嗟ではあったが、俺の剣は奴の左肩に当たって見事に貫く。
「ぐぅっ!」
苦痛に顔を歪めるコースト。お陰でカルミアちゃんを狙った一撃はそれでカルミアちゃんの回避が間に合った。
彼女はこちらに視線を向けて即座にバックステップして弾かれた短剣を回収しに行く。
「――く、行かせるか」
コーストは苦痛に顔を歪ませながら俺の剣を傷口から抜いて地面に転がす。俺も即座に回収しに行くが、コーストはその間に右手から複数のナイフを取り出して彼女に向かって放つ。
だが、流石カルミアちゃん。コーストが自分を狙ってくることを読んでいたのか、すぐにコーストの方を振り向いて左手を伸ばして詠唱する。
「―――凍れ、<氷の礫>!!」
彼女の掌から氷の礫が放たれてナイフを迎撃し、放たれたナイフを全て凍らせて地面に落としていく。
「力だけじゃなく魔法まで使えるのか……この化け物が!」
「女の子に向かって馬鹿力や化け物は失礼ですよっ! ……っと!」
カルミアちゃんは地面に落としたナイフを足で引っかけてそのまま拾い上げる。
「ちっ!」
「舌打ちしてんじゃねえよ、死ねやコラァ!!」
俺はカルミアちゃんに釘付けになっていたコーストに吠えながら回収した剣で襲い掛かる。
いちいち叫ぶ必要はないと思われるかもしれないが、人に斬り掛かる時に冷静でいられるわけがない。これは勢いで理性を抑えて感情を麻痺させる儀式のようなものだ。
「貴様から先に死にたいか!」
俺の剣の一撃をコーストは両手のナイフで受け止めて鍔迫り合いになる。
「クソッ……テメェがどうやって傷を治したか知らねぇが、今度はその首をぶった切ってやるからな!!」
「ハハッ、やってみろよ雑魚が!!」
コーストはそう嗤いながら俺の胸元に向かって蹴りを放つ。
「……っ」
ドスッと胸に強い衝撃を受けた俺は、呼吸が止まってその場で膝を崩してしまう。
「は……威勢だけの雑魚が!!」
「……く…そ…野郎……!」
威圧的に俺を見下ろしながらそう言うコーストに俺は悪態で返す。
だが、奴の言う通りだ。
カルミアちゃんと比べて、明らかに俺は弱い……!!
そして、奴は右手に持っているナイフを俺の首筋に添える。
「じゃあな」
「サイトさん!」
カルミアちゃんの叫び声を聞きながら、俺は迫る切っ先を見つめる事しか出来ない。
その時――
『お兄さんのヘタレー!!』
「!!」
突如、俺のポケットから何処かで聞いたことがある生意気な子供の声が響き渡る。
「……なんだ?」
その声を聞いてコーストは一瞬怪訝な顔をして、再び俺の首にナイフを当て直す―――が、
次の瞬間、奴の顔面に子供の拳くらいの大きさの石が直撃する。
「ぐあっ!?」
顔面に石が直撃したことでコーストを大きく仰け反って、俺はその隙に奴から離れる。
「い、今のは……」
今の投石は間違いなく俺を助ける為に誰かが放ってくれたものだ。
俺はその人物の姿を探して視線を彷徨わせる。
直前に、俺のポケットの中から聞こえた声――そこには”彼女”に渡された青い石が入っていた。おそらく自分の声を録音して俺に渡したのだろう。
だとすれば、あの投石を放ったのは――
「――リリィ」
俺はようやくその姿を見つける。
こちらに向けてスリングを構える小さな子供の姿。生意気な態度についメスガキと揶揄ってしまうが、そんな姿も可愛げのある少女だった……。
「お前、なんで……」
「言ってる場合じゃないよ、お兄さん! あんな奴に負けちゃダメ!」
そう言ってリリィは再びスリングを構える。
「……そうだよな、こんな奴に負けるわけにゃあいかねえな!!」
こんな小さな子供に激励を受けたら、俺も立ち上がらないわけにはいかないな……!
「このガキ……!」
「おーっと、お前の相手はこっちだぞ?」
突然現れたリリィに激高するコーストに、俺は剣を構えて奴に挑発する。
「……良い度胸だ。俺様に殺される覚悟は出来てるんだろうな……?」
投石を受けた額を抑えながらコーストは憎々し気にリリィを睨む。その眼差しにリリィは一瞬狼狽えるが、そこにカルミアちゃんが歩み寄って彼女を庇う。
「……そんな事はさせません。リリィちゃんは私達の大事な友達だから……!」
「よく言ったカルミアちゃん! ……さぁ、レガーティア編のラストバトルも最終局面だぜ……! 全員でコイツをボコってハッピーエンドと洒落込もうじゃねえか!」
俺の言葉に、後ろで様子を見ていた女神がクスリと笑う。
「――俺達と敵対したことを後悔させてやるよ、黒炎団!」
俺はそう言って、
剣の切っ先を黒炎団の幹部である男――コーストに向けるのだった……。
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