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第72話 猫かぶりをやめる主人公

 ついに国王と対面することになった俺達三人。俺達は城へ不法侵入したことを国王に咎められるが、俺は事情を話してストレイボウは既に殺されていた事を伝える。


 そして真犯人を捕らえて棺桶の中に閉じ込めてある事を公表する。それを聞いた国王は棺桶の周囲に兵士を配置する。


「カルミア……と言ったな?」

「あ、はい!」


 国王様に呼ばれて慌てて返事をするカルミアちゃん。


「……お前が棺桶を開けてみるがいい」

「……はい」


 カルミアちゃんが指名されると素直に頷いて棺桶に近付く。


「……なんでカルミアちゃんにやらせるんだ?」


 俺は声を潜めて女神に話しかける。

 すると女神も俺のトーンに合わせて返答してくる。


「先程、レガーティア国王は 『カルミア』という名に反応してました。おそらく彼女が”勇者”である事に気付いてますよ」

「そうなのか?」

「多分、グリムダール国から伝達があったんでしょう」

「……ってことは、わざわざ危険を冒して彼女に開けさせるのは……」

「称号に相応しい人物か試している、ということ」

「……逆に俺達はどういう立ち位置だと思われてるんだろーな」

「さぁ? ……何があっても良いように身構えておきましょう。レガーティア国王に何かあったら犯人を連れ込んだ私達はもロクな事になりませんよ」

「マジかよ怖っ……戸締りしとこーかな」

「戸締りじゃなくて剣を構えてください。そして国王が攻撃されたら命を張って守りなさい」

「あれ、俺って捨て駒扱い?」


 そんなやり取りを女神としていると、カルミアちゃんが棺桶の前に到着して呼吸を整えていた。


「じゃ……開けますね……」


 緊張の面持ちで棺桶に手をかけるカルミアちゃん。

 俺達は息を呑んで見守る。すると、箱の蓋がカパッと開いて……。


 ……次の瞬間。


「っ!」


 突然伸びてきた手をカルミアちゃんは素早く払いのけてバックステップ。

 そしてすぐさま短剣を取り出して構える。


「……チッ」


 棺桶の中から舌打ちが聞こえる。

 それと同時に中に閉じ込められていた人物が上半身を起こす。

 そこには……。


「な、何……!?」


 俺はその人物に驚愕する。

 いや、中に入ってる人物に相違は無い。

 俺が異空間でブッ倒したあのコーストの野郎だった。


 だが、おかしい。


 地下で確認した時は白目を剥いて顔もボコボコに腫れ上がってゾンビのような状態だったのに完治している。それどころか身体に縛り付けておいた鎖がバラバラになって効力を発揮していない。


「……やれやれ、よくも好き放題やってくれたな」


 コーストは手足の関節をコキコキ鳴らしながら立ち上がる。


「お前……なんで……」

「半死人のような状態だったのですが……」


 俺が見た時、間違いなくまともに動ける様な状態じゃなかった。


「兵士達よ、何をしている! その男を拘束しろ!」

 国王が声を張り上げる。

 すると、何人かの兵士が一斉に動いて男に槍を突きつける。しかし……。


「なるほど、ここは謁見の間か。丁度いい……今、この場で国王を討ち取っておけば後々の活動が楽になりそうだ」

「……っ」


 そう言いながらコーストは嗜虐的な笑みを見せる。

 俺は女神に言われた通りに国王を守れるように動き出して国王を庇う。

 するとコーストは俺を見て露骨に不快な顔をする。


「またお前か……邪魔だな……」

「テメェ、何で怪我が治ってる? 俺が死ぬ寸前までボコボコにしてやったはずだが」

「ついでに私の魔法で壁に激突して全身複雑骨折させたはずですが……」


 オーバーキルし過ぎだろ女神様。


「残念だったな、俺は不死身なんだよ」


 不死身?んな馬鹿な……。

 もし不死身だったら俺なんかに殴り倒されたりしないだろうに。


 俺がそう考えていると、コーストに槍を突きつけていた兵士達が憤慨した様子で叫ぶ。


「貴様、国王様に対してなんという無礼な!」

「身の程を弁えろ下郎が!」

「拘束するぞ!」


 兵士達はそう言いながらコーストの身体を縄で縛り上げる。

 しかし、コーストの表情は不機嫌そうだが追い詰められた様子はない。


 ……まだ何か企んでいるのか?


「よし、そのまま牢獄に――っ!?」


 と、国王が言いかけた時だった。


「ぐあっ!」


 突然、男の背後から槍を突きつけていた兵士達が悲鳴を上げてその場に倒れる。

 見ると、その兵士の肩には鋭利な刃で切り裂かれたような傷跡があった。


「悪いな。俺は暗器使いなんだよ。不用意に俺に触れると怪我するぞ?」


 そう言いながらコーストは倒れた兵士を踏みつけて後ろに下がっていく。


「テメェ……!」

「こ、国王様の御前で……!」

「……っ、やむを得ない。兵士達、その場で処刑するのだ!」

「はっ」


 国王の命令通りに兵士達が武器を構えてコーストに突撃していく。


「……っ、止めて!」



 だが、それに嫌な予感を覚えたのかカルミアちゃんが静止するが、兵士達の耳には聞こえていない。


「てやぁぁ!!」


 そして兵士達は周りを囲んで同時にコーストの身体を槍で一突きしようとするが――


「遅い」


 コーストは瞬く間に攻撃を仕掛けてきた兵士の攻撃を体術で巧みに躱して大きく後ろに跳ぶ。


「……なっ?」

「レガーティア国王。その命、この場で貰い受けるぞ」


 コーストはそう言いながらポケットから何かを取り出そうとする。

 それを見て女神は表情を変えて叫ぶ。


「砕斗、カルミアさん! 国王を守りなさい!!」

「!」

「!」


 その声に俺とカルミアちゃんが弾かれたように動く。それと同時にコーストが取り出したものを地面に叩きつけると、何かが爆発して周囲に黒い煙が立ち込める。


「煙幕!?」

「逃すか!」


 兵士達はコーストを逃がすまいと槍を再び振うがそこには既にコーストは居ない。

 俺とカルミアちゃんは国王の前と背後に張り付いて周囲を探る。


「……く、このような事が……!」


 国王がそう悔しがるが、コーストに居場所が分かってしまうので俺は国王に喋らないように促す。


「喋ると居場所がバレる。今は俺達の指示に従ってくれ……!」

「……す、すまない」


 国王は申し訳なさそうに言う。


 その直後だった。俺の頭上から何かが飛来してくる気配を感じて咄嗟に剣を抜いて弾く。すると甲高い音が鳴り響いて近くに落下した。どうやらナイフを投げられて無事に弾き返したようだ。


 ……このままだと不味いな。


 今俺が奴の攻撃を防げたのは運が良かっただけだ。

 もし次にまた狙って来たら防ぎ切れるか自信が無い。


「サイトさん! 南西の方角です!」

「っ!」


 カルミアちゃんの声で俺は言われた通りの方角に剣を振るう。

 するとカキンと音がして、甲高い音が鳴り響く。


「くっ……」


 剣を振った俺は顔をしかめる。

 また俺の剣に何かが当たって弾かれたのだが……煙が酷くて確認しようがない。

 カルミアちゃんの指示が的確だったから防げたが……。


「サイトさん……聞こえますか……」

「……なんだ?」

「国王様を連れて何処かに隠れてください。ここは私が何とかします……!」

「……いや、いくらカルミアちゃんでもこの状況は……!」


 俺がそう返事をすると、カルミアちゃんの方から風を切る音と同時に何かを弾く音が聞こえた。またコーストが何か仕掛けてきたようだ。


「私が大丈夫……視界を塞がれても気配である程度防げますから……」


 勇者すげぇなオイ。


「だから国王様を連れて隠れてください」

「……分かった、気をつけてな!」

「はい」


 カルミアちゃんと別れた俺は国王の腕を掴んで引っ張っていく。……だが、


「逃がさん」

「うおっ!」


 突然直接斬り込んできたコーストの一撃をなんとか防ぐ。


「くそっ! 国王様、邪魔だ!!」

「うおっ!」


 俺は国王の足を蹴り飛ばして距離を取らせると、俺はコーストに反撃する。

 そして奴のナイフと俺の剣がぶつかり合い、つばぜり合いになる。


「サイトさん!」

「カルミアちゃんはそこで転がってる国王様を守っててくれ!」

「ぶ、無礼な……王を足蹴りに……!!」

「うるせぇ、命掛かってんだよ!!王が偉い役職なのは分かるが戦場でまで偉そうにしてんじゃねー!!」


 状況が混雑しているので猫かぶりを止めて素の口調で叫ぶ。


「……ふ、足手まといを庇いながら大変そうだな……!」

「あぁん!? 敵に同情なんかされたくねーよ! ……っていうか他の兵士達はどうした!?」

「あぁ、邪魔だったから全員片付けた」

「んだと!?」

「次はお前達の番だ!」


 そう言うとコーストはナイフに力を込めて俺を後方へ吹き飛ばす。俺は何とか踏ん張って立て直すが、距離が離れた事で再びコーストの居場所を失ってしまう。


「しまった、カルミアちゃん。場所分かるか!?」

「流石にこの煙じゃ…… 国王様、私から絶対離れないでくださいね……!」

「……く、彼の言う通りだな……戦場では王の立場など足を引っ張るだけの存在か……」


 俺のさっきの言葉のせいで国王なんか落ち込んでるし……!


 ……だが、今はそんな場合じゃない。

 俺は再び剣を構えて煙の中に居るであろう奴の殺気を探るが……。


 ……クソッ、カルミアちゃんのようにはいかねぇか……!


 所詮、戦いの経験の浅い俺じゃあ音での探知は出来ても殺気や気配なんかとても読み取れない。


 ……だが。


『少し時間は掛かりましたが、もう大丈夫ですよ。今から煙が晴れますから』

「あぁん!?」


 突然、頭の中で響いた女神の声に怒声で返事をすると同時に、視界が一気に開けた。

 どうやら煙は女神が魔法で払ってくれたらしい。


 そして煙が晴れた事で姿が見えるようになった奴は――


「死ね」


 俺の背後から斬りかかって来ていた。


「しまっ――っ!」

「させません!!」


 だが、即座にカルミアちゃんが割り込んできて、奴のナイフをカルミアちゃんは短剣で弾き飛ばす。そして彼女はインファイトに持ち込んで奴の腹に肘打ちを叩き込む。


「ぐふっ……!!」


 腹を強打されたコーストは腹を抑えながら二、三歩後ろに下がる。


『砕斗、国王はこちらに避難させました!』

「!」


 思考の最中に女神が念話で割り込んでくる。彼女の方に視線を向けると、少し離れた場所で国王と兵士達を後ろに下げた状態で女神は立っていた。


「砕斗、カルミアさん。彼らは私に任せてその男と今度こそ決着を付けてください」

「おう、任せろ!」

「サイトさん、油断しないでくださいね!」


 俺とカルミアちゃんは武器を構えてコーストと対峙するのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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