第69話 復活
辛くも異空間から脱出した三人。
女神たちは窮地を脱するとサイトの治療を再開して彼の意識が戻るのを待った。
「……ん……お?」
気怠い身体が少しずつ楽になっていく感覚を感じ俺は目を開く。
「サイトさん……!」
すると俺の頭の横にはちょこんと女の子座りしていたカルミアちゃんの姿があった。彼女と視線が合うと、カルミアちゃんは突然俺に圧し掛かってくる。
「カルミアちゃん!? ちょ……近い……近いって……」
俺はちょっと照れながら彼女を引き離そうと手で抑えてもみ合いになっていると、ここが城の地下だということに気付いた。
「俺……もしかして気絶してた?」
「そうですよっ! ……私達が急いで戻ったらサイトさん倒れちゃってますし……! 私、本当に心配して……」
「いやぁ、悪い悪い……相手が思いのほかヤバくて死ぬかと思ったぜ……はは……」
笑って誤魔化しながら上半身を起こす。固い石床の上に寝かされていたせいか体中が痛い。
周囲を見渡してみるが蝋燭の灯りだけで照らされた場所なので見通しが悪い。今ここに居るのは自分とカルミアの二人だけのようだ。
「ここって城の地下だよな?」
「はい、そうですよ。異空間から何とか脱出してサイトさんの意識が戻るまで私が傍に居たんです」
「あー、悪かったな……カルミアちゃん。……で、ミリアムとリリィはどうしたんだ?」
「二人はちょっと用事があって……」
「用事?」
サイトが訊き返すとほぼ同時――
――ズルッ……ズルッ……!
「……な、何だこの音……!?」
暗い牢獄の奥から何か重い物を引きずっているような音が響き渡る。
場所が場所なだけにかなり不気味で、俺は思わず身構える。
だが、カルミアちゃんは特に驚いた様子が無く、
「あ、二人とも戻ってきたみたいですね」
「え?」
彼女の言葉にどういうことか分からずに戸惑っていると、何かを引きずる音が更に近づいてくる。俺はとりあえず立ち上がって身構えて警戒するが、それは杞憂に終わる。
「あ、お兄さんが起きてる!!」
「砕斗、ようやく目覚めましたか……なら、これ運ぶの手伝ってください」
暗がりから現れたのは、俺を見て安心した様子のリリィと女神だった。
「って、お前らかよ。ビビッて損したわ!」
「だから二人が戻ってきたって言ったじゃないですか~」
「いや、だってあんな気味の悪い音がしたら、何かヤバい奴が来たって思うじゃん」
女神とリリィの二人は鎖を持って何か大きな箱を引きずって運んでいたようだ。大きさは大体二メートル程だろうか。大人がすっぽり入れそうな大きさの横長の木の箱だった。
「で、二人は何を運んできたんだ?」
「棺桶」
「は?」
「中身を見れば分かるよ」
リリィはそう言いながら箱の蓋を取ろうとする。
「ちょ、待て待て。そんな気味悪い箱に誰か入ってんの!?」
俺は慌ててリリィを止めると、女神が言った。
「ええ、入ってますよ」
「誰がだよ!?」
「砕斗が倒した男ですよ」
「……俺が? ……あ、そういう事か」
俺は気絶する前に倒した男の事を思い出して、箱の傍に近寄って蓋の中を開けて覗きこんでみる。
「……」
「……」
中身は酷い顔になった黒装束の男が白目になって永眠していた。
俺は無言で蓋をして、ゆっくり立ち上がり手を合わせる。
「成仏しろよ……ナムナムナム」
「いえ、一応生きてます」
「マジかよ」
「まぁ、色々あって私が治療しちゃいましたので」
「ミリアムさんが治療するまでもっと酷い状態だったよ」
「女神様が魔法で吹き飛ばした時に凄い勢いで壁に叩きつけちゃったみたいで、さっきまで人の姿を保ってませんでした」
俺が気絶してる間にこいつもっと酷い目に遭わされていたのか。
良い気味ではあるが、ちょっと同情してしまいそうだ。
「ま、生きてるならいいや」
「貴方に聞きたいのですが、この男の正体を知ってますか?」
「『コースト』って名乗ってたぜ。俺達に魔物をけしかけてきた黒装束の男だよ」
「……なるほど、ではこの男を国王の元に運んで事件は解決ですね」
「このまま持って帰るの?」
「そのつもりですが……」
……いきなりこんな棺桶を運んで謁見の間に行ったら、俺達の方が犯人だと疑われるんじゃないか?
「なあ、こいつこのまま運ぶとヤバい奴だって思われるんじゃねえか?」
俺がそう言うと女神もそれは思ったようで、うーんと考え込んだ。
「……多少動揺があるかもしれませんが、問題ないでしょう」
「アンタ、実は考えなしに行動してるだろ?」
「そんな事ありませんよ。事実、こうやって城の中に忍び込んで真犯人を捕縛出来たのは私の活躍あってのものですし?」
「いやいや、確かに忍び込めたのはアンタのお陰だが、犯人を捕まえられたのは俺のお陰じゃねーか!」
「リリィも怖い思いしながら魔物相手に頑張ったよ?」
「あはは、皆の活躍ですよねぇ……」
俺達はそんな風に互いに手柄を主張していると、女神はパンと手を叩く。
「はいはい、今はそこまで。とりあえずこの辛気臭い場所を出ましょう」
「……ま、そーだな」
俺はひとまず納得し、皆でここを出ることにした。
「あ、砕斗が棺桶運んでくださいね」
「……」
……中身だけどっかに捨てて行こうかな、と思った瞬間だった。
「あ」
先を歩く女神の足が止まり、こちらを振り向く。
「実は貴方が気絶している間に、とある事実が発覚しました」
「ん? なんだそりゃ?」
俺はそう訊き返すと、女神を含めた三人の表情が暗くなる。
「実は……」
…………。
「……そうか、そんな事になってたか」
「……はい。分かっていた事ではありますが……」
「いや、それでも見つけられただけマシってもんさ。アイツも多少は救われたんじゃねーの?」
「……だと良いのですがね」
「じゃあ、この話はここで一旦終わりにしとこうぜ。どうせ後で国王に報告するんだろ?」
「……ええ」
「なら行こうぜ。こんな場所とはさっさとオサラバだ」
そう言って俺は棺桶を引きずりながら歩き出すと、他の三人もまた地上に向かって歩き出した。
◆◇◆
俺達が地下から地上に出ていくと、そこには……。
「――居たぞ! 城内に許可なく侵入した不届き者だ!!」
「城の兵士達をそそのかした魔女とその仲間達! 貴様ら、ただで済むと思うなよっ!!」
「こいつら、棺桶を持っているぞ!? なんて気味の悪い奴らだ!」
「ええい、捕まえろ!!」
――城の兵士達に囲まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「おい、女神様……」
「知りません。私のせいじゃないです……」
「どうみてもお前のせいじゃねーか!! どうすんだよ、この状況!!」
しらばっくれる女神の言葉に、俺は全力で突っ込んだ。
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