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第65話 化物と呼ばれた少女

「じゃあトドメを刺してきますね」


 そう言ってカルミアちゃんはそっと短剣を構えて魔物に近付いていく。


 そして背後から魔物の頭を狙って短剣を振り上げ―――


「――っ!」


 瞬間、嫌な予感がした俺は振り返る。

 それとほぼ同時に俺の耳元に小型のナイフが飛んできた。その軌道は魔物を殺そうとしたカルミアちゃんに向けられたもので背を向けている彼女では絶対に回避出来ない。


 俺は自分の右腕を犠牲にして彼女に向けられたそのナイフを受け止める。


 ――グシャッ!

 ――ザクッ!!


 カルミアちゃんが魔物の首を斬り飛ばすのと、俺の腕がナイフで裂かれるのはほぼ同時。


「く……がはっ……!」


 俺は痛みに顔をしかめてその場に膝を突く。

 ナイフは俺の右腕に深々と突き刺さっていて、止血しようにもかなり出血が多すぎる。


「お兄さん!」

「砕斗!」


 リリィと女神が俺の異常に気付いて駆け寄ってる。


「……え?」


 魔物を倒したカルミアちゃんは自分の背後から聞こえた不快な音でこちらを振り向く。そして血に濡れた俺を見て放心状態になる。


「サイトさん……なんで倒れて……」

「だ、大丈夫だ……カルミアちゃん……それよりもそいつを……」


 俺は怪我をしてない左腕を伸ばし、ナイフが飛んできた方向を指差す。

 俺が指差した方向にナイフを放った人物の影が潜んでいる。


「そいつが……真犯人だ」

「――チッ」


 俺が皆に分かるようそいつを指差して言うと、陰から黒頭巾を被った人物が姿を現す。そいつは全身装束を纏って忍者のような姿で手には複数の小型のナイフを手にしていた。


「……よく俺に気付いた、褒めてやる」

「……テメェが、真犯人か…………くっ……!」


 俺は剣を引き抜こうとしたところで、俺の右腕に鈍い痛みが走り痛みで倒れ込んでしまう。


「お兄ちゃん!」

「ナイフには毒が塗ってある。放っておけばその男はあと数分で死に至るぞ」

「……貴様」


 女神は倒れた俺の身体を支えながら、その黒装束の男を睨みつける。


「どうした? 俺に構っていないで、そいつを治療しないと死んでしまうぞ?」


 男は忠告する様に言う。しかし女神はそれを厳しい目で反論する。


「……戯言を。私が彼を手当てしようとした瞬間、その手に持ったナイフで私を殺そうとするのでしょう?」

「くくく……分かってるじゃあないか」

「あぁ……あ、ぐ……」


 俺は毒が回っているのか意識が朦朧として来る。このままだとマジで死んじまいそうだ。


「お兄さん、待ってて。すぐナイフを抜き取るから……!」


 リリィはそう言って俺の右腕に突き刺さったナイフを手に取って引き抜こうとする。しかしその瞬間、奴は持っていたナイフをリリィ目掛けて投げ飛ばす。


「っ!」

 女神はそれに気付いて俺がしたように自分の身でリリィを庇おうとするが、その前にカルミアちゃんがナイフを弾いてリリィの前に出る。


 そして、カルミアちゃんは言った。


「……よくも、サイトさんを」

「残念なことに俺が狙ったのはそいつじゃない、お前だよ。そいつを傷付けた事を責めるのであれば、俺に背を向けたお前が悪い――死ね」


 黒装束の男は不意打ち気味にカルミアちゃんにナイフで斬り掛かってくる。


 だが――


「なっ……!」

「……」


 カルミアちゃんはそいつの不意打ちをものともせずに素手で受け止める。

 しかも毒の刃に触れずに奴の指を抑え込んでしまった。


「ミリアム様、サイトさんの治療をお願いします」

「え、えぇ……」


 彼女の言葉に頷いて、女神は俺の右腕に軽く触れる。


「ぅ……」

「我慢してください……」


 痛みで呻く俺を女神は俺にそう呟いて治療魔法を使用する。

 温かな光に包まれて俺の右腕の痛みは徐々に引いていく。


 ……一方、カルミアは。


「く、くそ……離せ……!!」

「……貴方は、私の大事な人を傷付けました……絶対に、許さない……!!」


 カルミアは力を込めて抑えていた男の指を強く握る。そしてメキリと音がすると、黒装束の男はナイフを手から離しその場に崩れ落ちた。


「ぐあああああああ!……こ……この……化け物が……!」


 男はカルミアに握られていた指を抑えて苦悶の表情を浮かべ彼女を罵倒する。その指は完全に砕かれていてもはや使い物にならなくなっていた。


「く……こんな小娘に……!」


 男は悔し気な声を上げて後ろに後ずさりして、闇の中に逃げて行った。


「待てっ!!」


 怒りで我を失いかけていたカルミアは仲間達を置いてそのまま追いかけようとする。だが、それをリリィが手を掴んで引き留める。


「だめっ、お姉ちゃん!!」

「……リリィちゃん」


 そこでカルミアはようやく我に返り、怒りで熱くなっていた頭が僅かに冷えた。背後を振り返ると、そこは女神に肩を支えられて怪我が随分軽くなったサイトの姿があった。カルミアはそこで先程まで頭の中に渦巻いていた怒りの感情が鎮まっていくのを感じた。


「カルミアちゃん、格好良かったぜ」


 そう言いながら親指をグッと立てる彼を見て、カルミアは一気に気が抜けてしまい思わず表情が緩んでしまう。


「さ、サイトさんってば……」

「砕斗、大丈夫なのですか?」


 女神は心配そうに俺に聞いてくる。サイトは腕を軽く動かして答える。


「全然平気だ、助かった」


 そう言いながらサイトは自分の力で立つ。

 まだ少々フラついていたが毒はもう抜けきっているようだ。


「そうですか……」


 サイトの返答に女神はホッとする。

 そしてリリィも安心したのかその場にへたり込むと安堵の溜息を零す。


「そ、それにしても今の奴なんなの?」

「アレが今回の事件を引き起こした真犯人なんでしょうね」

「逃がして良かったのか?」


 サイトは女神にそう質問しながら視線を向ける。リリィがカルミアを止めたのは女神の指示だった。


「奴が逃げた先は行き止まりです。ですがどんな罠を張り巡らせているか分かりません。カルミアさん一人で行かせるのは危険だと思い、リリィさんに止めてもらいました」

「袋の鼠ってわけだ。で、追い詰められた鼠は何をしてくるかわからない……と」

「そういう所は理解が早いですね……」


 サイトの言葉に女神は呆れと関心を交えた溜息を吐く。


「それで、砕斗はすぐに動けますか?」

「ああ! 奴が何者かは知らねぇけど時間を与えるのはロクに事にならんだろうし、行こうぜ」

「元気で結構です。……カルミアさんも大丈夫ですか?」

「……はい。あの、サイトさん」

「ん?」


 カルミアに声を掛けられてサイトは彼女の方に視線を向ける。


「さっきはありがとう」

「ん? 俺、カルミアちゃんに何かしたっけ?」


 サイトは不思議そうな顔をする。


「あの男のナイフから私を守ってくれたじゃないですか。私、全然気付いてなくて……気が付いたらサイトさんが倒れてて……」

「あー、気にすんなって」

「で、でも……」

「うーん、そこまで言うなら……『私、貴方に身も心も捧げたい……! 今日の夜、サイトさんの部屋に行きますね……♪』……って言ってほしいな。出来ればお風呂入ってからネグリジェとか身に付けて来てくれると超嬉しい」

「えっ!?」

「<天罰>」

「ぎゃっ!?」


 カルミアが彼の要望に呆気に取られると、女神が魔法の様な能力で彼の頭に小さな落雷を落とす。次の瞬間、彼の頭が煙を上げる。


「い、今のは……?」

「天罰です」


 驚くリリィに女神がきっぱりとそう答える。

 するとサイトは何事もなかったように起き上がると頭を抑えて呟く。


「いや、冗談だからな?」

「時と場合を考えてください。あと子供の情操教育に悪いです」


 女神はリリィに一瞬視線を向けて言う。


「へーへー……じゃあ行こうぜ」

「えぇ……。あの者が次にどんな手を仕掛けてくるかわかりませんし油断はしないでおきましょう」

「だな。リリィ、カルミアちゃん! 早く行くぞ!」

「あ、はい……!」

「なんだったの、今のやり取り……」


 こうして四人は黒装束の男の後を追いかける。

 果たしてその行く先には何が待ち受けているのか……?

ここまで読んでくださってありがとうございます。

気に入っていただけたら『高評価』や『感想』などをお待ちしております。

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