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第64話 放たれた魔物

 カルミアちゃんが目覚めたので俺達は何処かに潜む魔物を探すことにした。


「……で、魔物が二人に襲い掛かってきた場所に一度戻ってきたわけだが」


 俺達の目の前にあるのはストレイボウの仲間達が投獄されていた牢だ。牢の中は相変わらずの状態で周囲には腐敗臭と血の生臭さが充満している。俺は鼻を摘みながら女神に質問する。


「この牢獄の中に魔物が潜んでいるって事か?」


 俺は女神にそう確認すると、彼女は首を横に振る。


「カルミア達の話だと最初は壁から何者かが襲ってきたという話でした。なら注視すべきは『壁の中』という事になります」

「つまり、壁を調べるってこと?」

「ええ、リリィさんは賢いですね」


 リリィの質問に女神は笑顔で答える。


「で、最初に調べるのがここってわけか……」

「はい。既に別の場所に逃げてる可能性はありますが……」

「出来れば入りたくねぇな……」

「わ、私も……」

「リリィもヤダよ、怖い」


 俺とカルミアちゃんは顔を引きつらせながら答える。

 リリィは特に正直だ。

 そんな俺達を見て女神が溜息を吐く。


「襲われるのを怖がっていては魔王となんて戦えませんよ?」

「ちげぇよ!? 死体ばっかりの所に入りたくないって言ってんだよ!!」

「あ、なるほど。そういう感じの否定でしたか」

「女神様、絶対わざとですよね!?」


 カルミアちゃんが珍しく女神にツッコミを入れる。


「ふむ……この状態を放置するのもあまり良くありませんね。死臭のせいで空気も淀んでいますし、時間が経つと死体が異形として蘇ってしまうかもしれません」

「何それ怖い」

「め、女神様。何とか出来ませんか?」

「……そうですね、浄化しておきましょうか」


 女神はそう言って前に出て手を牢屋の方に向ける。


「何するの?」

「……浄化の光よ、ここに来たれ」


 女神が詠唱をした次の瞬間、牢の中が一瞬光に包まれる。

 すると血の匂いが薄れて中に転がっていた死体が綺麗に無くなっていた。


「……終わったのか?」

「はい。これで中に入っても大丈夫なはずなので、皆さんどうぞ入ってください――と言いたいのですが……」

「ん?」


 女神が最後に何か不穏な事を口走ったので俺は彼女の顔を覗きこむ。


 彼女は何故かこちらに視線を合わせずに一点を凝視していた。


 何かと思って彼女の視線の先に目を向けると、そこには壁から血走った”目”がこちらを見ていた。


「うわっ!?」

「ひっ!?」


 俺とリリィが小さく悲鳴を上げるとその目は消えて、壁の中の何がが動く音が聞こえてくる。そして壁の中から影っぽいものが壁を伝って何処かに逃げて行った。


「どうやら、まだこの牢の中に居たようですね」

「に、逃げてったぞ?」

「出口は塞いでるので魔物に逃げ場はありません。追いますよ」


 女神はそう言って通路を駆けていく。

 俺達も慌ててその後を追って通路の奥へと入っていく。

 そしてしばらく走った先で女神が急に立ち止まってこちらを振り返る。


「追い詰めましたよ」


 そう言って、壁の一部に指を向ける。そこから影がごわごわと蠢いて、さっきの血走った目が俺達の事を覗き込んでいた。


「……観念してもらいましょうか」


 女神は指を向けて魔法で魔物を攻撃しょうと構える。


 すると、魔物の方が先に攻撃を仕掛けてきた!


 壁から黒い長い手足を伸ばしてきて俺達に襲い掛かってくる。俺は咄嗟に剣を抜いて防御しようとするが、その前にカルミアちゃんが前に出て短剣を抜いて即座に切り払う。


「お姉ちゃん、早い……!」

「流石、カルミアさん。意識が戻ったばかりななのに冴えてますね」

「でも、この後どうすれば……!」


 敵の攻撃を軽くいなしたカルミアちゃんだが、魔物は手足を伸ばして攻撃してくるが、本体は壁に入ったままで攻撃することができないのだ。


「砕斗、出番ですよ」

「は? 俺にどうしろって?」


 女神の唐突な使命に、俺は思わず聞き返してしまう。


「例の剣で壁ごと斬っちゃってください」

「え、マジで?」

「マジです。さあっ!」


 女神は俺に早くやれと言わんばかりに急かしてくる。



 俺は仕方なく例の『バグ剣』を召喚して武器を持ち替えて壁に向かって剣を振ろうと近づく。

 しかし、待ち構えていた壁の魔物はさっきのように触手で俺に攻撃を仕掛けてくる。


「くっ……!」


 この剣、通称『バグ剣』は不具合を消したりする事は出来るが攻撃力は皆無だ。それがどういうことかというと、あの触手すら切り払うことができないという事である。


「やべぇ……!」

「サイトさん、危ない……! <火球>(ファイアボール)!」


 しかし、襲ってきた触手をカルミアちゃんが放った魔法で焼き払う。


「カルミアちゃん、サンキュー!」


 俺は彼女に礼を言ってそのまま壁ごと魔物を切り裂こうと剣を振るう。壁には傷一つ付かないが、俺が剣を当てた場所が蠢きはじめて壁から魔物が這い出してきた。


 下半身が蛇のような姿で、上半身は蜘蛛の様に何本も手足があり、顔は一つ目の化物だった。細長い蛇の部分の長さを含めると全長は6メートルはありそうだ。


「よ、ようやく出て来やがった……!!」

「お兄さん、下がって!」

「おう!」


 言われて俺は一旦下がって魔物から距離を取る。リリィはポケットからスリングを取り出して、赤い弾を詰めてそれを魔物の頭に向かって投げ飛ばす。


 すると、スリングから鉄の玉が発射されて魔物の身体にめり込んだと思ったら弾が破裂して赤い粉塵が魔物の周囲に巻き起こる。

『GUAAAAAAA!!』

 すると魔物は悲鳴を上げてのたうち回り始めた。


「な、何をやったんだ?」

「目潰し弾だよ。目に入ると下手すると失明するからお兄さんも気を付けて!」

「こわっ!!」


 想像よりもエグい効果で俺はリリィのやる事にドン引きする。魔物は目を押さえながら大暴れして、その辺の壁や床に向かって体当たりしたり爪を薙いで暴れまくる。その破壊力は石床を軽く抉るほどで人間が受けたら鎧を身に付けてても一瞬でズタズタに切り裂かれそうだ。


「なんて威力!」

「下手に近付いたら私達もミンチにされてしまいそうですね……!」

「見張りの兵士達も、皆、コイツにやられたのか……」


 悪党が殺されるのは自業自得だと考えるが彼らには何の罪もない。こいつを放っておけば更に犠牲者が増えてしまうし、どうやってもここで仕留めないと不味い事になる。


「でもどうすれば……なぁ、蜘蛛と蛇の弱点ってなんだ?」


 俺は三人に聞いてみるが三人とも首を傾げる。


「蜘蛛と蛇ですか……」

「ネコちゃんとかタカさんですかね?」

「……いや、流石に猫や鷹では無理があると思うぜ?」


 カルミアちゃんの気の抜けた返答に思わず肩の力が抜けてしまう。


「うーんと……毒かなぁ」


 おっとぉ……リリィからまたしてもエグイ単語が飛び出してきたぞ……?


「毒か……効くのか? 蛇自体毒があるってのに……」


 俺はリリィにそう聞くと、彼女は少し考えてから頷く。


「強力な殺虫剤とかは効くって聞いたことあるよ? あとは麻酔の類とかも効くってパパに教わった事があるけど……う~ん、リリィも実際に試したことはないから……」

「まぁそうだよな、毒なんて早々手に入らないし」

「持ってるよ?」


 そう言いながらリリィは紫色の弾を取り出す。


「……リリィちゃん。なんでそんな物持ってるの……?」

「だってギルド職員だし……一応、リリィも戦術教官だからね」


 カルミアちゃんの質問にリリィはあっさりと答える。


「え、えと……じゃあそれをあの魔物に撃ってみてもらっても良いかな?」

「うん!」


 リリィがそう言うと、毒の弾を魔物に向かって投げる。弾は魔物に当たって破裂すると中に入っていた液体が飛び散って周囲に広がっていく。


『GUUUUUUUU!!』


 目を潰されて暴れ回ってた魔物は毒を受けて動きが少しずつ鈍くなっていった。


「よし、これなら勝てそうだな」

「勇者パーティとは思えない陰湿な戦法ですね……」


 女神は若干引いた様子で、俺は苦笑いする。


「じゃあトドメを刺してきますね」


 そう言ってカルミアちゃんはそっと短剣を構えて魔物に近付いていく。


 そして彼女は背後から魔物の頭を狙って短剣を振り上げ――


 ――次の瞬間、俺の右腕から血が迸った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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