第63話 合流
俺達がカルミアちゃん達の元へと駆け付けた時、異形の魔物がカルミアを拘束して彼女に襲い掛かろうとしていた。俺と女神は迷うことなく即座に動く。女神は近くのリリィに当たらないよう魔物に炎を放ち、俺は動きが止まった瞬間に剣で魔物に斬り掛かる。
「オラァッ!」
『ギャアアアア!!』
魔物の背中に剣を叩き付けた衝撃でカルミアちゃんが拘束から解放される。次の瞬間、俺の攻撃を受けた魔物は悲鳴を上げながらどこかに消え去ってしまった。
「消えた……? いや、今はどうでもいい!」
俺は倒れたカルミアちゃんを抱き起こして、彼女に声を掛ける。
「カルミアちゃん、大丈夫か!?」
「……サイトさん」
カルミアちゃんはか細い声で俺を呼ぶと、そのまま気を失ってしまう。よく見ると彼女の身体は傷だらけで、額からは血も流れていた。
おそらく魔物に襲われた時に負ったのだろう。怒りが込み上げてくるが、まずは彼女の怪我を治して貰わないと。
そう考えて彼女を抱きかかえたまま俺は立ち上がるが、床が妙にヌルヌルしている事に気付く。
「なんだこれ?」
怪訝に思いながら足元に視線を移すと多量の赤い液体と赤黒い肉の塊が……。
「………」
俺は顔を青くして急いで牢屋の中から跳び出した。
そして牢屋の外に出て一言。
「ナニコレ、ヤバい!!」
「語彙力死んでますよ。今はいいから彼女を運んでください」
「いや、よくないだろ!」
女神の指摘に俺は突っ込むが、結局彼女が心配なので従う事に。
◆◇◆
「カルミアちゃん……」
「大丈夫、命には別状は無いようです」
俺達は気絶したカルミアちゃんを手当てするべく牢屋から少し離れた場所で彼女を寝かせていた。リリィは心配そうに寝ている彼女の傍で様子を見ている。
「リリィ……俺達が居ない間に何があったんだ?」
「カルミアお姉ちゃんが牢屋の中を調べようとしたんだ。だけど突然、壁の中からさっきの化物が襲ってきて……」
「壁の中から?」
「うん。リリィは転がってる人の死体が怖くて入れなかったけど、お姉ちゃんは勇気を出して調べようとしたんだ。でも、あの化物に捕まって……」
「そうだったのか……」
「というか、あの牢屋の中の惨状は何なんですか?」
「ストレイボウの仲間だよ……多分、さっきの魔物に殺されたんだ……」
「ミンチよりひでぇ有様だな……あの結晶石から出てきたのがさっきのなのか?」
「それしか考えられませんね」
カルミアちゃんに治癒魔法を施しながら女神は俺の質問にそう答える。
「何の事?」
リリィが俺達の会話を聞いて首を傾げる。
「ああ、俺達が上の階の血だまりを調べてたら出てきたんだよ。ほら、これ」
俺はリリィにヒビの入った結晶を見せる。
「これって……」
「これに魔物が封印されてた可能性があるって話だ。血だまりの中にこれが落ちてたって事はあの場所で魔物が出現したって事なんだろう」
「そして、おそらく……」
「ああ……」
俺は頷きながらさっき拾った物を取り出す。
「リリィ、これに見覚えないか?」
「これって……」
リリィにそれを見せる。
俺が見せたのは、血に汚れた『指輪』だった。
リリィはそれを見て気付く。
「もしかして、ストレイボウが身に付けてた指輪?」
「やっぱりそうか」
リリィの言葉で確信する。周囲も暗くて血で汚れてるから判り難いがこれはストレイボウが右手の親指に付けていた金の指輪だ。
「これで確定しましたね。ストレイボウは―――」
「……ああ、この地下牢を脱出する前にあの魔物に殺されたんだ」
女神のセリフを俺は肯定する。
◆◇◆
「……ん」
気絶していたカルミアちゃんが目を覚ます。
「お姉ちゃん!」
カルミアちゃんが目を覚ましてリリィが彼女の傍に寄り添って声を掛ける。
「リリィちゃん……私……どうして……」
「魔物に襲われて気を失っちゃったんだ……動ける?」
「うん……」
カルミアちゃんは自分の身体が動くことを確認すると上半身を起こす。そして俺と女神様が傍に居ることに気付くと、少し頬を染めて恥ずかしそうに目線を逸らす。
「サイトさん……女神様……」
「無事で良かったぜ、カルミアちゃん」
「何処か痛むところはありませんか? まだ辛いなら無理に動かない方が良いですよ」
「大丈夫……ありがとう二人とも……」
そう言いながらカルミアちゃんは自力で立ち上がる。
「……あれからどうなったの?」
「大して時間は立っちゃいないぜ。俺達が救援に駆けつけて魔物に斬り掛かったらどっかに逃げちまったからな。多分、どっかに隠れてると思うんだが……」
「リリィさんに聞いたのですが、その魔物は壁の中から現れたんですよね?」
「はい……」
カルミアちゃんは奥の牢獄の方を向きながら女神の質問に頷く。
「サイトさん、ストレイボウさんの件は……?」
「……ああ、調べたんだが、十中八九もう死んでる。地下一階にあった血だまりの中から奴の遺品が出てきた。カルミアちゃんが襲った魔物がやったんだろうな」
「……そうでしたか、残念です」
「おそらく魔物は近くに潜んでいるはず。推測ですが魔物を放った犯人も潜んでいるでしょう」
「手分けして探すか?」
俺はそう提案するが女神は首を横に振る。
「単独行動は危険です。いつ奇襲されるか分かりませんし一緒に探しましょう」
「分かった……だがどうやって探す?」
「それなら私に策があります。実は地下に入る時に誰も出入り出来ない様に結界を張っておきました。
真犯人も魔物もこの地下から逃げることは出来ませんので、あとは――」
「……後は?」
俺がそう続きを促すと女神はニコリと笑う。
その笑みに俺はちょっとだけ嫌な予感がしたのだった。
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