第06話 ああ、逃げられない!
初投稿って何なのか最近分からなくなってきました
前回のあらすじ。
カルミアちゃんがまさかの本物で、偽物の僕の人生終わった。
――カルミアと出会ってから二日後の話。
僕、サイトはバグ女神様に言われたバグ修正の仕事をこなしながらビクビクと過ごしていた。
何故、怯えているかって?
以前、僕は城下町でモンスターを倒したことで、周囲の民衆から「勇者だ」と祭り上げられて、王様から認められた。だけど当然僕は本来の勇者ではない。以前倒したモンスターはあくまで『バグ』であり勇者の仕事とは違う。
僕が以前倒したモンスターは普通の魔物とは全く異なる存在だ。
女神様が言うには、本来使われない空白のダミーデータがウイルスによって変質した不具合によるバグであり、そのバグが人を襲ったのは近くにあるオブジェクトや人物に感染してバグを広めるという、ウイルスを仕込んだ人物によって命令されたものらしい。
ただ、何も知らない現地の人間は魔物とバグの区別が付かない。
そのため、周りは僕を勇者と勘違いしたわけだが、本来の勇者が現れた以上、僕に疑いが掛かるのは時間の問題だ。今でこそ王様によって貸し与えられたこの拠点で仕事が出来ているわけだが、そのうちきっと王様の使いの者が現れて出頭させられるだろう。
最悪の場合は民衆を惑わして”勇者”を騙った罪で牢獄送り、そこまで行かなくとも国外追放の可能性もある。そんな状況で真面目に仕事に取り込んでいる僕はもっと褒められていいと思うのだが……。
『はいはいえらいえらい』
「……どうも」
僕の仕事ぶりを唯一分かってるバグ女神様もこの適当ぶりである。
ストライキ起こしていい?
「……ああ、もうさっさと逃げようかな」
このまま捕まるくらい今の間に夜逃げの準備をして逃げ出そうか考え中だ。
一応、その為に装備や野営の準備も整えてある。怪我をした時の為に、城下町の道具屋から回復ポーションや毒消しなどの薬も買ってあるし、10日分くらいの食料も大きな鞄に入れていつでも逃げ出せるよう拠点に置いてある。
……しかし、そんな僕の思惑を知ってか知らずか、女神様は相変わらずの傍観モードだ。
最近だと仕事の時以外あまり話しかけてこない。以前のようにずっと監視されてないのは有り難いが肝心な時に頼れないのも困る。
とはいえ、ここのバグ修正もかなり進んでいる。後は城内の自分が入るのを避けている謁見の間と、警備が厳重な一部の部屋や宝物庫くらいのものだ。そしてその辺りのバグもおそらくそこまで多くない。
というわけで、どのみちこの城下町の暮らしもそう長く続かないのだ。
ただ、全く心残りがないわけじゃない。
――大丈夫!? 待ってて、今引き上げるから!
――うん♪ 呼び捨てでも、ちゃん付けでも、何ならサマ付けでもいいですよっ♪
――はい!こう見えても私、結構強いんですよ!
――ちゃんとした自己紹介が出来てなくてごめんなさい。
――私はカルミア・ロザリー。神様の啓示を受け、世界を救うために遣わされた勇者です。
――サイトさん、また会いましょう。ばいばーい!
「……」
勇者として王様に呼ばれていた彼女……カルミアちゃんの言葉を思い出す。
……また会いましょう……か……。
彼女と別れてから丸二日間経つが、その後一度も顔を合わすことが無かった。当然、僕が会いに行かないのが理由なのだが……彼女の偽物として大手を振って歩いていた僕がどういう顔をして会いに行けばいいのだろう。
もし会いに行っても、以前のように親し気な対応をしてくれるとは限らない。
……彼女に嫌われていたら、僕は……。
『オタクに優しい美少女に嫌われるってどんな気分です?』
「死ね」
バグ女神がその一言に色々と込めた内容で煽ってきたので直球で罵倒してしまう。
『まぁ良いじゃないですか。元々勇者と貴方は関わりのない関係なのですから』
「……」
彼女の事を知って無関係だと割り切れるほど僕は腐ってはいない。
例えあの出会いに虚偽が混じっていたとしても、僕と彼女は『友達』だ。
そんな彼女と一度も顔を合わせず、別れの言葉も告げずに、このまま逃げるのは―――
――トントン。
「……!」
そんな風に考えていると、不意に僕の部屋の扉が叩かれた。
誰だろうと疑問を感じながら僕はノックされた扉を開く。そこには、見覚えのある鎧を付けた人物……僕が最初に出会ったこの国の兵士の人が訪ねてきた。
「あなたは……」
「失礼、勇者……いや、”サイト”殿。国王様から招集が掛かっています。今すぐ謁見の間に来るようにと」
「え?」
僕は彼の言葉に頭が真っ白になる。いきなりの呼び出し、それも王様直々だ。
……これはつまり、僕の嘘がバレたって事か……?
『まぁ、いずれこうなるとは思っていましたが……』
僕の脳内からバグ女神様の呆れた声をため息が響く。仮にここで無理矢理突っぱねて逃げようものなら、僕は完全に犯罪者だ。そうなれば、もう本当にこの国には居られなくなるだろう……。
女神様の他人事のような発言に苛立ちながらも、素直に招集に応じることにした。
「分かりました。すぐに行きます」
僕は兵士の人に向かってそう返事すると、彼は頷いてそのまま去っていった。
『いつかは気付かれることでしたし、まぁ仕方のない事です』
「そうなんだけどさ……」
女神様は相変わらず僕の脳内で他人事のように話すが、実際その通りなので何も言い返せない。
……仕方ないか、と諦めて僕は謁見の間に向かう。
『一応、装備は付けておいた方がいいのでは?』
「いや、なんでですか?」
『念の為ですよ。万一捕らえられそうになった時の為の備えです。こないだ護身用の剣も買ったでしょう』
「いや、確かにありますけど……」
僕は壁に立ててある購入してから一度も使用していないロングソードに視線を向ける。
『折角、鞘も一緒に用意したのです。持って行っては?』
「……」
むしろ王様に会うのに武器を所持してたら怪しまれないか?一瞬そう思ったが、女神様の懸念も事実ではあるので大人しく言う事を聞くことにした。
◆◇◆
場面は変わって、謁見の間にて――
僕は、まるで今から裁かれる犯罪者の様な気分で謁見の間に入っていた。城内の兵士がひそひそと僕を見ながら何か話をしているが、そんな声すら僕を辱める様で悔しさが込み上げてくる。
……カルミアちゃんならこんな状況ならどうするんだろう。
……いや、こんな時に彼女の事を思い出すなんて、女々し過ぎるな……余計に自分がみじめに思えて仕方がない。
しかし、もうこうなってしまったなら仕方ない。
僕は覚悟を決めて、足を進めて王座に座ってこちらを睨むように見つめている国王の元へ向かう。
そして、ある程度近付いたところで足を止めてその場で跪く。
「……サイトです。招集に応じて参上しました。グリムダール国王様」
「……うむ、面を上げよ」
僕が頭を下げてそう伝えると、王様は重々しく頷いた。そして僕は言われた通りに顔を上げて王様の顔を見る。
以前会った時よりも、どこか険しい表情に見える。
あの時は僕の事を勇者だと信じ切っていたから僕に対する視線も朗らかだったのだが、今は値踏みするような視線に思える。そしてそれを見守る兵士達の様子もだ。以前の歓迎モードと打って変わって得体の知れないものを見る目に見えなくもない。
もっとも、それらはあくまで僕の主観ではあるのだが……。
「……さて、”サイト”殿。儂が其方をここに呼び寄せた理由に心当たりはあるだろうか」
「……」
ある。と自白したいが、もしかしたら自分の勘違いの可能性もある。今は黙っていよう。
「数日前、ここにある者が訪れてな。名は、カルミア・ロザリー……まだ年端もゆかぬ少女なのだが、彼女は自身の事を『勇者』と名乗ったのだ」
「!」
カルミアちゃんの名前が出て、僕は一瞬動揺して肩を揺らす。
が、すぐに取り繕って平静を装う。
「しかし、おかしいのだ。真の啓示を受けた勇者はこの世にただ一人……例外は無い」
……聞いたことは無いが、そうなのか?
『あ、言うの忘れてました』
おせぇよ駄女神。
「サイト殿。正直に聞かせて欲しいのだ。儂と初めて会った時、儂は城下町の其方の働きを聞いて興奮してつい勇者などと呼んでしまった。それは儂の勘違いだったのだろうか」
勘違いです。
というか僕はずっと違いますと言ってましたよ。
すごいそう叫びたいのが、雰囲気が雰囲気なのでそうも言い辛い。
だが、僕の言いたいことが伝わったのか、兵士の一人が静かに前に出てこう言った。
「恐れながら国王様……彼は、国王様に『勇者』と呼ばれる度に、それを否定していたと記憶しております……」
兵士はそれだけ口にして頭を下げて再び後ろに下がって隊列に加わる。
「……」
「……」
彼の進言のせいで周囲が冷え切ってしまう。
「(いや、どうすんだよ。国王様の勘違いが理由では……)」
「(いやいやいや、サイト殿もなんだかんだで強く否定しなかったのも理由ではないのか)」
「(おい静まれ、王の御前だぞ!)」
「(しかし、どうする……これではサイト殿を責めるに責められんぞ……!)」
兵士達がコソコソと話し合っているが、僕にも聞こえるほどなのでかなり恥ずかしい。というかよく王様の前でそんな話が出来るものだ。よく見ると、王様も少し視線を外して気まずそうにしている。
「か、確認だが……其方は勇者では、無いのだな?」
「……はい」
僕は正直に返事をしてから頷く。
すると国王様とその警護をしている兵士達からため息が漏れる。
「そ、そうか……儂の勘違いだったか……」
「……」
王様の言葉に僕は密かに安堵する。
僕自身が名言したわけではなく、王様の勘違いとなれば話は変わってくるだろう。
少なくとも極刑や追放など重い刑罰はならないはず……。
……と、そう思っていたのだが、
「しかし、サイト殿。勇者カルミアに聞いた話なのだが、其方は彼女に『自分は勇者だ』と告げたそうではないか?」
「………」
国王様にそう問われて、僕は一瞬間の抜けた表情をしてしまう。
しかしすぐに全身に嫌な汗が滝のように流れ出し、僕は彼女と話した内容を必死に思い出そうと試みる。そして……。
◆◆◆~回想開始~◆◆◆
「でもお姫様が誘拐されたことまで知ってるって……サイトさん、もしかして凄い人なんですか!?」
「え?いや……はは……そ、その……」
やっば。適当に見栄張ってそれっぽい事を言って誤魔化そうとしたけど、これ以上何も思いつかん!
……いや、待て。
今、事実はどうあれ、僕は城下町を救った『勇者』扱いを受けてるんだぞ。
ならばここは勇者らしく堂々と……!
「じ、実は、僕……勇者、なんだよね」
「え!?」
カルミアちゃんは驚いて目を見開いた。
◆◆◆~回想終了~◆◆◆
思いっきり言ってたあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
しかも、この時カルミアちゃん「え!?」ってめっちゃ目を見開いて驚いてたし!!あの時は何も言わなかったけど「なんでこの人、自分が勇者とか名乗ってんの?」とか思ってただろ、絶対!!
『ぷふっ………くっく………!』
人が真剣に焦ってんのに笑ってんじゃねえよ、クソ女神!!
「え、えっとですね……それは……」
なんとか言い訳を口にしようとするのだが、完全な失言なので何も出てこない。僕は冷や汗を滝の様に流しながら、なんとかこの場を凌ぐ言葉が思い浮かぶのを待つしか出来なかった。
そしてそんな沈黙の中、不意に王様が口を開く。
「うぅむ……しかし、儂も彼女に聞いただけではっきりとした事は言えん。彼女の記憶違いという可能性もあるからな……なので、直接聞くことにしよう」
「……え?」
僕がその意図を問いただそうとする前に、王様は指をパチンと鳴らす。
「おい、彼女を連れてきてくれ」
「はっ!」
そう言って国王様は謁見の間の扉の前に居た兵士に命令する。
兵士はすぐに返事を返して素早く外に出ると、すぐに一人の人物を連れて戻ってくる。
その人物は―――
「……カルミア……ちゃん……」
「……サイトさん」
僕の目の前に現れたのは、僕が二日前に城内で出会った少女。
カルミアちゃんその人だった。
「な、なんで……」
僕は思わずそう呟いてしまうが、彼女はそれに答えず静かにこちらに歩いてくる。
彼女の僕の隣にまで歩いてくると、僕が最初にしたように跪いて王様に挨拶を行うが、王様は「よい、面を上げよ」と口にする。
そして、王様は続けて言う。
「勇者カルミアよ。其方が数日前に言っていた話は事実か?」
「……」
「そこの男……サイト殿は、其方に自身を『勇者』と名乗ったそうだが、それは事実か?」
「……それは」
「ん……? どうなのだ?」
国王様はカルミアちゃんの言葉を遮るようにそう問うが、彼女はそれに答えず僕の方に視線を向けた。彼女は僕に何も言わないが、その視線は悲し気だった。
……失望、しているんだろうな。
……無理もない。あんな偉そうに言ったのに、今の僕の惨めな姿を見て気分を悪くしてしまったんだろう。
彼女のその視線を浴びて僕は自己嫌悪に陥って思わず視線を逸らして俯いてしまう。
「どうした、勇者カルミア。其方が以前に言っていた事は事実ではないのか?」
「……」
カルミアちゃんは何も言わずに立ち上がる。
「……カルミアちゃん?」
何故か真実を答えようとしない彼女に、僕は思わず声を掛ける。
すると彼女は僕に背を向けたまま、静かにこう言った。
「グリムダール国王様。彼が勇者か否か、言葉よりも明確に真実を知る方法があります」
「……? 勇者カルミア、どういう意味だ?」
彼女の言葉に、国王様と周りの兵士達がざわつき始める。
そして僕も……彼女の言葉の意図が読めずに、思わず彼女の背中を見つめていた。
「勇者カルミアよ。どういう意味だ?言葉よりも明確に真実を知る方法があると?」
国王様が彼女にそう問うが、彼女は何も答えない。
しかし、彼女はこちらを振り向いて僕に一瞬視線を向けると、何故かそのまま僕を横切って5メートルくらい離れた所で立ち止まる。
そして彼女は再びこちらを振り返って言った。
「……簡単です、国王様。私と、彼……サイトさんがこの場で剣で試合を行うのです」
「!?」
彼女の提案に、僕を含めた全員が目を見開いて驚愕した。
「ま、待ってカルミアちゃん!君は何を言ってるんだ!?」
僕は慌てて立ち上がって彼女を止めに入るが、彼女は僕に向かって静かに言う。
「サイトさん、剣を抜いてください」
「!」
彼女がその言葉を口にした瞬間、彼女の周囲から異様なほどの圧力を感じる。その圧力は、以前見た彼女のふわふわとした雰囲気とはまるで別物の……まるで武芸を極めた戦士と対峙するような……。
「カルミアちゃん……君は何を」
「国王様。今から私と彼が剣で試合を行います。”勇者”とは神に啓示を受けた選ばれし人間……その強さは並の鍛えた人間を凌ぎます。なら剣を交われば、どちらが勇者に相応しいかは一目瞭然……そうですよね?国王様」
カルミアちゃんはそう言って再び王様に問う。
「う、うむ……確かにその通りだが……」
彼女は何が言いたいのか?と兵士や周りの人達が困惑した様子を見せているが、彼女の目を見て僕は気付いた。
彼女は嘘を吐いた僕に、最後のチャンスを与えようとしているのだ。
要するに……”私を倒せれば、貴方が真の勇者ですよ”、と彼女は僕だけに分かるように言っているのだ。
「カルミアちゃん……君は、そこまでして……」
僕は彼女の意図にようやく気付き、思わずそう呟く。彼女は、なんで僕なんかの為にここまで……。
「国王様、御前試合の許可。お願いします」
カルミアちゃんは、今までよりも強い口調で王様に言う。
「うむ……良いだろう。勇者カルミアよ、許可しよう」
王様は彼女の迫力に気圧されたように戸惑いつつも頷いた。
そして、彼女は腰から短剣を取り出して構える。
そして僕は……。
「……サイトさん、お願いします。剣を抜いてください……!」
「……っ!」
その言葉を告げる彼女の悲痛そうな顔を見て、そんな言葉を表情をさせてしまった自分を恨みながら……。
”俺”は鞘から剣を抜き放つ――!
こういう展開、嫌いじゃない。
首尾よく行けば次の7話で1章完結という感じになると思います。
纏め切れなければ2話に分けるかもです。
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誰も入れてくれないので、同情でもいいのでお願いします!( ;∀;)