第59話 闇者の末路
その日の深夜。
レガーティア城・地下三階の牢屋にて。
皆が寝静まった後の事。
寝たふりをしていたストレイボウは目を開けて牢の鉄格子に近寄る。
そして、ポケットから細い針金を取り出す。
「……誰も居ない。やるなら今しかない」
そう呟くと彼は針金を鉄格子にあてて慎重に動かし始める。すると、まるで水の様に抵抗なく、針金はするりと鍵穴の中に入っていった。
そこから彼は一心不乱に手先を動かして、数分したところでカチリと音がする。
「やった……! これで……!」
彼は静かに歓喜の声を上げると牢の鍵を外して外に出る。
その際、向かいの牢獄に囚われた仲間達に目を向ける。
彼らは自分と違って寝静まっているようだ。
「……」
最初、一瞬だけ助けてやろうかと脳裏に過った。
しかし、自分がサイトに気絶させられた後、即座に逃げ出して自分を裏切ろうとした事。牢獄に囚われた時に散々罵倒されたことを思い出す。
「……ふん」
ストレイボウは冷笑し、そのまま地下牢を後にして階段を上って地上に向かった。
階段を登ると見張りの兵士が立っており、武器を奪われたストレイボウは無手では危険だと考え兵士から武器を奪い取る事を考える。
そして、兵士が居眠りをし始めたタイミングを見計らって兵士に襲いかかる。
「な、なんだキサマ……うおっ!?」
不意打ちで見張りの兵士を気絶させたストレイボウは、兵士から武器を奪い取って腰に差すと足音を消して先へ進む。
そうして見張りの動向を探りながら時には不意打ちを仕掛け、ストレイボウは地上まであと少し……という所まで来た。だが、しかし……。
「よぅ、ストレイボウ」
ストレイボウに背後から声を掛ける者が居た。
「……ッ!?」
ストレイボウは突然の声に驚いて身体を震わせて振り返る。
そこには、ストレイボウが畏怖する存在が、こちらを見て嗤っていた。
「お、お前は……」
目の前の人物は頭に黒頭巾を被って目元を隠しており、衣服もまるで忍者のように真っ黒な黒装束を身に付けた男だった。
それはストレイボウが所属する犯罪組織”黒炎団”の幹部の一人。
名前は”コースト”、首領である”独裁のレイス”を補佐する事実上、組織のナンバー2と呼ばれる人物だった。
「……こ、コースト」
「コースト”様”、だろ? ストレイボウ」
「ッ!」
ストレイボウは”黒炎団”での自分の立場を思い出し、顔を青くして身体を震わせる。
「な、なんでお前がここに……?」
「お前らがレイス様の命令を満足にこなせず失敗したと聞いてな」
「くっ……」
「それで、だ……」
「ッ!!」
ストレイボウの背筋に冷たい汗が流れる。
そして彼は直感した。この目の前の男は自分を始末しに来たのだ、と。
「ま、待て! ボクを始末したらこの国の任務はどうなる!?」
「お前がこうして捕まった時点で全て無駄になった。折角俺の手引きでこの国に潜ませて情報収集させてたってのに、お前が黒炎団とバレてしまったせいで全て台無しだ」
「そ、そんな……ボクが捕まったのも黒炎団とバレたのもレイス様の指示で……!」
「……ほぅ? 自分に非はないと?」
「……っ」
「まぁいい……本当はお前が任務にした事なんてどうもいいからな」
ホーストはそう口にしながらストレイボウに近付く。
ストレイボウは恐怖で思わず後退ってしまう。
「ど、どういうことだ……」
「なぁに、実は俺の直属の部下がこの国で活動しているお前達の様子を見張らせていたんだよ。それで知ったんだが……お前達、”黒炎団”を裏切るつもりでいたらしいな?」
「なっ!? ち、違う! それは誤解だ!!」
ストレイボウは慌てて弁明しようとするが、それを見たコーストはチッと舌打ちをした。
「言い訳など聞かん。お前はこの場で死ね」
そう言いながらコーストはポケットの中から、黒い塊のようなナニかを取り出す。
それが何か分からなかったが、命の危険を感じたストレイボウは先程兵士から奪い取った剣を取り出してコーストに斬り掛かる。
「うああああああ!!」
「おっと」
だがコーストは口元をニヤリと歪めて、わざとその黒いナニかを剣の軌道に投げ入れる。そして、黒いナニかは剣の刃に当たった瞬間、何かがストレイボウにぶつかってその身体が壁まで吹き飛ばされてしまう。
「ぐああぁ!?」
「くくく……この俺がお前如きに後れを取る訳がないだろう?」
「な、何をした……?」
吹き飛ばされて地面に這い蹲りながらもストレイボウは顔を上げてコーストを睨む。
「今のか? まぁ見ていれば分かるさ……クックック……」
コーストは嗤う。ストレイボウはその獰猛な笑みを見て困惑するが……彼の背後から黒い影が煙のように立ち込め始める。
最初、ストレイボウは錯覚だと思った。
だが、その煙は徐々に何かの形を為していき……。
「……ヒッ!?」
その煙が完全に何かの形を成した時、ストレイボウは恐怖で顔を歪ませた。
煙の正体は……悪魔そのものだった。
「あ、ああ……」
ストレイボウは腰を抜かして後ずさる。しかし彼はすぐに自分の背後に壁が在る事に気付き、逃げ場がない事を理解する。
「レイス様が魔王と契約して借りた魔物だそうだ。これを使えば貴様はおろか国の兵士達を全て皆殺しにすることも造作もないだろうが……やり過ぎるなよ?」
コーストは背後の魔物にそう命令する。
命令を受けた魔物は、ストレイボウにゆっくりと近付き始める。
「ひ、ひぃ……!!」
ストレイボウの脳裏に死という文字が過る。彼は必死に後ずさるがすぐに壁に背中がついてしまう。
そして、魔物はストレイボウの目の前まで来るとその長い腕を振り上げて……彼の身体を叩き潰したのだった。
「……ふん」
コーストは無残な姿になったストレイボウを見て鼻を鳴らすと踵を返してその場から立ち去る。
「……いや、どうせならストレイボウの部下も殺しておくか。下手に尋問されて黒炎団の情報を吐かれても困るからな。まぁ、この魔物が暴れればそれどころじゃ無くなるだろうがな」
そう呟くと彼はストレイボウの亡骸に目もくれず地下牢を出て行ったのだった……。
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