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第58話 幕間

 ――レガーティア城・地下三階の牢獄にて――


 衛兵の手によって連行されたストレイボウとその仲間達はレガーティア城の地下の牢獄に収監されていた。


「クソッ! ここから出せ!!」

「俺達は無実だ!!」

「黒炎団なんて何にも知らねぇんだよ、なぁ!? 調べてくれりゃすぐ分かる!!」

「た、助けてくれー!」

「俺達、冒険者としてこの国に尽くしてきただろ!? 突然やってきた何処とも知らねぇ馬の骨の言葉は信じて俺達の事を信じてくれねぇのかよ!!」

「うおぉぉぉ!! 薄情者ぉぉぉ!! 俺には家族と恋人がいるんだよおぉぉぉ!!」


 ストレイボウの仲間の一人が牢獄の格子をガンガンと叩いて叫ぶ。それに連鎖するように他の仲間達も自分は無実と訴えて喚き散らし始める。だが衛兵達は無視して去っていく。


 衛兵達が居なくなって周囲に誰も居なくなった事を確認した仲間の一人は、表情を歪めて「クソッ!」と暴言を吐きながら鉄格子を蹴り飛ばす。


「聞いちゃいねぇ……おい、お前」


 仲間の一人が別の牢獄に収監されたストレイボウに声を掛ける。


 しかしストレイボウは虚ろな表情で反応を一切示さない。


 そんな無反応なストレイボウに腹を立てたのか仲間達が一斉に暴言を吐き始める。


「俺達がサポートしてやったのにヘマしやがって……!」

「テメェが殺害対象に要らん情報を与えたせいで俺達まで巻き込まれたんだぞ! 聞いてんのか、あぁん!?」

「何ボーっとしてやがる!? 俺達が任務に失敗したことが上にバレたらどうなるか分かってんのか!」

「何が『ボク達がこの国を乗っ取って”黒炎団”から独立を目指す』……だ! その前に捕まってりゃ何の意味もねぇじゃねえか!!」

「おい、何とか言えや! このクソボケが!!」

「寝てんじゃねーぞ、ぶっ殺されてーのか!!」


 仲間達はストレイボウを罵倒する。


 先程まで無実を懇願していたのに自分達が黒炎団であることも隠そうとしない。周囲に誰も居ない事が分かっているから口を滑らせたのかもしれないが。


「……ああ、聞いてるよ」


 ストレイボウは虚ろな表情でそう返す。

 彼の頬はサイトによって二度も殴られて腫れあがっていた。


「だったら何とか言えや! このままじゃ全員処刑されちまうんだぞ!?」

「……」


 だが、ストレイボウは彼らと視線を合わずに独り言を呟く。


「ああ、ボクの計画が滅茶苦茶だ……ボクなら上手くやれたはずだったのに……全部アイツらのせいだ」


 ストレイボウはそう言って身体を震わせる。

 恐怖で震えているのではない。怒りで震えていたのだった。


「……復讐してやる。このボクをこんな目に遭わせたことを!」


 ストレイボウの耳にはもう仲間達の罵倒すら聞こえていなかった。


 ◆◇◆


 同時刻。


 サイト達はギルドからの事情聴取を終えてようやく解放され、今はリリィと別れて宿で疲れた体を癒していた。


 そして三人は一つの部屋に集まって今までの鬱憤を晴らすように賑やかな時を過ごしていた……。


「はい、俺の勝ちぃ~!」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 机を挟んで腕相撲をしていた俺とカルミアちゃんは、俺の勝利で終わり腕相撲に勝った俺は大人気なくガッツポーズをキメた。


 俺に負けたカルミアちゃんは自分の腕を見て悔し気に呻く。


「砕斗、少々大人げないですよ」


 それをベッドに身を伏せて横目で観戦していた女神は呆れる様にいう。


「いやいや、剣術だといつもボッコボコにされてるから、こういう時くらい男の力を見せつけないとだなぁ」

「サイトさん、もう一回、もう一回やりましょう!」

「おう、受けて立つ!」


 俺は立ち上がって再び腕相撲の構えを取る。そして、俺とカルミアちゃんは右腕を机に立てて互いの掌を合わせて力を込める。


「ぬっ!」

「くぅぅ……ぅぅぅぅ!!」


 俺の力に必死に抵抗して可愛らしい顔を真っ赤にしながら踏ん張るカルミアちゃん。


「ぬおぉぉぉ!!」

「う、うぅ……っ!」


 そして俺は更に力を込めて彼女の腕を倒す。


「俺の勝ちぃ~!」

「ま、負けましたぁ……」


 カルミアちゃんはがっくりと項垂れる。


「カルミアさん、そんな落ち込まないでください」

「そ~そ~、俺みたいな大人げない奴に負けたからって気にする事ないって、はははは!!」

「む、ムカつくぅ……!」


 カルミアちゃんは”勇者”として強力な加護を受けているのだが、その能力が発揮される状況はある程度限定されているらしい。戦闘時や肉体を酷使する際は加護によって身体能力は大幅に向上するが、こういう非戦闘時や日常生活においては加護が弱くなって能力が落ちてしまう。


 その状態だと普通の少女と大差ないため、こうやって純粋な力比べなら俺が勝つ事など容易い。


「く、悔しいけどサイトさんに腕相撲では勝てそうにありません……」

「よっしゃ、カルミアちゃんに完全勝利ぃぃ!! 次はアンタの番だぜ女神様。俺が勝ったらケーキの最後の一個は貰うからな」


 そう言いながら俺は隅っこに置かれたケーキの箱に視線を向ける。


 このケーキは冒険者ギルドで事情聴取を受けた時、多大な謝礼金と一緒に受け取ったものだ。レガーティアでも有数のお菓子職人が作った超高級なチョコレートケーキである。なんとお店で買うとホール一つで5000ルピーはするらしい。


「男なのにこんな甘いケーキが好きなのですか……?」

「男も女も関係ねぇだろ。疲れた時はこういう甘い物を口に入れりゃそれだけで疲労がグッと回復するもんだって。アンタだって美味しそうに食べてただろ?」

「……甘い物大好きなカルミアさんに譲ってあげればいいのに……」

「勝った人が残ったケーキを食べるって、最後に1個残った時に決めただろ?」

「……仕方ないですね。この美しい女神と腕相撲で勝負出来る事を誇りに思いなさい。そして改めて私の偉大さを教えてあげます」

「お、言うねぇ。じゃあ俺が勝ったら残ったケーキを貰うからな?」

「ええ、ご自由に。では私が勝ったらそのケーキは差し上げますが、この後に私とカルミアさんに喫茶店でケーキと紅茶を奢る事、約束出来ますか?」

「やってやろうじゃねえか!」

「ふふ、約束ですよ」


 女神はそう言って右腕の袖を捲る。すると彼女の白い腕とモチモチした二の腕が露わになる。


「綺麗な肌しやがって」

「ふふ……女神に推薦されるほどの美貌なので当然です」

「……前から聞きたかったんだが……見た目が良いから女神になれたのか?」

「え、いや……当然、内側から溢れ出る性格の良さも評価されてますよ?」

「……」

「……そんな目で私を見ないで頂けませんか?」


 女神はたじろぎながら俺に言う。俺はジト目のまま無言で彼女を見つめる。


「な、なんですかその目は! 私は嘘などついていませんよ!?」

「へーへー」

「さては全く信じてませんね? ……良いでしょう、女神とはどういう存在かこの場で証明してあげます」


 いや、腕相撲で証明って何かが間違ってないか?


「良いからさっさと続きをやろう」

「ふっ……」


 女神はそう言いながら机に美しい右腕を立てて、笑顔で俺を挑発する。俺はその笑顔に挑戦的な笑みで返しながら自身の右手で彼女の手を握る。


「ミリアム様、頑張ってください! ふぁいとぉー!」


 カルミアちゃんが女神にエールを送る。

 彼女のエールを背に受けて俺と女神の宿命?の戦いが幕を開けるのだった……。



 ……なお。


「おい、ミリアム! お前絶対なんかチート使ってるだろ!?」

「さぁ何の事でしょう?」


 サイトが必死に女神の腕を倒そうと力を込めるもビクともしない。

 女神は涼しい顔で余裕の表情で答える。


「さぁさぁ、頑張って抵抗してくださいね。この調子だと呆気なく私が勝ってしまいますよ?」

「こ、コノヤロウ……上等だ。こうなれば俺も野生のパワーを解放して……うっおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「(野生のパワーってなにかな……?)」


 まるで獣の様な咆哮を上げるサイトだったが、無情にも女神の腕は微動だにしない。どころか女神が少しずつ力を込めるとサイトの腕がどんどん追い込まれていくのだった。


「あーもう!! なんでだよ、コレ!?」

「……ふふっ、私の勝ちです。約束は守ってもらいますよ?」


 そしてあっさりサイトの腕を倒してしまう女神。その後、約束通りサイトは喫茶店でケーキと紅茶を二人に奢る羽目になったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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