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第57話 一網打尽

 時は今より三時間程遡る。

 女神の機転でサイト達が迷宮から無事に脱出に成功した時の話。


「はぁはぁ……なんとか間に合ったな……」

「め、女神様……じゃなくてミリアム様のお陰で助かりました……」

「死ぬかと思った……」


 無事命は助かったものの、四人は疲れ果ててクタクタな状態だった。女神は周囲を見渡して誰もいないことを確認して静かに言葉を発する。


「三人共、命が助かって安堵するのは分かりますが、すぐにここを離れましょう。もしストレイボウに私達が生きている事を知られると面倒な事になります」

「……そうだな。休みたいし何処かに隠れよう」


 俺達は女神の言葉に同意して場所を移すことにした。


 ◆◇◆


 そして、俺達は人目の付かない木陰に身を潜めてこの後の身の振り方を話し合っていた。


「……さて、この後に私達がするべきことですが」


 女神は俺達に意見を求める様に視線を向けてくる。


「とりあえず、あのクソゴミ野郎は制裁だな。出会ったらただじゃおかねぇ」


 クソゴミ野郎とは勿論ストレイボウの事である。アイツの事を考えると腸が煮えくり返って顔を見たら顔面が凹むまで殴り続ける自信がある。


 普段なら俺の乱暴な言動にカルミアちゃんは嫌な顔をする。しかし、今回ばかりはそうでも無さそうでカルミアちゃんはこう口にする。


「あの人は私達を殺そうとした。それは決して許しちゃ駄目な事だと思います。

 でも、次に会ったら私はあの人の真意を問い質したい。その時素直に謝罪をしてくれるのなら、私はあの人を許そうと思います」


 彼女のその意見に俺は渋い顔をして言い返す。


「カルミアちゃん、それはちょっと甘すぎだろ。あいつが”独裁のレイス”に命令されて仕方なくやったと考えてんのか?」

「自分でも甘いのは分かってるんです。でも……どうしてもあの人に騙されていたというショックが強くて……」

「まぁ気持ちは分かるけどよ……」


 どっちにしろ俺はストレイボウを許すつもりはないが。

 ただ、彼女がそれを望むならいきなり殴りかかるのだけは止めとこう。


「だけど、なぁなぁで済ますつもりはないぜ。アイツが俺達にやったことを他の奴らに言いふらせばアイツだってただじゃすまないだろう。少なくとも社会的制裁と法的刑罰は受けて貰わねぇと」

「リリィも異論無い……ギルドを裏切ったあの男は許せないもん」


 俺の言葉に幼いリリィも同意してくれる。

 だが、女神は深刻そうな表情を浮かべる。


「どうした?」

「私もあの愚かな人間を許すつもりはありません。ですが、奴の罪を告発するのは難しいと思います。奴が私達を殺そうとしたのは事実ですが、明確な証拠が無ければ言いくるめられるのがオチでしょう」

「俺達の言葉が証拠にならないか?」

「物的証拠がありません。おそらく奴は迷宮内に何かを仕掛け、更にサイトさん達を誘導する様にゴーレムを何らかの方法で操ったのでしょう。しかし、肝心の迷宮が崩壊してしまって調査することも出来なくなりました」

「ちっ、確かにな……」

「ストレイボウ、昨日このイザレの大空洞に仲間達と一緒に探索したとか言ってた。多分、その時に爆弾を仕掛けたんだと思う。ゴーレムも多分、魔道具か何かで操ったんじゃないかな……」


 リリィはそう推測する。


「でも、それを証明する手段が無いって事ですよね」

「ええ、このまま帰って訴えたとしても証拠不十分でストレイボウの罪は裁かれない可能性が高いでしょう」

「……なら、奴の仲間を探して無理矢理吐かせたらどうだ?」


 俺はそう提案するが……。


「おそらく、その仲間はただの冒険者ではなく奴と同じ”黒炎団”の仲間でしょう。簡単に口を開くと思いません」

「それに誰が仲間なのか私達に判別が出来ないし……リリィちゃん、何か知らない?」


 カルミアちゃんは、この中で最もストレイボウと付き合いがあったはずのリリィに問いかける。


「……あの男とよくつるんでた冒険者は知ってるかも」

「リリィちゃん、その冒険者達の事を教えてくれないかな?」

「分かった。でも、その前に……」


 リリィはそう言いながら、ポケットの中から青い石を取り出す。


「リリィ、その石は結局何だったんだ? ダンジョンでアイツと話してた時も取り出してたよな?」


 俺はリリィの手の中に収まったその青い石を見ながら問いかける。


「魔力の籠った鉱石を加工した魔道具だよ。一度使うと壊れてしまうんだけど……」

「それが、今何か関係あるの?」

「うん」


 リリィはカルミアちゃんの質問に頷いて答える。


「これが、さっきミリアムが言ってた『証拠』になると思う」

「どういうことです?」

「あのね――」


 リリィはそう言って、俺達にその魔道具の効果を告げるのだった。


 ◆◇◆


 そして、今―――


 リリィは沢山のギャラリーとストレイボウの前で、その青い石の効果を発動する。宙に浮かび上がって周囲を照らすその光と共に、何処かで聞いたことのある声がギルド内に響き渡る。


『リリィ達を閉じ込めて何がしたいんですか!!こんな大罪をレガーティア王国に知られたら極刑モノですよ!!』


『はっはっは! 確かにそうだろうねぇ……でもねぇそれを知る者が居なくなれば、極刑なんて恐れる事なんかないさ』


「……なっ!?」


 ストレイボウはその音声を聞いて驚愕する。その声は、リリィと紛れもない自分の声……ストレイボウの声でギルド内に響き渡ったのだから。


 更に、青い石から音声は流れ続ける。


『……テメェ、俺たち全員を生き埋めにでもして殺すつもりか?』


『正解だよ、サイト君。未熟な上に馬鹿そうな顔の割に意外と洞察力あるじゃないか。褒めてやるよ』


 次はサイトの声。そしてその言葉に小馬鹿にしたような口調で返答するストレイボウの音声だ。


「……こ、これは……まさか、あの時の……!」


 ストレイボウは気付き始める。この音声は、自分が彼らを生き埋めにして去ろうとする直前に冥土の土産として残した自分の言葉だった。


 そう、リリィが持っていた”青い石”は、音声を記録するための魔道具だったのだ。


 更に音声は続く。


『済まないが、命乞いをするのはもう遅いよ。キミとカルミア君には一度チャンスをあげたつもりだったんだけどねぇ。こうなってしまった以上、君達も一緒に死んでくれると嬉しいな』


『女二人も殺せるなら殺せって命令だったけど、見た目が好みだから生かしてやろうと思ってたんだけどねぇ。ああ、そうそう。リリィ君は偶然キミ達に巻き込まれた哀れな被害者だよ。恨むならボクじゃなくて彼を恨んでくれ』


「ストレイボウさん……まさか、本当に……!」


 その音声に周囲のギャラリーも、それが紛れもなくストレイボウの声だと気付き始める。


「や、止めろ……リリィ君、再生を止めてくれ!!」

「何が止めろだ。全部お前が冥土の土産とか言ってベラベラ喋り始めたんだろうが、黙って聞いてろ」


 ストレイボウの懇願にサイトは冷たく言い放つ。ストレイボウは絶望した様な表情を浮かべるが、そんな事はお構いなしに音声は続く。


『……ストレイボウ、テメェまさか!』


『……フヒヒ……! そうさ、そうだよ。ボクは”黒炎団”の団員の一人だ。元々は別の目的でこの国の冒険者ギルドにスパイとして潜り込んで居たんだが、頭領から直々にキミ達がこの国に現れたら殺せと命令を受けていたんだよ』


『……黒炎団? それって世界中で指名手配されてる凶悪な犯罪組織じゃ……?』


『……その”頭領”ってのは”独裁のレイス”の事だな』


『話が早いね。まぁこれで君達を殺そうとする理由が分かっただろう。なら大人しくこのまま死んでくれ』


 その音声の中にはサイトやリリィの声も混じっていたが、ストレイボウが口にした言葉が致命的だった。

「こんなことが……!」

「こ、黒炎団だと……ストレイボウさん、アンタ本当に……!」


 音声に耳を傾けていたギルド職員たちがざわつく。


「……ストレイボウさん、全ての悪行をここで告白してください。今なら間に合います」

「うるさいっ!!!!」


 カルミアちゃんがそう言って奴を問い詰めるが、ストレイボウは怒り狂った表情で吠えて剣を抜く。


「っ!!」

「お前達のせいでボクの計画が全て台無しだ!! その命で詫びろっ!!」


 ストレイボウはそう言ってカルミアちゃんに向かって走り出す。


「カルミアさんっ!」

「お姉ちゃん!!」


 女神とリリィが同時に叫ぶ。


「うわぁぁぁっ!!」


 ストレイボウは叫びながらカルミアちゃん目掛けて剣を振り下ろす。が……。


 ――ヒュッ、カキンッ!!


「……なっ」


 ストレイボウは殺意を込めて彼女に斬り掛かった。

 しかし、奴よりも遅れて抜剣した彼女に呆気なく受け流されてしまう。

 カルミアちゃんは悲し気な表情でストレイボウを睨み付け、一言。


「……サイトさん、もう話し合いは……後はお願いします」

「おう!」


 いつでも飛び出せるようにしていた俺は彼女の声でストレイボウに肉薄して、奴が使っていた剣を奴の手から弾き飛ばす。


「くっ……!」


 ストレイボウは丸腰になってしまう。

 だがそれでも奴は抵抗しようと殴り掛かって来る。

 しかし殴り合いは俺の土俵だ。


「テメェの負けだ、クソ野郎!!」


 俺は奴の拳を左の掌で受け止めた後、右の拳を握りしめ奴の顔面目掛けて振り切る。


「ぐぶっ……!!」


 俺の拳は奴の顔面を直撃し、ストレイボウは鼻血を出してよろめく。


「おー、良い顔になったじゃねえか。普段のニヤケ面よりもよっぽどテメェに似合ってるぜ?」

「き、き、貴様……よくもボクの顔を殴ったなぁぁぁ!!」


 ストレイボウは怒り狂って俺に再び殴りかかってくるが、今のでダメージを受けたのか動きが鈍い。


「オラァァ!!」


 俺は奴の拳を再び受け止めて更に顔面に一発。更に追撃で奴の鳩尾目掛けて拳を突き立ててやる。


「くらえっ!!」


 そしてインパクトの直前に俺の拳を魔法で強化する。これは女神に教わった<強化>という無属性の魔法だ。俺の魔力が低すぎて一日に数回が限度だが、拳を鉄のように固くしてパンチの威力を上げることが出来る。


 これで鎧越しのストレイボウにも衝撃を貫通させてダメージを与えることが出来る。


「ごはっ……!!」


 奴の身体がくの字に折れ曲がり、そして奴は膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れこんだのだった。


「……寝てろ」


 俺は最後に一言奴にそう告げる。そして、息を整えて顔を上げるとギャラリーから歓声が上がる。同時に何人かの冒険者が後退って、ギルドの出口から逃げ出そうとする。


 その時、リリィは叫んだ。


「アイツら、ストレイボウの仲間だよ!!」


 リリィの叫び声にすぐ反応した女神は、逃げ出そうとする奴らに視線を向けて一喝する。


「<天罰>!!」


 女神の言葉と同時に、逃げ出そうとしたストレイボウの仲間達は突然ピタリと動きを止める。


「な、何だこれは……」


 彼らは自分の身体に異常を感じ始める。

 身体が鉛のように重く動けなくなっていた。


「ギルド長、アイツらを拘束してくれ」

「は、はい……!」


 俺がそう頼むとギルド長は衛兵を呼んでストレイボウの仲間達を拘束する。


 ……こうして、ストレイボウとその仲間達は全員ギルドに拘束されて連行されていったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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