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第55話 悪意

「ど、どうして……? さっき見た時はこんな状態じゃなかったのに……」


 カルミアちゃんがそう呟いた。


「……おい、ミリアム。これは一体どういうことだ」

「……わ、私も何が何だか……彼女の言う通り、さっきまではこんな状態じゃなかったんです……!」


 女神は俺の質問に珍しく焦ったように答える。


「じゃあ、もしかしてゴーレムが?」

「いや、ゴーレムはずっと俺達を追い回してたし、二人が探しに来る時は無事だったんだろ? だからあのデカブツが壊したってのは考え辛いな」

「……じゃあ、誰が?」


リリィが困惑した顔で呟いた。


「……情報が足りねぇ。自然に崩れたとしてもあまりにもタイミングが悪すぎる。誰かが俺達を閉じ込めるためにやったみたいな……」

「……閉じ込めるため?」


 俺の言葉にカルミアちゃんと女神が顔を見合わせる。


「……女神様」

「……まさか、あの男が……!?」

「二人共、何か心当たりがあんのか?」


 俺が二人にそう問いかけると、二人は俺から顔を背けて言い辛そうな顔をする。そして覚悟が決まったのかカルミアちゃんが何かを口にしようとする。


「ひ、人を疑うのはいけないと思ってますが――」


『――おいおい、何の根拠もなしに他人を疑うなんて失礼だなぁ、カルミアちゃん』


 カルミアちゃんの声に被せる様に、ここには居ない誰かの声が聞こえてくる。声の方向を考えるのであれば、おそらく瓦礫の向こうだろう。僅かに見える瓦礫の隙間から声が漏れているようだった。


「「!?」」

「おい、このいけ好かない声……聞いたことあんぞ」

「ま……まさか、ストレイボウ?」


 俺とリリィがその聞き覚えのある声の人物を言い当てる。すると、瓦礫の向こうから、パチパチと手を叩く音と、男の笑い声が聞こえてくる。


『ふふふ……ははは……ハーッハッハッハ!! ……大正解さ、リリィ君!!!』

「!!」


 リリィはその返答に酷くショックを受けた顔をし、幼い彼女には珍しく怒りの籠った表情で瓦礫の向こうを睨みつける。そして、ポケットから見慣れない青い石を取り出す。


「おい、リリィ……それは一体――」


 質問を投げかけようとしたのだが、リリィは俺の言葉を遮るように叫んだ。


「リリィ達を閉じ込めて何がしたいんですか!!こんな大罪をレガーティア王国に知られたら極刑モノですよ!!」

『はっはっは! 確かにそうだろうねぇ……でもねぇそれを知る者が居なくなれば、極刑なんて恐れる事なんかないさ』

「な、何を言って……」

「……テメェ、俺たち全員を生き埋めにでもして殺すつもりか?」

『正解だよ、サイト君。未熟な上に馬鹿そうな顔の割に意外と洞察力あるじゃないか。褒めてやるよ』

「あぁん!? ふざけやがって……何様のつもりだ!?」


 あからさまに見下した態度に俺はブチギレ寸前の状態だったが、そこに女神が俺の背中を手で抑えて口元に手を当てる。


 そして、俺に代わるように女神が口を開く。


「……愚かな人間……いえ、ストレイボウさん。質問いいでしょうか?」


 明らかに侮蔑の言葉が混じっていたが、女神は感情を抑えて普段遣いの口調で奴に質問する。


『なんだいミリアムさん。済まないが、命乞いをするのはもう遅いよ。キミとカルミア君には一度チャンスをあげたつもりだったんだけどねぇ。こうなってしまった以上、君達も一緒に死んでくれると嬉しいな』

「……貴方如きに命乞いなど、この身が滅びようともするつもりはありません。ですがストレイボウ、貴方の目的は一体なんですか? ただの冒険者である貴方が私達を殺そうとする理由が分かりません」

『……フヒ、フヒヒ』


 女神がそう質問すると、ストレイボウは気色悪い笑い声を上げる。


「……何笑ってやがる」

『ああ、すまないね。ボクがただの”冒険者”だと思われていたことに笑ってしまってねぇ。まぁいいさ……冥土の土産にヒントを上げよう……ボクが命を狙ったのはあくまで君だよ、サイト君』

「……何だと?」


 俺の命が狙われていたことは意外だがそれ自体は今更驚きはしない。だが、奴と俺は今日初めて出会ったばかりで一切関わりが無かったはずだ。


『女二人も殺せるなら殺せって命令だったけど、見た目が好みだから生かしてやろうと思ってたんだけどねぇ。ああ、そうそう。リリィ君は偶然キミ達に巻き込まれた哀れな被害者だよ。恨むならボクじゃなくて彼を恨んでくれ』

「な、何よそれ……そんな身勝手な理由でリリィ達を殺そうとしたんですか!?」

『ああ、ボクにとってキミ達の命などどうでもいいのさ』

「……っ!!」


 ストレイボウの言葉にリリィは怒りで顔を真っ赤にさせるが、女神はそれを制する。


「……今、『命令』という言葉を使いましたね」

『……おっと、口が滑ったかな』

「……貴方は、最初から私達を殺すつもりだったんですね。そして『命令』というからにはそれは他人からの差し金ということ……」

「……ストレイボウ、テメェまさか!」


 俺は奴の目的に気付き、思わず大声を上げる。


『……フヒヒ……! そうさ、そうだよ。ボクは”黒炎団”の団員の一人だ。元々は別の目的でこの国の冒険者ギルドにスパイとして潜り込んで居たんだが、頭領から直々にキミ達がこの国に現れたら殺せと命令を受けていたんだよ』

「……黒炎団? それって世界中で指名手配されてる凶悪な犯罪組織じゃ……?」

「……その”頭領”ってのは”独裁のレイス”の事だな」

『話が早いね。まぁこれで君達を殺そうとする理由が分かっただろう。なら大人しくこのまま死んでくれ』


 そして、ストレイボウは一方的に言いたい事だけ言い捨てて会話を切ろうとする。


「……待って、ストレイボウさん!!」


 しかし、それをカルミアちゃんが呼び止める。


「……ストレイボウさん。その頭領の目的が何か分かってるんですか?」

『目的……? 頭領が何を考えているかなんて知ったことではないよ。話はそれだけかい。じゃあボクはこれで帰らせてもらうよ。では残された時間を楽しんでくれ。……もっとも、すぐ死ぬことになるが』

「待って! お願い、話を聞いて!!」


 カルミアちゃんは必死にストレイボウに呼びかける。しかし、それ以降ストレイボウの返事が返ってくることは無かった。


 ◆◇◆


「……クソ、あの野郎!!」


 俺は壁を強く殴りつけて、怒りを吐き捨てる。


「あ、あの……お兄さん達は”黒炎団”とどういう関係があるの?」


 すると、リリィはさっきまで取り出していた青い石をポケットに仕舞って俺に質問してくる。


「……ああ、グリムダールの方で色々あって敵対関係になったんだよ」

「それ以降、私達は”黒炎団”に対抗する戦力を集めてるんです。おそらく、奴らはそれを嗅ぎつけて命を狙ってきたんでしょうね」

「……私達のせいで、リリィちゃんを巻き込んでしまってごめんなさい」

「……そうだな、俺達のせいでお前に迷惑を掛けた」


 カルミアちゃんと俺はリリィにそう謝罪をする。

 しかし、リリィは首を横に振る。


「悪いのは全部ストレイボウだよ。お兄さんたちは何も悪くない」

「リリィ……」

「それよりも、ストレイボウは最後に『すぐ死ぬことになる』と言ってたのが気になる。もしかしたら、このダンジョンに何か仕掛けたのかも――」


 リリィがそう言うと同時に、ダンジョン内に凄まじい大きさの爆発音が響き渡る。


「「「「!!」」」」


 そして、数秒後……ダンジョン内が激しく揺れ動き始めた。


「な、何だ!?」

「……ま、まさかこのダンジョンが崩れかけてる……?」


 女神がそんな事を言い出す。リリィはその言葉に頷いて答える。


「間違いないと思う……そうでもなきゃこんなに激しく揺れ動くのは不自然過ぎる……!」

「多分、迷宮を支える柱を同時に爆破したんだと思います!」

「ど、どうする!? 逃げるにしても階段は瓦礫に埋まってるぞ!!」


 俺は焦りながらそう問いかける。すると、女神は俺達に大きな声で言った。


「――私に考えがあります! 三人共、私に付いて来て!!」


 女神はそう言って走り出す。俺達は迷う時間など無く彼女を信じて後を付いて行った。


 ◆◇◆


 それから1分程走って。


「あそこです!!」


 女神が案内したのは、俺とリリィが落ちてきた部屋だった。

 彼女は穴の開いた天井を指差して、自身の能力で空に浮かぶ。


「三人共、私の身体を掴んでください。脱出しますよ!!」

「わ、分かった!」

「はい、女神様!」

「すまねぇ!」


 そして俺達は女神の身体に掴まって地下一階まで浮上して、その後に出口まで全力で走る。


「……っ」


 だが、体格の小さいリリィだけはどうしても遅れてしまう。


「リリィ、俺に捕まれ!」

「わっ!」


 俺はそう言いながら返事を聞かずにリリィの身体を両手で抱えてそのまま全力疾走。


「うおおおおおおおおおお!!」

 

 カルミアちゃんと女神の二人が先に出口から脱出し、俺が数秒遅れてようやく出口に到達する。そして俺達が脱出するとほぼ同時に、迷宮は音を立てて崩れ落ちたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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