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第53話 逃げ惑う二人

 何とか追跡してきたゴーレムを倒したサイト。


 その後、リリィが泣き付いてくるなど微笑ましい出来事もあったが、彼女が落ち着いてからサイトは部屋の奥にこっそりと置かれていた小さな宝箱の事を思い出した。


「んで、この小箱のなんなんだ? もしかしてお宝か?」


 俺は初めて見つけた宝箱っぽいものを見つけてテンションが上がっていた。


「分かんない。でも散々探索され尽くした地下二階だし、中身は空だったりして」


 泣いていたリリィは今は落ち着いており、置かれていた小箱を見てそんな事を言う。


「念のため確認してみるか……オラァ!」


 俺は宝箱の蓋を勢いよく開く。すると金銀財宝が盛り沢山……なんて都合の良い展開など無く、埃の被った本がぽつんと置かれていた。

「……」

「……」


 あまりの中身のショボさに顔を見合わせる俺達。


「……いや、うん。別に期待なんてしてなかったし、予想通りで肩透かし喰らったくらいだから」

「何に対して言い訳してるんだよ?」


 リリィの突っ込みを聞き流しながら、俺は宝箱の中の本の表紙を手で軽くて叩いて埃を取る。


「これ……表紙になんて書いてあるんだ?」

「え……うーん、なんだろ。タイトルは擦れて読めなくなってるね」

「まぁ折角見つけたし持って帰るか」


 俺はそう言って特に何も考えずにその本を手に取る。


 ――カチッ


「うん?」

 俺とリリィは何かのスイッチが入ったような音に一瞬困惑する。


 ――ピーポーピーポーピーポー!!!


 突然、ダンジョン内にサイレンのような音が鳴り響いた。

 こ、この音は……!


「救急車!?」

「いや、きゅーきゅーしゃって何。これ魔物を呼び寄せる罠だよ! 早く逃げないと!」


 リリィは冷静に状況を分析して、慌てて俺を部屋の外に引っ張ろうとする。俺も手にした本を仕舞ってから動こうとするのだが、時既に遅し。


 俺達が部屋から出るとサイレンの音に呼び寄せられた魔物達が通路から次々と現れていた。こちらに気付いた魔物達は叫びながら迫ってくる。


「やべぇぞオイ!」

「ちょっ……どうするの!?」


 リリィが俺の裾を引っ張って聞いてくる。


「どうするもこうするも逃げるしかねぇだろ!」


 そう言って、俺は剣を取り出して魔物達に向かって叫ぶ。


「オラァ! 冒険者見習い様がお通りだ! 雑魚は退きやがれっ!!」

「その名乗りだとこっちの方が雑魚っぽくない!?」

「うっせぇ! 俺の背中に捕まれ! いいか、絶対離れんなよっ!」


 俺がそう怒鳴るとリリィは慌てて俺の背中に乗っかって、俺のお腹辺りに手を回す。


「よっしゃあ、行くぜ!」

「だ、大丈夫? 本当に大丈夫!?」

「心配すんな! 心配しても死ぬときは死ぬから!!」

「安心できる要素無い!!」


 リリィが何かを喚いているが、俺は無視して走り出して魔物達に突撃する。


「オラァッ! 死にてぇヤツから掛かって来いや!」


 そんな俺の挑発に魔物達は怒りの表情で向かって来るのだった。



 ほぼ同時刻。地下二階に降りてサイト達を捜索していたカルミアと女神は、突然鳴り響くサイレン音に驚いて足を止める。


「女神様、今の音って……」

「推測ですが、この階層に設置された罠に誰がが触れたのでしょうね」

「罠」

「この手の罠といえば、周囲に警戒を呼び掛けて魔物を呼び寄せる罠が定番だと思います」

「ならやっぱりこの階層の何処かにサイトさんがっ!」

「あっ」


 カルミアはそう言うと慌てて通路を駆け出し、女神もそれを慌てて追いかける。


「ちょ……罠が仕掛けられているかもしれないんですよ! もっと慎重に……!」


 女神はそう注意するが、案の定カルミアが通ろうとした床からカチッと音がして、彼女目掛けて何処からか木の矢が飛んでくる。


「カルミアさん、あぶな――」「邪魔ですっ!」


 が、カルミアは自分の真横から飛んできた矢を短剣であっさり叩き斬る。


「待ってて、二人ともっ!」


 そして、彼女はそのまま通路の奥へと消えていき、女神は溜息を吐きながら彼女の後を再び追い始めるのだった。


 ◆◇◆


「オラァ!!」


 俺はすれ違った魔物を剣でけん制しながら必死に逃げ回る。しかし、背中にリリィを背負ってる事もあり体力的にかなり辛いことになっていた。


「ぜぇ……はぁ……くそ……もうちょっと運動しとくんだった……!」

「お兄さん、リリィを降ろして!」

「降ろすってお前……!」


 俺はリリィの声に反応しながら追いかけてくる魔物達をチラリと見る。最初の方は数匹だった魔物が、今では10匹以上追いかけてもはや収拾のつかない状態になってきていた。


「こんな状況で止まったら――」

「いいから!」

「っ!」


 俺はリリィの言う通り足を止めて彼女を地面に降ろす。するとリリィは自分の上着のポケットから何かが入った小袋を取り出して、その中身を地面にばら撒く。そしてリリィはこちらに振り返って俺に声を掛けて来て魔物と逆方向に走り出す。


「行くよ、お兄さん!」

「お、おう!」


 状況を理解しきれない俺はリリィの言葉に困惑しながら彼女の言う通りに再び走り出す。そして俺達を追いかける魔物達が彼女が何かをばら撒いた床を通ろうとすると……。


「GYAAAA!!」

「グギギギギギ!!!」


 魔物達は突然、うめき声を上げて痛がり始めた。

 俺達は一旦足を止めて、魔物達の動きを再び注視する。


「な、なんだ?」

「足元にこれを撒いたんだよ」


 リリィはそういいながらトゲトゲな形をした木屑のような物を見せてくる。


「なんだそれ?」

撒き菱(まきびし)

「マキビシ?」

「とある木に生る果実を乾燥させてそれを薬で固めたモノだよ。乾燥させて薬漬けすることで皮の部分が鋭利に尖って果肉部分も膨張して凝固することで凄く固くなるから、それを踏んだ魔物の足が傷つくって訳」

「詳しいな」

「で、その次はこれ」


 リリィは胸を張ってそう言いながら、更にポケットから俺に木と紐がくっついた棒を二つ取り出して片方を俺に押し付けてくる。


「これは?」

「お兄さん、スリング知らないの? こうやって小石を紐に引っ掛けて――」


 リリィは片手に木の棒をしっかりと握り、紐に引っ掛けた小石を自分の方に引っ張ってから狙いを定めて投げ飛ばす。すると、小石は放物線を描いて飛んでいき……撒き菱を足に受けて悶えていた魔物にぶつかる。


「グギャッ!!」


 そして、その魔物の脳天を貫通してそのままひっくり返ったよ。


「ね? こうやるんだよ」


 リリィはそう言って俺にスリングのやり方を教えてくる。

「や、やるじゃねえか……!」


 そんな便利な物持ってるならもっと早く出せとか突っ込みたくなった。だが、ゴーレムにそんな小手先の武器が通用するわけがないし、さっきまで逃げる事優先だったからそんな暇も無かったんだろう。


「よ、良し。ある程度体力が戻るまで足止めしてからまた逃げるぞ!」

「うんっ」


 こうして俺達は撒菱で魔物の足止めをしながら逃亡を続けるのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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