第52話 VSゴーレム
再び迷宮へと舞い戻ったカルミアと女神はサイト達と別れた場所に向かう。
そして、二人は愕然とした。
「……これは」
「……い、一体何が……」
二人が見たものは、地下一階のダンジョンの壁が無惨なほど破壊され、瓦礫の山になった場所だった。
そして破壊された壁の傍の床には真っ暗な大穴が空いており、道が完全に閉ざされて先に進めなくなっていた。
「まさか、サイトさん。この下に落ちて……!」
「何があったか不明ですが緊急事態ですね……街に戻って救助を――」
「サイトさんっ!!」
「ちょっ……」
カルミアは女神の言葉を全て聞く前に、その身を穴の中へ飛び降りていく。
「あの子……どれだけ彼が好きなんですか……ああ、もう!」
女神は突飛な行動をするカルミアに呆れつつ、自身の魔力で宙に浮きあがってカルミアの後を追うのだった。
◆◇◆
「ハァ……ハァ……!」
俺は息を切らしながらリリィの手を引いて走る。
「お兄さん、このままじゃ追いつかれる!」
「クソッ、あんな重そうなガタイなのにどういう構造してるんだよっ!」
俺は後ろに迫ってきている巨体のゴーレムを振り返って悪態をつく。
「なんとかしねぇと……!」
俺は走りながら周囲の様子を確認する……が、右を見ても左を見ても壁ばかりで抜け道になりそうな物など見つからない。
この地下二階のダンジョンはだだっ広いが隠れる場所は殆ど無く限定されている。小部屋などに籠って逃げようと考えた事もあるが、そこに別の魔物が待ち構えていたり、ゴーレムが強引に入って来たら逃げ場がなくて詰んでしまう。
なので俺達は体力が続くかぎり通路を逃げ続けて登り階段を探しているというわけだ。しかしいい加減こちらの息が続かなくなってきて限界が近い。
ゴーレムの方は早くはないが一定のスピードから変化が無く周囲の壁や障害物を破壊しながら俺達を追い掛けてくる。このままではいずれ追い詰められてしまう。
「お兄さん、あそこ!!」
リリィが指差す方を見ると小さな小部屋が見える。俺は藁にも縋るような気持ちでそこに飛び込む。
小部屋の中には魔物の姿は無かったが、壁沿いに奥へと続く通路を見つける。俺達はその通路へと逃げるように入っていく。
そのまましばらく走り続けると別の部屋にたどり着く……が、そこは何も無い行き止まりだった。唯一、奥の方に小さな木箱のようなものが見えたが、そんな物この状況では何の役にも立たないだろう。
「や、ヤベェ……こうなったら戦うしか!」
俺は覚悟を決めて、部屋の中央で追いかけてくるゴーレムを待ち構える。
「む、無茶だよ! 普通の冒険者じゃまず勝てないし、キミはそれ以前に見習いでしょ!?」
「馬鹿野郎、ここで何もしなかったら殺されちまうだろうが! ……いいか、俺が囮になるからお前は俺が引き付けてる間に逃げろ。
そして何処かに隠れてカルミアちゃん達が助けに来るのを待つんだ……ストレイボウの野郎の事は知らないが、二人は信頼できるから絶対助けに来てくれる!」
「……! 駄目、お兄さんが殺されちゃう!」
「迷ってる場合か! 良いから俺から離れて――」
―――ドゴォォォォ!!
……と、周囲の通路の壁を破壊しながらゴーレムが部屋の壁にぶつかる音が聞こえた。
その衝撃に俺達は地面に倒れそうになるが、何とか支え合って堪える。
「き、来た……!」
「クソ……何か策は無いか……!」
俺は左腕にしがみ付くリリィを抱えながら、もう一度部屋の中を見渡す。
やはり隠れる場所も隠し通路なども見当たらない……が、一瞬床と壁に何かしらの違和感を覚えて、その違和感のあった場所に再び視線を巡らせる。
すると―――
「――あった」「え?」
俺の言葉にリリィは疑問符を浮かべるが、俺はその違和感の正体を見つけてニヤリと笑う。
「リリィ!」
「な、何!?」
「俺から離れてろ。なるべく部屋の奥まで行って身体を小さくして目立たなくするんだ。その間、俺は――」
――ドッゴォォォ!!
そして、轟音を立てながら部屋の壁を粉砕して入ってきたゴーレムとついに相対する。
「俺は、アイツを倒す!」
そう言って俺は無謀にも自らゴーレムに突っ込んでいく。
「お兄さん!」
「……っ」
必死の声で俺を制止するリリィに、俺は大きな声で応える。
「大丈夫だ、俺を信じろ」
そう言って俺はゴーレムに駆けていく。
『!!』
ゴーレムは迫ってくる俺のみに標準を合わせたようだ。リリィを狙う事を止めてくれるのは好都合。これで俺の作戦を実行できる。
ゴーレムは岩で出来た重量感たっぷりの巨大な腕を振り上げ俺を一撃の下に潰そうと突っ込んでくる。
俺はその攻撃を防御―――などしない。
あんな一撃を貰ってしまえば掠り傷だろうが即死だ。ならばここは例の床に誘導するためにも回避に全力を注ぐ。
「うおおぉぉっ!」
ゴーレムの攻撃をギリギリまで引き付けて、俺はスライディングで床を滑る。そしてそのまま一気に部屋の奥に滑り込み、例の床の直前で剣を立てて反動を付けてジャンプし一気に跳ぶ。当然ゴーレムは俺を追いかけてくるが、何も知らないコイツはまんまと俺が誘導した床の罠に掛かった。
――カチッ
『!?!!』
ゴーレムがその床を踏むと何かのスイッチ音と同時に、ゴーレムの周囲の石床が10㎝ほどガクンと沈む。それと同時にゴーレムの射線上にある壁が物凄い勢いで動き出してゴーレムに激突する。
――ドッゴォォン!!
そして、ゴーレムは反対側の壁まで突飛ばされる。
いくら巨体のゴーレムといえどもそれ以上の質量で突飛ばされたら物理法則に基づいて吹っ飛ぶ。その後、反対側の壁まで吹っ飛んで派手に周囲を壊しながら地面に落下するゴーレム。
――カチッ
『……!!?!?』
再び何かのスイッチ音が部屋の中に響き渡る。
すると、ゴーレムが落下した地点の床がパカっと大きく左右に開く。
『!?!?』
ゴーレムは重力に従って落下し、そのまま暗闇の中に落ちていってしまった。数秒後……物凄い地響きと何かがバラバラと崩れる音が聞こえ、その後静寂に包まれた。
「……ふー、何とかなったな……」
俺は顔に流れていた汗を手で拭って、奥で尻餅を付いていたリリィの元へ向かう。
「お、お兄ちゃん……」
「リリィ、全部終わったぞ……って、どうした? もう大丈夫だから立ち上がって問題ないぞ?」
俺はそう言って手を差し出すが、リリィはその手を取らずに俺に突進してきた。
「バカッ!!」
「うぼぁー!!」
リリィは俺の胸板に頭突きをかまし、そのまま俺の胸に顔を埋めて泣き喚いた。
「なんであんな危ない事するのっ!! 下手をするとそのまま死んじゃう所だったんだよ!?」
「お、俺が格好良くて惚れたか?」
「ちがーう、ぱーんち!!!」
「うぼぁー!!」
今度は俺の頬にねこパンチをかましてくる。
そして再び顔を埋めて泣き続けるリリィに、俺は彼女の頭を撫でて言った。
「よしよし……お前もここまで頑張ったな、リリィ……」
「……ぅぅ」
そうして、俺は彼女が泣き止むまで胸を貸したのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
気に入っていただけたら、いいねや高評価、感想をお待ちしております。




